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二千円札


私は紫式部の肖像画である。源氏物語を書いた人らしい。らしいと言うのは、私が その長編小説を読んだことないからだ。いつかは読んでみたいと思うが、残念ながら字は読めない。そういうわけで私は、源氏物語を周辺から聞いたことでしか知ることができない。
しかし今日は、誰も紫式部について語らず、私は暗闇の中で悶々としている。他の札に挟まれながら、ひたすら光の源氏の事を考えた。源氏物語の主人公は光の源氏といい、女たらしであると女将が言っていた。ちなみに女将はゴーヤチャンプルを作るのがうまく、私も女将の手に渡った瞬間は、天国に来たのかと思ってしまうくらい、ゴーヤチャンプルのいい匂いがした。
主に卵の焼けた匂いだが、それでもたまらなかった。食べ物は食べたことないが、好物を言わせたらゴーヤチャンプルと真っ先に答えるだろう。
前から思っているかもしれないが、なぜ私は食べ物の味を知らないのか。それは私には口がないからだ。紫式部の口は小さく、とてもじゃないが水さえ入らないと思う。
いつか口があれば、源氏物語を音読し、ゴーヤチャンプルを女将に作らせて食べる。
私の願望は、人間に比べればなんともないだろう。

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