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自動運転とMaaSによる社会課題解決について考えてみる(まとめ)

高齢化する地方都市の課題を解決すべく、自動運転とMaaSを活用した地域のネットワーク構築と、ネットワークの中心となるローカル・ハブの発展による活性化について想像(妄想)してきた本稿ですが、今回が最終回です。

<これまでの記事へのリンク>
1.自動運転車によるローカル・トランスポーテーション・ネットワーク
2.発展するローカルハブの姿
3.ローカルハブの場所、生活の変化

最後に「本稿全体のまとめ」を記載しますが、その前に、構想実現にあたっての課題を確認して、どのように実現に向けて近づけていくのか、考えてみたいと思います。

4.課題・問題点、実現に向けたロードマップ
■ローカル・トランスポーテーション・ネットワーク実現への課題
高齢者を始めとする地域の住民の方々が毎日便利に使える仕組み、長く運営できる仕組みとするためにはいくつかの前提や課題があります。

・「MaaS」のレベルアップ
スマホなどからオーダーする配車サービスと決済、さらにはいくつかの交通手段をまたがった予約(例:家まで来る小型のローカル・ビークルと、接続するバスの両方をワンストップで予約)が、高齢者を含めて誰でも簡単にできるようになることが必要です。
技術的には既に実現されている部分が多く、筆者もシンガポールの友人宅(高層マンション)からホテルに戻る際に、友人がグラブで手配してくれて「3分後に着くそうだから、エレベーターで1階に向かおう」と促され、実際にそのとおりに車が到着、スムーズにホテルに帰れた経験があります。一方、日本の某タクシーのスマホ配車サービスでは、いつまで経っても来ない、「最寄りの車」を回してくるはずなのに目の前をそのタクシー会社の空車が何台も通り過ぎる、などということもあるようです。
誰もが違和感なく便利に使えるサービスとなるためには、技術的な発展に加えて、実運用でのレベルアップも求められるでしょう。

・「完全自動走行」レベルの自動運転技術
元より「自動運転とMaaSを活用」と述べている通り、もう一つの柱は自動運転です。
上記のとおり、MaaSは既に半ば実現されていますが、それは人間が運転する有人の車です。人手不足、特に人口減少著しい地方都市で、運営コストを抑制しつつネットワークを実現していくことを考えると、自動運転の小型ローカルビークルや自動運転バスが必要であり、そのためにはレベル4・5と言われる完全自動走行レベルの自動運転技術が求められます。

・自動運転車のコストダウンと多様化
現在はまだ自動運転車は非常に高価で、このままではリーズナブルな仕組みを全国の地方都市に構築していくことは難しいでしょう。そのため、自動運転車を飛躍的にコストダウンしていくことが求められます。
電動自動車ではモジュール化が進み安価となる、という見方もありますが、テスラが量産ラインの構築に苦労している(あれは電動高級車ですが)ことからしても、ハードルは低くはなさそうです。
また、様々な利用シーン・用途を想定した機能や大きさ(例えば、家までくる小型ビークル、宅配用ビークル、通常の乗用車タイプ、バンやバスなど)、他の交通機関との接続・乗り換えを想定した車体など、マーケットのニーズに応じた多彩な車両が出てくることが必要でしょう。

・道路インフラ整備、建物の対応
自動運転社会の実現にあたっては、自動運転技術の向上もさることながら、人と車また自転車などが混じりにくい、自動運転車が運用しやすい道路インフラが望まれます。
また、自動運転の小型ビークルに乗り込む、宅配ビークルと受け渡しをする、などのシーンが頻繁に起こる想定すると、自宅やオフィス、また供給サイドの宅配拠点・店舗・倉庫・工場などにおいて、自動運転車を利用しやすい「ドライブスルー」的な構造を備えることが必要となるでしょう。

・太陽光発電など再生可能エネルギー活用インフラの発達
交通のネットワーク構築自体には必須ではないかもしれませんが、将来の地方都市像を考えると、このネットワークは是非太陽光発電など再生可能エネルギー中心に構築したいところです。
そのためには、発電効率や送電・蓄電の効率について、ブレークスルー的な飛躍的向上が望まれます。また、ビークルの急速充電など電力需給への影響もあり、電力制御の仕組みの向上も必要でしょう。

・位置情報・地図情報活用の向上
既に実用的な高い水準にきているようですが、自動運転の安全性向上のためにも位置情報を極めて高い精度で活用できるようにしていくことが求められます。道路情報・地図情報についても、3次元イメージなどより一層の高度なコンテンツの活用が必要です。

■実現に向けたロードマップ
上記のような課題をクリアして、実用的で便利、かつ維持可能なネットワークを構築していくためにはどのようなアクションが必要となるのでしょうか。主なものを見ていきたいと思います。

・自動運転実験の加速
米国では、グーグルなどの専用サーキットでは既に膨大な距離の走行実験が繰り返され、街中での走行実験も相当行われているようです。また、中国や韓国では「自動運転実験のための街」が建設されているようです。日本でも、限定的な範囲、短距離の自動運転実験は実現していますが、更に実践的な実験を加速していく必要があります。
道路幅の余裕があり、歩道との独立性が高いなど、比較的新しく開発された街区など「道路インフラ」の観点から適切な地区を「自動運転の街」として多彩な自動運転車の実験的な運用を推進していくやり方もあるのではないでしょうか。

・有人でのMaaS展開
将来的には自動運転車での無人MaaSを目指すわけですが、まずは有人MaaSでネットワーク構築をして実運用することも有用です。実際にローカルでネットワークを運営してみて、利便性・効果を実感してもらうとともに、サービスにおける課題を発見してさらに洗練・レベルアップしていくのです。またこれは、モビリティの提供により高齢化に伴う課題に先行して対応することにもなります。
そのうえで、自動運転技術の実用化や、自動運転車の開発・コストダウンに合わせて、無人・自動運転のMaaSに切り替えていけばよいでしょう。

なお、モビリティ提供の対象となる場所やルート、乗り物は異なるので、本稿で言及しているネットワークとは別物ですが、観光資源のある地域では、インバウンド外国人や東京などからの観光客へのMaaS構築により、サービス・利便性の向上、観光地としての魅力アップを狙うことができます。

・自治体・地域の取組み
ネットワークの構築・運営を、公営または第3セクターとするのであれば、自治体が予算確保も含めて取り組むことになります。また、民営で実現するにしても、道路インフラの整備、そもそも地域住民の生活水準向上、暮らしやすい街づくり、地域経済の活性化を目的とすることからすれば、各自治体・地域の積極的な関与は必要不可欠です。
自治体等にそうしたアイディア自体が生まれにくい、推進していく人材がいない、という場合には、コンサルティング的な民間の法人・団体がサポートしていくことが求められるケースも多くなるでしょう。既に、「Publitech」「million dots」など、社会課題の解決に貢献する、自治体をサポートする組織も登場してきていますが、今後、本稿で扱った地方都市の高齢化に限らず、様々な社会課題に対応するスタートアップやNPOが活躍していく時代になっていきます。

■残る問題
・コンパクトシティとの関係
本稿で構想したようなローカル・トランスポーテーション・ネットワークは、地方都市のドーナツ化地域を活性化する、ということを目指しています。一方、そもそもそうしたドーナツ化地域を縮小・解消して、都市中心部に極力集め、小さく効率的で活力のある街を目指す、コンパクトシティの方向性もありえます。
これは、実現すれば水道網の維持などコスト面での優位性もあると考えられます。しかし、都心部は余地が少なく地価も高い、都心部に移るにしてもローカル地域にある個人の不動産はどうするのか、などの課題もあり、必ずしも実現は容易ではないでしょう。
結論的には、全国全ての地方都市で正解となるコンセプトがあるわけではなく、それぞれの都市の規模や現在の発展状況、人口動態などに応じて、コンパクトシティを軸とした取組みや、本稿で述べたようなローカル地域を活性化して中心部ともネットワークを構築する取組みなど、いくつかのモデル・コンセプトを組み合わせてそれぞれの都市に適した将来像を目指していくことになるでしょう。

・運営コスト
公営か民営か、といった話も先述しましたが、こうしたローカル・トランスポーテーション・ネットワークをどのようにコスト負担して運営していくか、といった課題が残ります。
公的サービスの側面から自治体が分担するという考え方もあるでしょうし、利用者・受益者負担や、事業者の効率化に向けた取組みもあるでしょう。コスト構造や受益の構造、地域活性化による効果、商業施設の展開などを考慮して決めていく必要があります。ここでも自治体・地域の取組みを軸にしながら、参画する企業・地域住民が「自分ごと」として考えていくことが求められます。

<本稿4回分全体のまとめ>
最後に、第1回~第4回の本稿の内容を要約してみたいと思います。

~課題認識~
・高度経済成長期にドーナツ化が進展した地方都市は車がないと生活が不便であるが、高齢化に伴い運転が危険となり、生活水準の低下、地域経済の停滞などの課題が顕在化してきている。

~課題解決に向けた構想(妄想)~
・オンデマンドで利用できる、自宅まで送り迎えしてくれる自動運転の小型ローカルビークルの開発・活用により、高齢者が自分で運転せずにアクティブな活動を維持できる。
・ローカルビークルと、都市中心部と地域を結ぶ自動運転バスとを接続する結節点となる「ローカルハブ」を設置することにより、更に広がりのあるトランスポーテーション・ネットワークを構築し、都市全体のモビリティを高めることができる。

・ローカルビークルの充電・配車基地であり、都市中心部と地域を結ぶバスとの結節点でもある「ローカルハブ」は、宅配・配送の拠点であり、人々の新たな動線としてリアルの店舗が集積する、地域の商業・公共拠点として発展する。
・「ローカルハブ」は、幹線道路沿い、商業施設や学校など核となる施設、駅、高速道路等の出入口などに設置され、地域の経済面での活性化にも大きく寄与する。
・オンラインショッピングと宅配の浸透、VRの進化は、建物の設備・構造に変化を促す、リアルに人間が移動する買い物が「娯楽化」するなど、生活に大きな影響を及ぼす。また、最新テクノロジーを活用したリモートワークの進展は地方都市復権の起爆剤となりうる。

・小型ローカルビークルなどを活用したネットワークを実現するためには、自動運転の実現、MaaSのレベルアップ、自動運転車のコストダウン、道路インフラ整備などの課題がある。
・自動運転実験の加速や、有人MaaSの先行展開などにより、技術面・サービス面での飛躍的向上を早期に実現するとともに、自治体・地域が本気で取り組むがこの構想実現に不可欠。
・事業者・自治体とも、本稿のようなサービスの全体像・最終形を展望・想定することで、効果的に技術開発・実験・街づくり構想などを進めていくことができるでしょう。

~おわりに~
全4回にわたりお読みいただきありがとうございました。

見る人から見ればつっこみどころ満載の妄想だと思います。こんな問題があるぞ、こうしたらもっと良くなるのに、などご意見ございましたら、是非コメントください。

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