星の王子さま
「星の王子さまはすてきな人で、いつもにこにこしていた。ヒツジを欲しがっていた。それが王子さまがこの世にいた証しだ」
私が一番好きな言葉です。
でも大人は、それでは納得しない。
「王子さまのふるさとは小惑星B612番だ」と言うと納得するそうです。それ以上に大事なことはなく、他には何も知ろうとしないそうです。
数字で管理する。管理すれば知った気になる。誰にでも通じる誰にも意味のない情報を重要視する。
私も、本当はそんな大人です。
だから、冒頭のこの言葉は忘れたくないと思っています。
私には幸いにして何人かの友人がいます。
でも、友人だから友人なのではありません。
例えば、1人の友人は、私が特に中高生の頃に信頼を寄せていた人です。
部活を辞めるという大変な決断をした夜に、朝になって決意が揺らがないように誰かに伝えてしまおう、事実にしてしまおう、と思い、その人に電話をして話しました。
だから、私にとって友人なのです。
例えば、1人の友人は、弱小軟式中学野球部員の私がまだあまり友達も作らずに座って休んでいると、グラウンドの隅の砂を手に集めて持ってきて、「はい、甲子園の砂!」とにこやかに言いました。それから、彼や彼の友人と一緒に下校するようになりました。
だから、彼は私にとって友人です。
星の王子さまだって、ふるさとの星が小惑星B612番とわかったから実在したのではありません。作中の“僕”にとって、すてきで、にこにこしていて、ヒツジを欲しがっていた、そんな二人だけのエピソードがあるから、実在したといえるのです。
この作品は、「全世界で愛され続ける不朽の名作」と謳われ書店に何冊も並んでいます。これまで何千人何万人もの人がそうしたように、私もそこで購入したはずです。
ところが、読み終わったのちに思い返すと、本当はそうではなかったような気がしてきます。
寂れた古本屋にたった一冊、おいてある。
日常に退屈と疲れを感じ始めた私は古本屋を訪れ、偶然にもその一冊を手に取る。
一人、部屋に帰り、夕暮れとともに読み始め、一番星が光る頃に一気に読み終え、新鮮な気持ちでそっと息を吐く。
まるで、そんな自分だけのエピソードとともに出逢ったかのような気持ちになるのです。
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