【連載小説】公民館職員 vol.26「正月」
年末はだらだら過ごした。少しくらい大掃除をしなさいという母の言うことも聞かずに、漫画を読みふける。
大晦日は久しぶりに菅やんと、同期の伊藤ちゃんと、カラオケに行く予定だ。
あんなことがあったにも関わらず関わってくれる菅やんに私は大変感謝している。
伊藤ちゃんは男性で、ちょっとオネエっ気がある年上だ。伊藤ちゃんに会うのは実に三年ぶりとなる。伊藤ちゃんは東京事務所に出向だったからね。超久しぶりに会うので私も楽しみだ。
大掃除を少し手伝うと、母に買い物に乗せていけと言われる。仕方ないのでしぶしぶ車を出す。スーパーは人でごった返しだ。
すると、ふと、見慣れた姿を目にする。
話しかけるかを躊躇ったが、思いきって話しかけることにした。
「進藤さん」
すると、ゆっくりこちらを向く青年。
「佐藤先生!」
図書室の利用者たちからは先生付けで呼ばれることが多い。
というか、私の名前を覚えてくれていたことにびっくりだった。
「お正月のお買い物ですか?」
「はい、父と母と……」
「うちは母と。こんなところでお会いできるなんて」
「実家がこの付近なんです」
ん?今実家と言ったな?左手の薬指に指輪はない。独身独り暮らしか……?
私のめざとい目はそこを見逃さなかった。
「独り暮らしされているんですか?」
「え……はい、実家に縛られるのが嫌で……笑っちゃいますよね」
「いいえ、独り暮らし、私も憧れます」
「そんなにいいもんでもないですよ」
話していたら母に呼ばれる。
彼女づれとかじゃなくてよかったぁ。よくよく考えて行動しないと。
進藤さんとは会釈してその場を離れた。
進藤さん。物静かで優しそうな人だ。推理小説が大好きで、特に東田奎吾の作品を好む。そこらへんは私の趣味と似ている。彼女がいるかどうかは定かではない。昼休みに図書室にきて本をみつくろって借りていく。たまに、はじっこの席で本を読んでいたりする。読んだ本の感想を教えてくれる数少ないお客様の一人だ。
今日改めて見たけど、眼鏡の似合う好青年。じゅるっ。眼鏡男子いいよね、眼鏡男子!外したときとのギャップがまたいい!って、進藤さんの眼鏡外したとこ見たことないけど、きっとあれはいい男に違いない。
◇
菅やんたちと待ち合わせた時間になる。うちの近所の割りと大きい神社でカウントダウンしてからカラオケに行こうという話になった。
時刻は11時半を回っている。
ふざけあいながら神社へ入っていくと、もうずいぶん人が並んでいる。私は一人一つずつカイロを渡すと手を清めに行く。
すると、ここでも進藤さんに会ってしまった。
そりゃ地元だもん、仕方ないよね。
彼女と来たのかと尋ねてみると、
「いやぁ、彼女ね、ほしいけどなかなかね……趣味が合う人がいなくて」
目の前におりますぞ!!
趣味が合って尽くす系な彼女、欲しくないですか?私、自信ありますよ!
「今日は地元の友達と来てるんです」
「そうなんですね。私は同期の連中と一緒です」
「では、また正月明けに会いましょう」
え、もう会話終了??
ま、友達と来てるんだから当たり前か。
横で見ていた菅やんが、
「なんか親しそうな人だったけど」
と呟く。
「図書室の常連さんなの」
「本当にそれだけ?」
「うん、本当にそれだけだよ」
「彼、ユキちゃんの好みのタイプだよね」
「えっ、好み……」
脳内を逆再生してみると、一緒に飲んだとき、そんなことを言ったことがあるような、ないような……。
そこに伊藤ちゃんが入ってきてくれた。
「まぁまぁ、知り合いと会うことくらいで妬かないの!人生は楽しく生きなきゃ」
「それもそうだな。ごめんね、ユキちゃん、勘繰るようなこと言って」
「いや、私は全然構わないよ、うん」
むしろ伊藤ちゃんに告白したことを言ったらしい菅やんに驚いた。菅やんと伊藤ちゃん、そんなに仲がいいんだね。ちょっと焼きもち。
私たちは無事お参りを済ませると、朝までカラオケ大会をして盛り上がったのだった。
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