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【連載小説】公民館職員 vol.1「公民館」

私は今、絶体絶命の危機にさらされている。


「ユキ、大丈夫?」

「う、うん、なんとか……」

私はユキ。

この公民館で庶務をしている。

今日は公民館全体の委員会。

資料も揃えて、コーヒーを発注して、やる気満々、委員会の人たちを出迎えているときにそれは発覚した。


資料のページ、しかも数字の大事なデータが資料に挟まれていなかったのだ。

それは先輩職員である平野さんが扱っていた資料だった。


今、平野さんは本庁に外勤している。夕方まで戻らない予定だ。

平野さんに電話をかける。しかし、出ない。気づいて欲しいときに限って、出ない。


平野さんのパソコンを勝手に見ようとするが、パスワードがわからず開けない。

もうあと十五分で委員会は始まってしまう。

館長補佐が一緒に探してくれているが、見つからない。

自分のパソコンから、イントラで平野さんのパソコンを見るが、該当資料がない。


あと十分。

同僚のちずるが心配そうに見つめる。


残り時間あと五分。


そのとき、やっと平野さんが電話に出る。

資料はと聞くと、今、USBメモリで持ち歩いてしまっているという。


私は平野先輩に直近の部署で知り合いがいるところはないか、と尋ねた。


納税課に知り合いがいるという。

急いでそこへ行き、データをメールで送ってくれと懇願する。

データさえあれば、どうにでもなる。

平野さんが早く納税課に着くのが待ち遠しい。というより、早くしろと罵倒したい気持ちで一杯だ。


電話は切らずにそのまま待機する。

十時。運営審議会の始まる時間だ。

早くしてくれ!!


なんとか先輩は知り合いを見つけ、市役所のイントラメールでデータを送ってきた。


あとはこれをコピーして、何気なく委員の席まで持っていけばいい。


ギリギリ、数字の話になる前に、委員と全館長へ書類を引き渡すことができた。


ホッとする間もなく、コーヒーを注いで席に持っていく。


運営審議会とは、私たち公民館のあり方、方針、数字、そのデータを各専門の委員たちの意見を聞く、一年でとても大切なイベントの一つだ。


今日のようなことがあってはならないはずだった。


そもそも、事の発端は昨日。

館長まで決裁が終わった資料各々をコピーして、冊子にしているときに、平野さんが、

「あ、ここ数字一桁間違ってる」

と言い出し、訂正の決裁を回すからと言って、そのまま資料に挟んでいないまま冊子にしてしまったのだ。


これは誰が悪いとも言えない。


とりあえず資料に一通り目を通しておこうと私が見た時に気がついた。気づいて良かった。このままでは、なんの意味もない書類を委員へ提出するところだった。


委員会はなんとか終了し、私たちは余ったコーヒーを淹れて館長から順に配っていった。



私たち公民館の主な仕事はカルチャースクールのような、講座と呼ばれる教室を開く、また開きたい人に場所を提供することだ。

市内各所に16館ある公民館の中心、中央公民館で私は働いている。


人々に文化的な役割を果たす、それが私たちの使命だ。


本庁から教育委員会へ出向になった私たちは、本庁時代とは全く異なった仕事内容をしている。


と言っても、私は庶務なので、どこに行っても大差ない仕事だった。


私は図書室も担当している。

嘱託二名を抱え、それなりに忙しく過ごしていた。

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