【連載小説】公民館職員 vol.2「仕事」
今日は図書室の嘱託が一名休みの日だ。
二階にある図書室、来館者は少ないが、前担当が放置していたため、することはたくさんある。
私は図書室に上がると、本の整理を始めた。
そこにふらっと現れた平野さん。
「なんか面白い本入った?」
「新刊がいくつか来てますよ」
私は新刊を並べながら言う。
「あー、じゃあこれ借りて帰ろうかな」
平野さんが手にしたのは私の大好きな作家の本だ。
「それ、超オススメの作家さんです!」
「そぉ?じゃやっぱりこれにしとこうかな」
平野さんは本の貸し出し手続きをすると、ヒラヒラと手を振って戻って行った。
平野さんはときどきふらっと本を借りにくる。
他の連中は図書室なんて見向きもしない。
もっとも、ちずるは本好きであるが、図書室には彼女好みのラノベがあまり入らないので来ない。
ちずるも私も、以前は他の公民館で庶務と図書室を担当していた。
その頃の私はまだ十代で、選書のなんたるかを理解しておらず、ちずるは自分の好みのラノベ、私はのちに講○社の受賞を果たす漫画を、各々の館で購入していた。
私は選書について随分勉強した。
だから、今となってはラノベよりももっと重きを置くような本を選書していた。
図書室には一般のお客様が借りるという目的以外に、本を収集するという目的がある。
時代が経っても読まれるような絵本や小説、その他は全館で残りの一冊となったときは、それを保管しなければならない。
そういったしきたりの元収集していた。
実用書などは時間が過ぎてしまえば、方法も違うため、廃棄の対象となるが、特に児童書、絵本に関しては厳しく取り扱っている。
そんなこんなを知らないでか、平野さんはふらっと本を借りにくる。
そしていつも私のオススメの一冊を手にして戻っていく。
そんな平野さんの後ろ姿を私は何度も見送った。
平野さんの好きそうな本を入れよう。
いつしか私はそう思うようになっていた。
平野さんは妻子持ちで、すらりと背が高く、甘い顔の持ち主で、実年齢よりもずっと若々しく見える。
本当は一回りくらい私より歳上のはずなんだけれど、暑気払いのとき、みんなで並んで写真を撮ったが、私と同年代くらいにしか見えなかった。
平野さんのデスクは私の隣にある。
昼休みなど、休憩のときは、たいていゴルフ関係のサイトか雑誌を見ていた。スコアは悪くないらしく、そのすらりとした容貌にゴルフウェアーは映えそうだ。
コーヒーが好きで、いつもブラックで飲む。砂糖もミルクも多目の私とは全く正反対だ。
児童館の取りまとめ担当である平野さんは外勤も多い。
対照的なのはちずるだ。
ちずるは全館の嘱託員の給与関係を任されていて、いつも忙しそうにしているが、実は暇なことを私は知っていた。
嘱託の数は全館で六十人近く、しかし年度始めの四月と年末調整の十二月、退職のある三月以外は暇なはずだ。
しかし、ちずるはいつも週行事という、週に一回の朝礼では、嘱託員の云々で忙しい、と言っていた。
私はというと、毎日貸し館の入金や図書室の仕事、その他書類の分類や回答づくりといった、平凡な日常を送る。
特に忙しいということもなく、なんとなくダラダラと仕事をする、このムードが私は苦手だった。
担当になったからにはとことんやりたい!私はそう意気込んで情熱的に仕事に没頭していた。
公民館の講座を受けにくる人は当然お年寄りが多く、それなりのトラブルもいくつかあった。
例えばダブルブッキングや部屋代の未払いなど、言い始めるときりがないほどちいさなトラブルはあった。
講座の教科書のコピーをするのに、枚数を間違えたから安くしてくれだの、早く講座が終わったから割引してだの、そういったトラブルだ。
私は窓口も担当しているため、いちいちその度に振り回されたが、いやだと思ったことは一度もなかった。
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