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【連載小説】透明な彼女 vol.11「指輪」

https://note.com/tibihime/n/n27c9b6fa403e

お炊きあげした洋服を早速着るユイ。


なかなか似合ってるじゃない?


そうしていると、嫉妬も少しずつ和らいでくる。


「ね、見て、これ。フワフワなの」

ユイが無邪気にはしゃぐ。

そのうちさっきしていた嫉妬などどうでもよくなってくる。

「いいんじゃない?似合ってる似合ってる」

「もう!ちゃんと見て言ってよね!」

「ちゃんと見てるさ!」

ホントのところ見ていなかった。

言われて初めて見たが、いわゆる普通の小学生だ。

ユイが小学生の頃はこんな感じだったんだなぁと改めて認識。

まだ独特のお堅い感じはでていなかった。


ユイは夕飯の支度を始める。

最初の頃に比べると包丁さばきもよくなり、幽霊ならではのパワーの使い方によって炒め物をつくっていく。

幽霊ならではというのは、手で持たず炒め物のフライパンを持ち上げて炒めることだ。

ずいぶん器用になったものだ。


一緒に住み始めて3ヶ月が経過していた。


病院では相変わらず統失扱いで、さらに強い薬などが出された。

でも、一向にユイが消える雰囲気はない。

いつしか俺は薬を飲まなくなり、病院にも行かなくなった。


3ヶ月たち、クリスマスのシーズン。

ユイに何が欲しいかと尋ねると、指輪が欲しいという。

前に記念であげたのをなくしちゃったからね。

けど、幽霊の指輪なんて、サイズをどう計ればいいのだろう。


するとユイがメジャーを持って来る。

これで外周を計って買ってこいというのだろう。

俺は冷たいユイの指をメジャーで計った。


一緒にショッピングについてくるユイ。

恐らくは指輪を選びに来たのだろう。

案の定宝石屋を見つけると入って行くユイ。

そんな高いのは買えないって!!

近くの雑貨屋さんに入る。

二千円台で指輪がおいてある。

シルバーの、この中から選べ、と目線で指示をする。

ユイは膨れっ面になりながらも指輪を選んだ。

サイズを選んだ意味もない。

「少しブカブカじゃないか?」

小声で俺が聞く。

「大丈夫、成長するって」

ユイは言うことを聞かない。

仕方ないので、指輪とシルバーの細いネックレスを買う。

シルバーのネックレスに指輪をつけておけばなくすこともないだろう。


俺は買った袋を破くと、路地に入り、ユイにつける。


最初そんなものを買ってつけたら、透明人間がつけて歩いているように見えやしないかと心配したが、周りには全く見えていない様子だったので安心した。


ユイはすごく喜んだ。

この上なきハッピーな笑顔だった。


ユイは元の指輪の在りかを思い出していた。

多分仏壇の前に置いてある。

そう言った。


ユイの絵は順調に売れた。

俺のバイト代が必要ないように売れた。

でも、俺はバイトをやめなかった。

一つは楽しかったというのもあるが、他にも理由はあった。売れているのはユイの絵で、俺の絵じゃなかった。

俺も世間で認められたい。

そのために自分の絵が売れるまではバイトを続けよう、そう思ったからだ。

実習と卒業制作の合間に、俺も絵を描き始めた。

と言っても、学校は忙しいし、卒業制作も時間がかかっているため、ほんの合間にしか描けなかったのだが、根気よくやり遂げた。

年末前にユイの絵を搬入するときに、一緒に持っていった。


店員は、

「こんな絵も描けるんだね、うんうん」

とだけ言った。


ユイの絵は瞬く間に売れた。

どうやらファンがついたらしい。

俺の絵はいつまでも壁に飾られたままだった。


正月休み、どうしようかと迷ったけれど、ユイも実家に連れていくことにする。


置いていっても一人じゃ暇だろうし、あんまり話しかけないことを条件に連れて帰ることにする。

電車で30分ほどのところに我が家はある。

電車で30分なら独り暮らしはいらないだろ、と思うだろうが、俺の念願の夢だったので、独り暮らしは決行した。


ユイはつり革にぶら下がったりして遊んでいる。

俺は小声で注意しながらも実家への道を急いだ。

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