『もの忘れ顛末記 #40』ほら そこに子供がいる でも教科書通りです
おじい78歳 驚かさないでくれます 別に怖いわけではないですけれど
【40話 そこに子供がいます 】
本日のおじい
おじいの口数が しゃべることが1日ごとに少なくなってきた 夕ご飯を食べることが思うようにできずに涙を流して怒るとき 夜寝る前に頭の中にある自宅に帰りたいと目に涙を一杯に溜めて哀しむとき
言葉を発するのは1日この2回くらい
正座して畳をじっと見つめてる 壁をじっとにらんでる 掃除 洗濯 食事の準備と後片付けに右へ左へと忙しそうに動きまわる同じ年の相方 (妻)さん
その様子をずっと目で追います そして相方さんをつかまえると
「すみません ここどこですか 僕 家に帰ります」
近ごろの決まり文句です
話すのは1日2回ではなくただしくは3回でした
ある昼下がり
すぐ後ろにおじいが立っている
突然に
「うわっ その女の子 だれ?」「そこに そこに子供がいる」
想像もつかない大きな声で
本当にびっくりする
「なに どうしたの」
しゃべらないと思っている人間が それもすぐ背後でここ何年も聞いたことのない大声で この内容を叫ぶから こちらは心臓が口から出そうになる
気を失う一歩手前 寿命が縮まる
しばらくすると
「そこに 子供が座ってる」
「子供が 子供が」 指さして
「どこにもいないけど」
「そこに座ってる」
「いませんけど 私には全く見えませんけど」
「・・・・・・・・・・」
3日後
昼下がり 静かな家の中
「あっ 子供がいる 男の子 階段に座ってる」 雄叫び
突然やってくる大音響 人というのはあまりに急にびっくりさせられると
心の底から怒りがわいてくる 絶対いないし
【余談】 そういえば おじいが子どもの頃 兄弟姉妹の何人かを病気で失ったと2度ほど話していたような気が 昭和10年代 戦時中のことのよう
寝る時間
まずは歯みがき いよいよ歯みがきの意味が解らなくなってきている 歯ブラシを渡すと不思議そうにながめて ポイッ 笑笑怒怒 使い方がわからない
手伝って口の中に入れると怒りだす 歯を磨くという概念がなくなった
お風呂も同じく
裸にされて怒りだし なだめて自分の足でふろ場まで誘導する 椅子にちょこんと腰かけて そのままフリーズ 洗うという概念がどこかへ
寝る前に もう一つのルーティン
「帰ります」「自分の家に帰ります」「家に帰りたいです」
相方さんの一仕事 「ここがあなたの家です 安心してお眠りください」
説明します
納得までの時間はその日によってばらばらです
おじいの立場でみるなら 知らない人たちに 知らないところで 話しかけられ 食べ物を食べさせられ 裸にされてお湯の中に入れられ ブラシを口の中に入れられたりと なぜこんな散々なめにあうのかみたいな感じ・・かな
おそらくもう外に出ることのない6畳2部屋分ほどの空間 そんな小さな世界のお話です
もうすぐ夏が来る
【 レビー小体型認知症 】の特徴
誰もいないところで人が見えたり 物が人に見えたりする( 幻視 )