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板倉俊之著『トリガー 国家認定殺人者』~読書記録

1,イントロダクション

 新年になり、それなりに事は進んでおります。本も少しずつ読み、1月は10冊以上読めそうな気がします。転職活動はそれなりにしてますが、あまり気が進まない感じなところもあるのかなあ、と思います。一番は、「やりたい」ことより、「できる」、あるいは、「可能性がある」ところで、努力したり、スキルを伸ばしたりすることが大切なのだな、と気づく今日この頃です。好きなことで、お金が少しでも入ってきたら嬉しいのですが、まだ、遠いかな……。話がかなりズレました。

 今日は、最近読んだ本を紹介します。
 板倉俊之氏の『トリガー 国家認定殺人者』です。
 この本は、2009年にコント師として評価が高いインパルスの板倉さんが、デビュー作として書いた小説です。2020年、文庫化に当たり、新たなエピソードを加え、加筆・修正して出版されました。
 板倉氏は、以前に『蟻地獄』、昨年に『月の炎』を読んで、「やはり、凄いなあ」と思いました。インパルスのコントは、面白いですが、少々クドイ部分もあり、自分の中では少し消化不良な部分がありました。しかし、小説や作品を読んだら、面白くて、「次の展開は?この後、どうなるの?」と、速いスピードでページを捲る自分がいました。小説界に、衝撃、つまり、インパルスを起こせるくらいの作品があるのではないか、と考えています。実際に、芥川龍之介賞を獲った又吉直樹氏よりも、小説家としてのデビューは先にしてます。(又吉氏は、純文学で、板倉氏は、エンターテイメント分野なので、そもそも比較がお門違いな部分があるかもしれませんが……。ちなみに、両者とも好きです。)

 ちなみに、読書家で知られる爆笑問題の太田光氏が、この作品をべた褒めして、単行本の帯にもこんなコメントを寄せています。

板倉。見て見ぬフリの文壇に、この弾を撃ち込んでやれ!
――太田光

 確かに、かなり面白いのに、過小評価されてるところはあるかな、と思う節があります。コントでも、面白いですし、実際にキングオブコントで、評価が高かったものの、2009年で、サンドウィッチマンや東京03、2011年にロバートに負けたので、相手に恵まれなかったのかな、と思います。
 板倉氏のコントや小説は、ブラックユーモアや独特の雰囲気があって面白いです。例えて言うなら、ナンセンスもあるが、一部は良質なフィルム・ノワールもあるなあ、と思います。何でもできる多彩な芸人さんです。最近は、腐っているイメージがありますが、それも面白いです。好きな芸人さんなので、頑張ってほしいですね。

 それでは、長くなりましたが、語りたいと思います。

2,あらすじ

 2028年。日本は、国王制となり、「日本国」となった。犯罪をなくすために、制定された「射殺許可法」。各都道府県にそれぞれ1名ずつ認定され、配属された人は、「トリガー」と呼ばれ、拳銃と電子手帳が配られ、その人にとって「悪」と見なした場合、銃で人を射殺することができる。「正義」と「悪」が綯い交ぜになった、近未来ハードボイルドアクション小説である。

3,「トリガー」、「射殺許可法」について

 「トリガー」は、前述の通り、「射殺許可法」によって制定され、認定された、死刑執行人である。
 その「射殺許可法」というのは以下の通りである。

『射殺許可法』※一部のみ表示
・各都道府県に一名ずつトリガーを配置する
・任期は、1/1~12/31までの1年間。
・トリガーにはICチップ内蔵の拳銃と、電子手帳が支給。
・各トリガーの銃は、トリガー本人が住民登録している都道府県内でのみ効果がある。エリア外に出ると、自動的に引き金にロックがかかる。
・トリガーの選定法は、志願者に脳波計をつけた状態で、ある映像を見せ、アドレナリン分泌のタイミング並びに量、および脳波を測定、そのグラフが国王により近い者を適合者とし、国王が最終決定を下す。
・トリガーがどのように銃を使っても、その行為は法的に処罰されない。

 このような感じです。この法の下、そしてトリガーがいる状況下で、「正義」と「悪」、そして、「犯罪」が描かれています。様々な要素が組み合わさってます。

4,感想

 一言で言えば、物凄い面白かったです。その上、考えさせられました。この作品は400ページ弱あり、自分は遅読な方なのですが、2日程度で読み終わることができました。後半に行くにつれ、様々な登場人物が重なり、いわゆるミステリーやお笑いでいう「伏線回収」がなされていて、カタルシスを覚えました。近未来SFやハードボイルドと謳われてましたが、自分は、一種の「不条理喜劇」のようなものを感じました。

 それぞれの「トリガー」と認定された人々の考え方も面白くて、人間の描き方やキャラクターが、凄かったです。すぐに「悪」とその人自身が認めたら銃で射殺する人もいたり、人を殺したくないからといって引き金を引かない人もいたり、中には、その銃で自分の頭を撃ち抜いたり……、銃を手に入れたら、どう扱うか、その人間の心理描写にも驚きました。コント師であり、板倉さんは様々なキャラクターを変幻自在に演じられるので、それもあるのではないか、と思いました。文章も読みやすく、しかし、質感が渇いていて、短文をテンポよく書いていて、それでスピードが上がってきたのではないか、と思います。

 犯罪を減らすために、「悪」を裁き、「トリガー」自身が、「殺してよい」と思ったら、銃で人を殺めることができる、とあります。しかし、その境界が曖昧になって、「ムカついたから殺した」とか、「悪影響を及ぼしそうだから撃った」という動機で人を殺しているところもあります。それがまかり通る世の中なので、「『正義』とは何か?『悪』とは何か?」という疑問がグルグルと頭の中を駆け巡りました。どんな悪に染まった人間にも、家族がいたり、故郷があったり、間違いや過ちを犯したりするので、それで生命を落とすのは、何処か不思議だなあ、その反面、切ないなあ、と思いました。自分の言った言葉が、誰かにとって傷つくこともあるし、他の誰かにとっては救われるパターンがあるので、それを体現し、表裏一体を示しているような感じもありました。広い視野で見れば、「トリガー」や「射殺許可法」によって踊らされている、日本人を描いているようで、板倉氏の立てた構成、プロットは物凄い緻密に計算されているなあ、と感じました。

 映画に例えるなら、昨年、大島渚監督の『絞死刑』という映画を劇場で観たのですが、それに似たテイストを感じました。人間を死刑にするのも人間で、それは、間接的に「殺人」なのではないか、と思い、その死刑執行した場所にいた人たちがドタバタ劇を繰り広げるものでした。そのようなものを感じました。

 また、北野武監督作品の『その男、凶暴につき』や『ソナチネ』のような、初期のバイオレンス作品を彷彿とさせました。板倉氏が影響を受けているか定かではないですが、少し映画っぽくて、誰かが映像化してほしい、と感じました。板倉さんが脚本とかやってほしいです。

5,終わりに

 5~6年前に行った、某コピーライター講座の説明会でのことです。
「僕のお父さんは桃太郎というやつに殺されました」というキャッチコピーを、ふと思い出しました。これは、桃太郎の物語を、鬼側の視点で描いたものであり、「桃太郎=正義」、あるいは、「鬼=悪」というステレオタイプを覆すような視点で、面白いなあ、と思いました。今回の『トリガー』にも、とある人物の手紙で、このようなことが書かれてました。

 どんな悪人であろうとも、家族がいます。悲しむ人がいます。だから、どうかもう、人を殺さないでください。

 なんか、見たことあるなあ、と思ったら、これと少し重なっているなあ、となんとなくですが、感じました。
 人間裏表なしに生きてみたいけど、なかなか出来ないものだ、と気づきました。また、人間は昨今の状況も照らし合わせて、やはり「無力」だと感じました。自分も、こんな感想書いてますが、「伝えたい!」と先行しても、一部の人しか読まないので、「無力感」を感じてしまいます。
 まあ、それも人生です。セ・ラ・ヴィ、ですね。
 嗚呼、いつになったら、カラシニコフの引き金を引くことができるのだろうか。

 今日はこの辺で。

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