嘆きの壁が目の前に

あっけなく終わったこの少年とのひと時。なんだか胸にぽかんと穴が開く。別に恋したわけじゃないのだけど。彼はわたしに時間と情報とそして水を与えた。わたしは何も与えなかった。与えないどころか一抹の疑いさえ抱いた。本当にいやだ。本当に自分がいやになった。一瞬だけ。

一人で歩くことにする。一人散歩。一人迷子の始まり。

苦しさと感動と胸が沸騰する嘆きの壁、western wall。

日本語だと嘆き、どうして英語だど、westernなんだろうと当たり前の疑問が湧く。が、それは単純に城の西側の壁という意味らしい。

その壁の前に来るとひしひしと体に伝わってくるエネルギー。みんなの祈り、思い、数千年前に思いをはせる気持ち、色んなエネルギーが台風のようにわたしの体に渦巻く。叫び出しそうで泣き出しそうで走り回りそうになるこのなんとも表現できない気持ち。わたしがユタなら一発で高熱出ているし、わたしがイタコなら踊り狂っているだろうし、シャーマンなら・・・・とにかく普通に立っていられないだろう。それだけ凄まじいエネルギーが犇いているということだけはわたしでもわかる。

空は快晴。真っ青な空を白と水色の星のマークのイスラエル国旗が悠々と泳いでいる。その向こうに壁。全身黒ずくめのオーソドックスなユダヤ人がいたり、頭の上にちょこんと帽子のようなもの、キッパを乗せてヘアピンで留めているユダヤ人がいたり、軽装でキッパもレンタルだがあの真剣な目つきはユダヤ人なのかわからないがとにかくここが神聖な場所だと物語っていたり、各々思い思いの格好をして壁に向かって歩いていく。キッパだけは必須なので観光客だろうが異教徒であろうがレンタルして壁の前では被らなければならない。その光景を俯瞰するように少し高台から眺めている。現実のような夢のような映画のようなこの事実だった。

一時経って、壁に近づくことにした。壁の前に行くにはチェックポイントがある。荷物をセキュリティに通し空港にあるようにあるような金属探知機をくぐり抜ける。その横にはイスラエルの国旗が袖に縫いつけている軍服を着ている男性が2人いた。探知機を通過した荷物を受け取り数歩、チェックポイントの屋根が終わり、目の前に目線の高さに壁がある。その前にはキッパのレンタル。そして壁の真ん中を示すかのようにイスラエルの国旗掲揚がある。壁は男女の仕切りがあり向かって左側が男性、右側が女性。壁のための祈りのエリアを示すものなのか手前に小さな衝立がある。衝立はT字のようになる。壁を含めると工の字だ。手前の衝立に沿って右側の女性入り口へ向かう。入り口付近には手が洗えるように蛇口があるので神社でするようにお清めの手を洗い、口をゆすぐ。少しずつ壁に近づいていく。椅子が整頓されているのかいないのか微妙な並びと数がありそこで聖書を読んでいる人、壁に触りながら、額をつけながら聖書を読んでいる人、壁にキスをして涙する人、思いを紙に認め壁の隙間に挟む人、そんな人たちを写真を撮る人、衝立の向こう男性側が気になる人、人それぞれの時間を壁のそばで過ごしている。

壁に近づき目の前には壁、積み上げられた石の隙間隙間に夥しい数の紙が押し込められ各々の願いを神へ託しているのが目に見える。まず壁に触れてみる。そっと左手を壁に押し当てる。目を閉じる。涙が出る。ユダヤ人でもないわたし。聖書を思い、ここに来るまで、去って、そして戻ってきたユダヤの民の歴史が実際にここにあるのかという思いだった。その点だけを思うと純粋な気持ちの涙が出るが、ふとパレスチナのことがよぎる。歴史は点ではない。点がつながり線をなし、面を作り、立体となるのだ。折り合いをつけ、妥協をしないと平和はない。壁に触れ、この地にこれ以上血が流れずに1gでも平和な気持ちが増えるように民族も関係なく安心できるように、ユダヤの神に願ってみる。一通り神聖な気持ちを味わうと、好奇心が勝ってくる。日本人ですから。男女を隔てる衝立の隙間から見える男性たちの祈る姿が気になる。まだ外気は40度を超えている、そんな時でも黒いハットに黒ずくめのスーツを着てもみあげを伸ばしパーマまで当てているそんなオーソドックスタイプのユダヤ人が祈る姿、まさにガイドブックに載っている絵だ。

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