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本当の悲しみを知りたいだけ

この間、西武球場—つまりメットライフドームでのライオンズ対ファイターズ戦をテレビで観ていて、

ふいに、私の耳に聴きなれた曲が流れ込んできた—球場で、「Tank!」が流れている。

「Tank!」はアニメ「COWBOY BEBOP(カウボーイビバップ)」で使われた曲だ。

2071年の火星を中心とした太陽系を舞台に、おんぼろ宇宙船「ビバップ号」に乗って旅する賞金稼ぎのスパイク・スピーゲルら乗組員の活躍を描くSFアニメ作品である。粋な台詞回しやクールな映像、痛快なメカアクションやガンアクションなどが特徴。本筋はハードボイルドタッチだが、話数によってテイストが異なり、サスペンスやホラー、ドタバタコメディ、サイバーパンクなど振り幅が大きい。『ビバップ』というタイトルどおりジャズを始め、ブルース、ロック、テクノなど多彩なジャンルの音楽をBGMとして使用し、その独特の世界観と相まって既存のSF作品になかった特異なスタイルを築きあげた。—Wikipediaより

実写になったり—そもそもそれ以前に、30歳超えのアニメ好きなら誰もが少しくらいは語れる、そんな名作だ。世界中にファンがいて、つまりまあ、こんな感じ。

私もよく知らなかったけれど、今の野球にはリクエストという制度がある。「今のどうよ、異議あり!」という際においてのビデオ判定ができる制度だ。

どうも、このリクエストに割いている時間に、各球場で流す音楽が決まっているらしい。

札幌ドームだと古畑任三郎のテーマとか、京セラドームだとミッションインポッシブルとか。どことなく謎解きだ!挑戦だ!…みたいな雰囲気がある気がする。

その、リクエスト時にかかる曲が、我らが埼玉のメットライフドームだと「Tank!」というわけなのだ。

「なんで、わざわざビバップ?」、と、なんだか嬉しくなる。

昨年の終わりのほうでは、テレビ埼玉がいきなしカウボーイビバップを放送し始めた。

ここから少しの間、色を変えてある部分は、私が以前書いた記事からの引用である。

これ、1998年のアニメ作品なのだ。
初めてその名前を聞いたのは、高校を卒業した年に始めたバイト先でだった。正直、当時はモンタナ・ジョーンズっていう全然違う作品と混同した。そっちはNHKでやっていた子ども向けのアニメだ。
同僚がビバップを好きでちょろっと話を聞いて、なんとなくずっとそのことを記憶していた。人間とは不思議なもので、おかしなことばっかり忘れなかったりする。例えば、友達の友達がラーメン屋のバイトをバックレてその分のお給料を取りに行くか悩んでたこととか、銭函のラブホにはマジックミラーの部屋があって全部盗撮されているっていう噂とか、同級生がコンビニでバイトしててコンドームを「あっためますか?」って訊いたこととか(ただのやべー奴じゃん…)。
結婚したら、夫がビバップの本を持っていた。あれは画集とでも呼べばいいのだろうか、ちょっとマニアックなやつだ。そんな夫はビバップを何度も何度も見返しているほどのつわものだったりして、そうしていたらテレ玉で放送が始まるわ、サブスクでビバップの音楽の配信が始まるわ、驚いた。

なんとなく、私が死なない様にビバップ号の面々に見守られている気がする。そうやって時々私の前に現れて、私を鼓舞してくれているみたいに。

そういう、自分にとっては少し特別な作品というのが、私からのビバップへの想いであった。

今年の春には、私のバンドは、ビバップを今になって放送してくれた、かのテレビ埼玉のCMに出演する運びとなった。

これもまたものすごい偶然に偶然が重なった結果—とは思いつつ、心のどこかで「ビバップ号がここまで連れて来てくれた」感を否めない自分があった。

そして再び、忘れちゃあいないけれど「忘れた頃」という言葉が似合う頃合いになって、メットライフドームに「Tank!」が響いているのを耳にし、感慨深くなったのだ。しかも私の古巣である北海道の、ファイターズとの試合の日に、だ(ちなみにその日、三回ほどリクエストがあった…こんなにリクエストってあるものだっけ?)。

以前、眠れない夜になんとなく検索して、どうしてか、見知らぬ人のビバップについての考察ブログに行きついたことがある。

うろ覚えだけれど、そこには「カウボーイビバップには性的なシーンがほとんどない」と書かれていた。

細かく言うと、確か「他人のベッドシーンに突入する」とか「シャワーシーンのち、そういった行為が展開されることを想像をさせる(結局、行為はしないんだけれど)」…的な部分はある。うまく表現できなかったので、誤解があったらごめんなさい。ともかく、この作品では、今の世の作品に溢れている露骨なエロ表現が極端に少ない—とでも言えばいいだろうか。

その、見知らぬ人のブログによって、私の目からは確実に鱗が落ちた—ああ、ほんとだ、ときょとんとした。そして、そういった表現が無くとも名作であるこのビバップは、どこまで素晴らしい作品なのだろう、と嘆息した。

今までもたまに書いてきた。そして、今日も書く。正直、世の中の性的な表現に疲れてきた—ううん、なんだか言葉が足りない。別に「最終兵器彼女」とか、やまだないと先生の作品に描かれてきた様なエロについて、私はそこに違和感を持ったりしないし、それらはまたそれらで本当に素晴らしい作品たちだ(サイカノとかもう古い作品だけれども…)。


青年誌での連載だったと記憶しているので、高校生にはやや過激なセックスシーンもあった(ただし、ただエロい描写というワケでは無い)。過去に関係した相手との浮気とか、好きな人と結ばれることがないゆえに起こる別の相手との処女喪失とか、そういうシーンも当時の私には衝撃的だったけれど、でもそれらが一層、物語に臨場感を与えていた。きれいごとだけでは進まない、それがこの世界なのだから。

最初に持った違和感は、昨年、とある衣料品メーカーが炎上した時に感じられた。

正直言って(あくまで私の主観では)「騒ぎ過ぎだろう」と思わされることが多い世の中の炎上案件の中、私は件の衣料品メーカーがやらかしたことについては「うわぁ…これは無理」と思った。これはさすがに、世の中に大歓迎で受け入れられる案件では無いだろうと感じた。これが易々と受け入れられてしまわないだけ、言われている程日本は腐っちゃあいないな、そう思うくらいだった。

内容に関しては察して欲しい。ただ言えることは、そこには男性からの性欲が溢れ出していた。ハンバーガーの隙間からだらだらと、溶けだしたチーズみたいに。

この件は、その炎上のきっかけになった、衣料品メーカーの「中の人」がどうも女性であるらしいことからも、ネット上でもなかなかに議論となっていた。

「中の人」が女性である場合、こういった案件では、「やめてほしい」と声を挙げた側の女性が、世の男性がたから余計に「おフェミさん」と揶揄されがちだ—たぶん。

実際、うちの夫とすらもこういう話はどことなくすれ違ったりするので、そういう時は正直しんどい。

きっと今までの世の中において、一部のちょっと横暴なフェミニストが無茶をしてきたせいもあって、「もうちょっと抑えた表現をして欲しい」という真摯な意見が、単なる表現への弾圧として認知されがちなところがあるのだと思う。

この間も中野ブロードウェイの件で炎上があったけれど、

結局、AVを取り扱っているお店側に落ち度があったらしく、警察が入ったとのことだった。

いろいろ考えてみたけれど、私は「Spank!の前にエッチなお店があったっていいと思うけれども、エッチなお店側がもうちょっと配慮をした上で出店したっていいんじゃあないか」という考えに行きついた。

…というのが私の意見だったけれど、世論的には「この雑貨店、エッチな店ばっかりのところに入店しておいて何を今更」…みたいな声が案外あったので、私自身にはそんなつもりは無いけれど、私という存在は、世間的には「おフェミさん」なんだろうか—そんな風に考えて、ちょっと苦しくなった。

なんでゴブリンはすぐ女性を犯すのか、なんで、ブラで固められているはずの胸がいちいち揺れる女の子がいるのか―アニメをちょっと見ただけで、そんな疑問がふつふつと沸く。不思議だな、そう思う。別に、おすしがお相撲をしているだけで幸せになれるのに—子どもだけでなく、大人も。


今や、いろんな作品の中に「描かなくてもまっとうにストーリーの進みそうなエロ」がぶち込まれていて、割かしそういったものへのふところが深いはずの私でさえ、時に辟易させられている。
でもあんまりそういうことを口にすると「おフェミさん」とか揶揄られるんだよなーと、じゃあ黙ってた方がいいよなってなるわなと、そんな風に感じて気持ちをシャットダウンさせているのが私の現状だ。
なんだろう、せめて「性犯罪に繋がらなさそうな塩梅に落とし込んでいてくれ」とでも言えばいいのだろうか。でもいわゆるAVとかがあるから日本の性犯罪も抑えられていると聞く。ならば多少の「描かなくても良さげなエロを敢えて描くこと」も、許容すべき事柄なのだろうか…うーん、難しいことはよくわからん。

そんな混沌とした世の中で「どすこいすしずもう」は、お寿司にお相撲をさせる。行司はわさびで、呼出はガリだ。そしてほんのわずかな5分間で、魅力的な取組を見せる。大人でも、きっと殆どの人が空きを作れる5分間だ。私みたいに録画予約しておけば、隙間時間ってやつで充分に見られるだろう。

アニメから話は変わるけれど、先日、妊娠線がくっきりと出てしまった女性のからだの画像がネット上で取り上げられていて、そこに「もう抱けないやん」とコメントしている人がいるのを見た。

ああ、頑張って子どもを産んだというのにそんなひどいことを言われないといけないのか―そう思って、他人のことながら悔しくて悲しくなった。それに、女性を「抱ける」「抱けない」でしか見られない人がいるということにも、残酷さを感じた。

正直、このままこの世に生きていくことが困難にすら思えた。

今まで笑って受け流してきた様な冗談をも、ただ苦痛にしか思えない自分がいた。

そんな自分を、やっぱりビバップ号の面々が救いに来てくれた様に思った。

繰り返されるリクエストのたびに、白いライオンのいる球場に流れる「Tank!」。

私には彼らがついている—そう、思おう。気のふれた女の思い込みと言われてもいいよ、それでも私にとっては、大切な、生きる為の糧なのだから。

私を生かしたいのなら、ずっとずっと、私を見守っていてね。


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