【連載小説】公民館職員 vol.8「繁忙期」
3月。
決算シーズン真っ只中、私は収入部門の数字と闘っている。
あれ以来平野さんと会話することは少なくなり、必要最低限の会話しかしていない。
決算書に関しては若干しゃべるが、その他の会話は一切ない。幸いなことに、誰もその事実に気づかないようだ。
決算書は以前にも作ったことがある。
ただ、ここ中央公民館では、他の十数館の公民館の数字も併せて作るため、他の館への連絡で大忙しだった。
他館から次々に送られてくるファックスに目を通しながら、どんどん進めていく。
収入部門はただ数の足し算をしていけばよいので楽勝だ。私は速攻で仕事を片付けた。
時間の余った私は、平野さんに手伝うことがないかと聞く。
すると、先日まで感じていた黒いオーラを出すことなく、私にコピー機と輪転機の支出をまとめてくれと言ってくれた。
私は笑顔で
「はい!」
と答えると、早速その数字を数え始めた。
3月はなにかと忙しい。
3月末には人事異動の内示も控えている。
3月はなにかと忙しい時期だ。
決算書をまとめると、平野さんが事務長へと回した。
今年から電子決裁になっているため、補佐と館長のパソコンスキルでは処理できないこともあり、私が張り付いて指導に当たる。ただ印鑑を押すだけでよかったあの頃が懐かしい。
さすがに一年も決裁していると、随分慣れたらしく、添付の書類についての解説が必要な程度だった。
館長への解説は事務長と平野さんが行った。
無事決裁も済み、財政課へと回す直前に気づいた。
私、使用料間違えて回している……!!
使用料というのは、会議室などのお部屋の使用料である。
決裁に回した後になってのんびりと数字を見ていたら、一月分計算していないことがわかった。
すでに書類は財政を回っている。差し戻しを依頼せねばならない。
急いで電話をかける。
まだ担当者のところでストップしているらしく、差し戻しを依頼する。
財政から館長へ差し戻しがくる。それから平野さんまで差し戻しをしてもらい、添付しなおして再度決裁へ回した。
今回は他の数字もばっちり見直したから大丈夫なはず。
焦るとろくなことはない。
そして、来期からのコピーの契約を検討していた。
一番安く見積もりを出してきたレイメイ藤田という会社にヒアリングすることになった。
私は、契約関係も知っていたほうがよいとのことで、平野さんの片隅に座らせてもらって、話を聞くことに。
レイメイ藤田が送り込んできたのは、なんというイケメン!!
私は条件関係の話よりも雑談のほうが気になって仕方がない。
この前までの平野さんへ対する淡い想いはどこへやら、レイメイ藤田の担当の東くんにぞっこんになった。
左の手には指輪はなく、既婚者ではないと思われる。
話の筋から読書が好きとわかる。イケメンで読書とカフェ好きって、一体私のツボをいくつ突いてくるの!?
条件面に関しては平野さんがと言っていたのに、私が交渉することになった。
八千枚までは定額で、あとはそれを百枚越えるごとに追加料金を支払うという結果に落ち着いた。
というか、向こうさんが提してきた条件を丸のみなんですが。
契約締結は4月1日。4月1日中に書類で決裁をとらなければならなかった。
そんななか、異動の内示が発表された。
今年の異動は平野さんと館長だけだった。
平野さんがいない中で一人決裁を回さなくてはならないことになった。しかも、新館長は1日に来れないかもしれないという。
そんな中、4月1日を迎えた。平野さんはいない。でも、今日中に来館者の保険などの決裁をとらなくてはならない。
とにかくバダバタだ。
4月1日付けで必要な書類全て作り上げ、決裁を回す。
来館者保険は現金で支払わねばならないので、3時までに決裁をとり、会計室へ持ち回り、銀行へ書類を提出せねばならない。
時間の勝負だ。
新館長はやはり今日はこちらにはこれないらしい。IDとパスワードを聞き、補佐が見守るなか、私が決裁の最後を決めた。
急いで会計室へ行く。
同様に急ぎの書類を持った人が、長蛇の列をつくっていた。私も並ぶ。時間は二時半。ギリギリ間に合うか合わないか……
私の前の人は十センチはあろうかという資料を抱えている。これは時間がかかりそうだ……
二時五十分。あとすこしで銀行が閉まってしまう。
そんなとき、奥側の担当者から、どうぞ、と声がかかる。
急いで持っていく私。
なんとか銀行にはギリギリで間に合った。
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