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【連載小説】透明な彼女 vol.5「ユイ?」

あれから二年。


俺には彼女ができたりなんかもしたけれど、誰とも長く続かなかった。


二年という月日は長いのか、短いのか。

俺は卒業の年を迎えていた。

何度も何度もユイが生き返らないかと思っては諦め、空虚な毎日を送っていた。



あの日からちょうど二年目、夏休みも終わりかけたその日、俺はユイの墓参りに来ていた。

ユイの好きだったガーベラの花を供えると両手を合わせた。


がさがさッ。

なにか音がする。

がさがさがさがさッ。

ほら、向こうの植え込みのところから音がする。


俺は閉じていた目を開けると、そちらへ目をやった。

年齢は十歳から十二歳くらいの女の子が立っている。

俺は何してるのかなと思い、少女を見つめる。


すると、少女は

「コウヘイ、久しぶり」

と言う。

「あれ?えーと?」

俺は親戚にあんな子がいたかなと、思い巡らせた。

知らない子だ。

「コウヘイ、私がわからない?」

「すみません、あの、人違いじゃ……」

「人違いじゃないよ。今年も来てくれたんだ、お墓参り」

「え……あぁ、はい」

「私がわかんないかなぁ?子どもみたいになっちゃってるもんね!」

「はあ?」

「ユイだよ、コウヘイ、あたしだよ、ユイ」

この子はからかっているんだ、と思ったら急にカッとなってつい怒鳴ってしまう。

「誰だか知らないけどね、大人をからかうもんじゃないよ!しかも、亡くなっている人をネタにして!」

「あたしがユイだって言ってるのに……」

少女は膨れっ面だ。

「あ、そうだ、これならわかるかな?」

「なんだよ!?」

「コウヘイさ、覚えてる?水族館で私に言ったこと」

「水族館で?」

「あたしが、死んだら魚になりたいって言ったら、コウヘイ、食べられない魚にしてくださいって言ったよね」

けらけらと明るく笑う少女。

「……」

俺はなにも言えない。

「あたしが死んじゃう前の日に、一年記念の指輪をくれたじゃない」

それははっきりと、今でもはっきりと思い出せる。

「ユイ……本当にユイなのか?」

「うん!残念ながら指輪はサイズが合わなくてどこかにいっちゃったみたいだけどね」

俺は恐る恐る少女に近づくと手を伸ばした。

その手を受け止めるユイ。

手は冷たいけれど、懐かしい感触を思い出させた。

「ユイ!!!」

俺はユイを抱き締めて泣いた。

おいおいと泣いた。

ユイはずっと背中に手を回して、泣き止ませるかのように、ポンポンと背中を叩いた。

しかしユイの身体は小さく、肩の先にしか手は届いていなかったのだが。


俺はユイを連れて帰ることにした。

バスに乗り、見慣れた道を帰る。

バスを降りるとき、

「大人二人」

と言うと怪訝な顔をされたが、大人二人分の料金を払い、降車する。


まず連れていったのはユイの実家だ。

墓参りに行った帰りは毎年立ち寄ってお線香をあげるようになっていた。


俺は勢いよく扉を開けると、

「おばさん!ユイが帰ってきたよ!」

と、興奮覚めやらず言う。

おばさんは怪訝な顔をして言った。

「コウヘイくん、どうしてそんなことを……」

「いや、おばさん!俺連れてきたんだ、ユイを!ほら、そこに!」

ユイを指差すが、他の皆には見えないらしい。

ユイは、もういいよ、とコウヘイをなだめる。


落ち着いて、と言いながらおばさんは麦茶を用意してくれる。

「何があったかは知らないけどね」

おばさんは小さな声で続ける。

「もしも、ユイが戻ってきたなら、私も謝らなきゃいけないことがあってね……」

おばさんは続ける。

「あの日、ユイが出かけたのは私のせいなんだよ。私がつまらないことで注意したばかりに、怒ってユイは出かけてしまったの」

ユイは顔をぶんぶんと横に振ると言う。

「お母さんのせいなんかじゃないって!あたし、怒ってなんかいなかった!」

俺はユイの言葉を代わりに伝える。

おばさんは、

「ありがとう、ありがとう」

と繰り返して涙した。

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