ベツレヘムに向かう

ベツレヘムに向かう。ダマスカスゲート前から発車するアラブバスに乗る。ベツレヘム行きは2つあり、チェックポイント行きとセントラル行きとある。わたしはセントラル行きを選びバスに乗り込む。一応出発時刻を確認してバスに乗ったのだが本当にそれが決まっているのか、いないのか一向に出発しない。運転手に何時出発なのか聞いてみると、人がまだ乗れるからもう少し待って、と。

そうだ、ここは日本じゃないんだからのんびり行こう。

君はどこから?

わたしは日本からよ。初めてベツレヘムに行くのよ。楽しみ。

何度同じような会話をしたことだろう。ヨーロッパではこんなに話しかけられることもなかったし、滞在国への思いを話すこともなかったな、と思いを巡らす。

バスに人が乗り込んでくる、アラブ系、ヨーロッパ系、アメリカン、様々。この日はアジア人はわたしだけだった。

さあ、出発しよう。

エンジンがかかり、バスが出る。

窓からオールドエルサレムを眺める。どんな場所でもその場所を離れる瞬間は誰かとの別れのように切なく胸が苦しくなる。またいつでも戻ってこれるはずなのに。10分も走るともう蜂蜜色の渇いた土と砂埃を被ったオリーブの木しか見えない。曲がりくねった道をスピードを出してバスは進む。ずっと同じような景色だが、飽きることなく外の景色を見続ける。たまにすれ違う馬車ならぬロバ車。イエスキリストもエルサレム入りする時はロバだったな、そんなことを思う。わたしは冷房の効きすぎているバスの中で真冬のようにストールに包まる。

道路の標識がヘブライ語からアラビア語メインに変わっている。パレスチナ自治区、アラブ人の土地に入ったことを実感する。しかしながら、イスラエル人(ユダヤ人)はパレスチナ自治区にももちろん居る。ヘブライ語もどこにでもあるが上段がアラビア語、下段がヘブライ語という違いだ。

ベツレヘムのバス停留所に到着する。バスを降りるとけたたましい客引きの声。

タクシー、タクシー!

バンクシー、セパレイションウォール!

さすがの世界遺産のある観光地なだけあって活気がある。波のように押し寄せる客引きの間をぬって道路をわたり坂を登り宿へ向かう。この坂が思ったより急勾配で思ったより長く、照りつける太陽の指示に従って、その辺に腰掛け途中休憩をすることにした。道で移動販売をしているアーモンドジュースをいただく。かき氷より粗いクラッシュアイスに真っ白なアーモンドジュース。杏仁茶のような甘く懐かしい味と冷たい氷で体力が蘇る。とともに、脱水から逸した体から汗が噴き出す。きっとバスの中と外気の差に体が戸惑い、暑さにより脱水で険しい表情をしていたわたしの顔も幾分和らぎ、ジュース屋の店主に微笑みながらおいしいね、と呟く。

喉乾いてたのか?

そう、もうカラカラだったの。バスは寒いし外は暑いし。

さ、コップ貸して。

そう言ってわたしのコップを分捕り、柄杓でジュースをもう1杯注いでくれた。

ありがとう。生き返るよー。すごいおいしいもん。

そうだろ。ようこそ、ベツレヘムへ。

わたしはにっこり笑ってジュースを飲み干した。

“ようこそ”パレスチナを旅すると多く耳にする言葉だ。

彼らは知っている。世界がメディアがパレスチナは危険な地域だと伝えていることを。


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