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【連載小説】透明な彼女 vol.4「葬儀」

『コウヘイくん?ユイが、ユイが……!』

ユイの携帯からかかってきた電話の声の主はユイの母親だ。

ただ事ではない母親の声に俺はイヤな予感がした。

「ユイが、どうかしたんですか?」

『ユイが死んじゃった……!』

「えっ……?死んじゃった?まさか」

俺は病院の名前を聞くと、タクシーを急がせた。



タクシーを降りて病院に駆け込むと、受付で名前をいい、安置室へと通された。

俺は土気色になったユイの姿を見た。

お母さんが横で泣いている。

お姉さんと妹さんは壁に寄りかかって遠くを見ている。

お父さんはお母さんを抱き締めるように、そこにいた。



ユイは赤信号で突っ込んできたトラックにはねられ、死んだ。


運転手は、居眠り運転だったらしい。

かろうじて顔だけはきれいなまま、俺のユイは横たわっていた。



「おい……嘘だろ?起きろよユイ!起きろ!」

揺さぶってももうユイは起きない。

「嘘だといってくれッ……!」

ユイは冷たいままだった。



お通夜の晩、俺も一緒に立ち合わせてもらった。


もう、ユイのあの元気な姿を見ることは一生できない。

ユイの笑い声を聞くことは一生できない。

ユイの怒った顔を一生見ることはできない。

もう、ユイの――――


お通夜は静静と進んでいく。

俺はまだ、ユイがそこにいるんじゃないか、という気持ちで実感がわかなかった。

眠れなかった。



――葬式。

ユイの友達がたくさん来てくれる。

俺は親族席に座っている。

あのときの合コン仲間の顔もあった。

学校の先生らしき人がきて、

「この度は御愁傷様なことで……竹中くんの絵には才能がありました。今後を期待していたのですが……残念です」

と言った。


ユイの顔写真の周りには、今まで描いてきたユイの力作が並ぶ。

一緒に炊きあげるのだという。


俺はその中でも一番、ユイの好きだった絵をもらうことにした。


その絵のモデルは俺たち二人。

手を繋ぐ二人の姿が描かれていた。



葬式が進むにつれて、ようやくユイがいなくなった現実に向き合えるようになってきた。


ご焼香の列はまだまだ続く。

ユイは面倒見がよかった。

だから、後輩たちまで参列してくれた。


お経の音が静かに響き渡る。


俺のユイはもう戻ってこない。

俺はお経の中でいやというほど思い知らされた。


お経も終わり、出棺の時間になった。

俺たちはタクシーで火葬場まで行く。


火葬場に入ると独特な、寂しげな感じがした。

ユイはたくさんの作品と共に天高く登っていった。


お骨を一つ一つ丁寧に拾い上げていく。

そのたびにお母さんは泣く。

お父さんはそんなお母さんの側で寄り添うように立っていた。


俺もお骨を拾う。

こんなにユイは小さかったんだね、と思う。


不思議と、俺の中でくすぶっていた悲しみは薄らいでいった。

ただそこには、いとおしさだけが残った。


ユイは小さな骨壺の中に入ってしまった。

俺にも特別に小さな骨壺をもらい、そこにユイのかけらを入れてもらった。



俺とユイの恋は、終わった。

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