夜のベツレヘム

イエスキリストの生誕の地であるベツレヘムの夜。生誕教会もその向かいにあるモスクもイルミネーションで光浮き立っている。

さあ、行こうか。

ジョージショップの前に来ると、車を停止させたジョージが待っていた。

白いセダンに乗り込み、暗くてまったくどこを走っているのか分からない道を行く。

まずついた場所は一見するとただの渋滞を眺めているだけのように見えた。

ほら、見て。

え?

ナンバープレート。全部青いイスラエルのナンバーだよ。

本当だ。

不自然すぎる、このブルーナンバープレートのおびただしい数。ここはパレスチナ自治区のはずなのに。

なんで?

ここにはパレスチナの緑のナンバープレートは一台もないよ。この車の列はチェックポイントに繋がっててエルサレムに向かっているんだ。

ベツレヘムに住むパレスチナ人はベツレヘムから出ることが許されない。特に車は絶対無理だろうね。僕たちにはそういう自由がなんだ。出られるとしてもイスラエルに許可を申請して何日も待って。許可が下りたからってバスでチェックポイントを通過するときにダメだって言われることもあるし。

この多くの車は毎日入植地に通勤するイスラエル人の通勤の列だった。

愕然とするこの現実を目の前にすると言葉を発せられなかった。もちろん、情報としてこの事実は知っていた。知っていたし理解もしていたが目の前にすると何とも言えなかった。車から降りたイスラエル人と車から降りたパレスチナ人ジョージが横に並んだとして、一体何が違うというんだ。見た目でどっちが何人なんて誰がわかるのか?そんなこと何の意味があるのか?怒りとも違う深い悲しみがこみ上げる。

さあ、車に乗って。次行こう。

そう言って車に乗るように促す。

少し細い道を曲がりくねって通って上り小高い廃墟のような場所に着く。ほんの5分だった。

元はアパートメントだったと思われる建物がそのままになり、周りは草が元気に伸び生えている。

ほら、あそこ見て。

そういって指をさす。

あれ、銃痕なんだ。イスラエルが急に入植してきて。ここにいた人は死んでしまったり、追い出されたり。

言葉を失った。

ちょっと歩こうか?

わたしたちは重い気持ちを抱えたまま少し道の悪い道路を散歩した。

たまにここに来て夜景を見るんだ。

ぱっと開けた小高い丘から見える夜景は東京のそれとは違うオレンジ色した華やかさはないが温かみのある色だった。

綺麗だね。

向こうはヨルダンで、あのぽっかりしている部分が死海だよ。見えるほど近くてまったく違う環境なんだ。でもそれが人生。

諦めとも受け入れともつかない口調だった。

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