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【連載小説】公民館職員 vol.5「輪転機」

コピー機が故障した。

たいていちょっとした故障ならいつも私が直してしまうのだけれど、今日は違う。

早速ヘルプセンターに問い合わせる。

そんなときにふらっと平野さんが外勤から帰ってきた。


「どうしたの?故障した?」

と言って覗き込む。


講座生が待っているこのタイミングで故障はかなり痛い。今日使う予定の教科書とかのコピーだからね。コピーができないと講座が始められないのだ。


「ちょっとどいてみ?」

平野さんはトナーを外して掃除を始めた。他にも数ヶ所開けて作業を進める。最後に紙を入れ替えて、

「これでどうだ!」

とスイッチを押す。

ぶん……となるコピー機の音。

そしてコピーができるようになった。

30分も待たせた講座生へ謝りながらコピーする私。

平野さんはやっぱりすごい。なんでも解決しちゃう。

コピー機屋さんがあとからきて、再度のチェックと調整をして帰る。


お世話になりました、と私は平野さんのデスクにコーヒーを置く。



今季から、輪転機を入れることになる。

輪転機……つまりは印刷マシンのことだ。輪転機を使えば、30枚以上印刷する講座は安く印刷をできるようになる。

よく学校のプリントを印刷している、アレだ。


財政課に掛け合いに行くのに、いい経験だと付いていくことにした。


うちの公民館から本庁は目と鼻の先にある。

平野さんと歩いて本庁まで行く。

途中、いつも寄るケーキ屋さんを通りすぎるときに、

「このケーキ屋さん、超うまなんですよ!!」

と話をする。

あとは特になにも話さずに本庁に着く。


財政課なんて久しぶりに来た。

前の前の担当した職場で行ったきりだ。平野さんはさっさと階段を上って行ってしまう。財政課は八階にあるため、相当な足の運動となる。

ひぃひぃ言いながら付いていくと、

「ユキちゃん、このくらいは駆け上がれるようにならないとダメだよ」

と平野さんが笑う。

だから、その笑顔やめてください。被害がひどいです。


財政課について、担当者が出てきてホッとした。いい人そうな印象の人だからだ。

早速本題に入る。

輪転機が必要な理由と値段について話をする平野さん。

横でポーッとなってきいていた私。

「ユキちゃん、ちゃんと聞いてる?」

と言われて目が覚めた。

そうだった、今は財政ヒアリングの途中だった。

「ひゃっ、ひゃい、聞いてまふ」

変な声が出て周りをふふっと笑わせてしまった。しまった、平野さんも恥ずかしかっただろう。

話は、淡々と進められていった。

が、輪転機購入には財政は難色を示した。

平野さんが、私に資料を出すように言った。資料を広げる私。

そこには今までコピーしてきた枚数や一件辺りの枚数、値段が書いてある。私が昨日指示を受けて作った書類だ。

数字を説明しながら平野さんが説得にかかる。

「これだけの枚数だと、輪転機を使った方が安く済みます。元はすぐに取り返せると思います」

平野さんが言葉を結ぶ。

財政課の担当者は、

「わかりました。これで上に回してみます。」

と返事した。

この程度の額ならば、担当者が通ったなら上は楽勝で通るだろう。


帰り道、

「今日ついてきてよかったです!」

と言うと

「そう?まあ、今日のは簡単だったしね。打診してあったし」

「打診?!いつの間に打診してたんですか?」

「普通ああいう話は、打診しておくのが常套手段ってわけだよ」

そうなんだぁ、と感心していると、平野さんがふと立ち止まる。

後ろを歩いていた私は思い切り平野さんにぶつかった。

「ユキちゃん、ちゃんと前見て歩かないと危ないよ」

「す、すみません……」

「で、ここの何がうまいって?」

ケーキ屋の扉を開けながら平野さんは聞く。

私は慌てて後に続いた。

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