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概ねこんなことを考えたりしている。
生きているうちのどこまでが動物的欲求(本能的)なのか考えることがしばしばある。
誰かのために命を落とすというような利益を超えた利益、非生存益といっておこうか。別に殉死がいいのじゃなく。自分を度外視して他人のために何かすることで、その人の利益を自らの心的利益と捉えられることがだ。それを良しとできる所が俺の愛する人間の美しいところなのだ。それは人間が理性を得たときについてきた進化の産物なのか、或い
60年分とそれから#7
「生存戦略」 こんなはずじゃなかった。父親ではなく友達になりたいと言った俺に対してカートが一気にイメージを変えて、段々と心の扉を開けてくれて行くはずだったのに、カートは普通の顔で「嫌だ」と言った
「どうして?」
うちひしがれた胸を必死に押さえて俺はカートに聞いて見せた。友達ですら居たくないなんて会話もしていないのにどこでそんなに嫌われてしまったんだろうか
「敵だから」
「敵じゃないよ、僕は味方だ
60年分とそれから#6
「精一杯のちぢこまり」 「カート君!」
会場を出てお手洗いへと通じる白い絨毯床の廊下で、カートは椅子に体育座りをしてうずくまっていた。そんなに広い建物ではない。関係のない部屋に入れるようにはなっていないし、俺はすぐにカートを見つけることが出来た。というより、ここにいるであろうことは探す前から見当がついていた。そして見つけたら先ず最初にすることも決めていた。これまでずっと考えてきたこと。そして今日
60年分とそれから#5
「ハートブレイクコウタロー」 カートの大声を聞きつけて、俺たちの方へ大股にゆったりと歩いてくる人が見えた。白いシャツに黒のネクタイ。白髪まじりの頭を七三にまとめて、顎髭を蓄えた大柄の老人男性だ。背筋がしゃんとしている。しゃべらずとも伝わる威厳を背に纏わせて近づいてくるこの方を、俺は知っている。ユキエちゃんのお父さんだ。その背に隠れて小柄なお母さんもこちらへ歩いていた。
「やい。翔人。そんな声を出
60年分とそれから#4
「カートvsコウタロー」 何をいうか身構えていると、カートは何も言わずに顔を戻しテーブルに向かったまま動かなくなった。微動だにしない。感情を読み取らせまいとしているのか、あえて無表情を貫くその状態は白さや美しさも相まって石膏で作られた彫像を想像させる。先ほどまで力強く何かを捉えていた瞳はまるで光を失い何かに耐えているようだ。あるいは時が経つのをただ待っているようにも窺えた。俺は思わず感動してしまっ
もっとみる60年分とそれから#3
「アイスブレイク難航」 今、俺は自分がどんな顔をしているのか見当もつかない。初めて会った日は帽子を深く被っていたから。
「カート君。はじめまして。僕の名前はコウタローだよ。よろしくね」
その日、カートは俺が何度も何度も練習して諳んじた挨拶をいう間もなく自分の部屋に走っていってしまった。結局、なにも言えないまま帰ることになってしまった。
子供に嫌われるというのは、なんだか自分の人間性の部分を見
60年分とそれから#2
「ママ」 小学校に上がる前。お父さんやお母さんのことは大切にしようねって美恵子先生が言ってた。ご飯を食べさせてくれて、育ててもらってることを忘れちゃダメだよって。
大切にするとは、もうちょっとちゃんというとどういうことだったんだろうってよく思い出して考えたりする。夜ご飯食べたらお弁当のヨウキは洗ってから自分で捨てるとか、ママが泣いてたら一人遊びして元気にしてあげるとか、日曜日に一緒に入れるときは
60年分とそれから#1
「母」 一番小さい頃の記憶というのは、なかなかに薄れているのでどんな子供だったのかを先に話そう。記憶というのは大事にしなくちゃならないよ。ほっとくとどっかに行くわけだからね。その癖恥ずかしい話に限って他人は覚えてることが多いんで、年越しには従兄弟に嫌なエピソードをひけらかされることがあるんだ。だから昔話はあんまり好きじゃないんだよ。記憶はしっかり留めておいて覚えのない辱めを受けないように話題をそ
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