竹内正実

テルミン奏者。1993年ロシアに渡り、テルミン博士の血縁のリディア・カヴィナにテルミン…

竹内正実

テルミン奏者。1993年ロシアに渡り、テルミン博士の血縁のリディア・カヴィナにテルミン演奏法を師事。

最近の記事

私の中の「Perfect Romantic」を探して

 テルミン演奏活動を日本国内で本格化させた20世紀の終わり頃、田仲容子さんについて、知人のミュージシャンから知りました。  旅先のグアテマラで33歳の若さで急逝した画家 田仲容子。「涙が出るほどロマンチックな絵が描きたい」と言っていた彼女の遺作集。  一度も実物のテルミンを見聞きすることがないまま、ロマンティックな想像を膨らませて描かれました。私もテルミン演奏で自分の中の永遠のロマンティックを探しているようなものです。久しぶりに田仲さんの画を観て、私の中の「Perfect

    • バイクと私

       テルミンとの関わりは30年を超えますが、バイクについてはそれよりもずっと長く、18歳の頃からですから40年近い付き合いがあります。  あんなに暴力性に富んだ乗り物を、アクセル一つでかっ飛ばせる自由を我が手の中に収めておける歓びといったらありません。  バイクに長く乗っている人であれば転倒の経験もあるでしょう。峠でこけた経験は私にもあります。怪我もしましたが、それでも乗るのをやめられません。  脳卒中を患い、右半身に麻痺が残ってからは乗っていません。いつだったか旅行先でレ

      • 和製ヘビメタと源氏物語

         和製ヘビーメタル音楽と源氏物語に代表される平安文学に相通じるものを感じているのは、きっと私だけでないと思います。  どちらも「なんでもあり」の現代の自由にどこか背を向けています。どちらかというと不自由な様式美を愛しているようにさえ見えます。ハードロックの一部はサイケムーブメントに乗って、ドラッグによりブーストされ性の解放へと一直線に飛んで行きました。それは祝祭的でしたが、一方、和製叙情派ヘヴィーメタルには春への憧れといっても、「愛と誠」的純愛を志向する閉じた耽美があります。

        • 小さな喫茶店

           かつて暮らした町の隣町は喫茶文化が盛んで、あちこちに小さな喫茶店があります。コーヒーとホットケーキで有名な小さな喫茶店は、ひさしぶりに訪ねてみれば昔と変わらぬお店の佇まい。美味しさも昔と変わりませんが、マスターの増えた白髪に時の流れを感じます。壁に貼られた「写真撮影ご遠慮ください」の文言に、マスターもご苦労されたんだなと、思いを馳せました。  この町にはお気に入りのお店が他にもありましたが、お客とのトラブルが絶えず、ついにはお店を閉めてしまったところも。善良なお店や店主がお

        私の中の「Perfect Romantic」を探して

          私の密かな楽しみ:レコード鑑賞

           数年前に中古のレコードプレーヤーを手に入れました。  FM放送のエアチェックに興じていた兄の影響を受け、小学校低学年頃にオーディオに興味を持つようになりました。その頃は言うまでも無くネットなどなく、メディアの王様はテレビであり、ラジオでした。未だに日野皓正の「CITY CONNECTION」を愛聴していますが、そのきっかけは70年代頃観たサントリーのテレビCMでした。私は音楽の聞き方が多様化した現代においてアナログのレコードを聞くのを愉しんでいますが、この嗜好の根っこにある

          私の密かな楽しみ:レコード鑑賞

          自由な時代に型にこだわる

           年末のテレビ番組を観ていると、紀貫之を特集しているものがありました。次作の大河ドラマ「光る君へ」と関連させているのでしょう。脚本が大石 静さんとのことで、大いに期待しています。  紀貫之というと、かな文字や和歌の地位を高めたことで知られていますが、「型」も重んじたとは知りませんでした。最近の短歌や俳句などのテレビ番組を観ていると、自由律に脚光を当てているのをよく見かけます。一見すると不自由から解放されて自由ですが、この「自由」が創造性を縛り、人はそれに苦しんでいるようにも

          自由な時代に型にこだわる

          鳴き竜はノイズ?

           テルミンを立って演奏する練習に取り組んでいることについてはこのブログでも書きました。これまでイヤホンでモニターしていたのは、美しくない音で奏でているのを誰かに聞かれたくないがためです。一度思い切ってスピーカーで鳴らしてみたところ、思いがけず音楽を奏でる興奮がよみがえってきました。身体の揺れは相変わらずですが、スピーカーから聞こえてくる音はどこか懐かしく、脳卒中発症前に自分が奏でていた頃の音の要素がそこにはありました。  利き手を左手にスイッチしてほぼ一年。ビブラート動作も

          鳴き竜はノイズ?

          立って弾く

           頭頂部のおできは無事取り除けましたが、入院している間、読書三昧だったり、マトリョミン練習したりと、リハビリをすっかりサボってしまいました。「一日休むと三日分下手になる」と言いますが、リハビリも同じ。麻痺が残っているので癖がつきやすいようで、正すのに時間を要します。  改めてテルミン演奏を身体の使い方という観点で眺めてみれば、動作を止めておくのと柔軟に動かす、まったく性格の違う運動要素の組み合わせで成り立っていることが分かります。  脳出血を患う前の私の演奏の特徴は、動かさ

          立って弾く

          リインカーネーション

           私事ですが、つむじのあたりにできた腫瘍を取り除く手術を済ませ、縫合する手術完了を受けて、一連の治療は終わる予定です。2016年12月のクリスマスコンサート出演中に発症した脳出血以前から居座っていた、私の中の邪悪を取り除くことできそうです。  これも何かの節目と、昨年1月から利き手の役割を入れ替え「左利き」テルミン奏者として奏でてきたテルミンですが、これも原点たる右利きに戻すべく、Etherwavethereminも元の状態に戻しました。脳卒中発症前のようにすぐに弾けるわけ

          リインカーネーション

          「未読スルー」考

           SNSとの接し方は人それぞれ。別にSNSを使っていようがいまいが、どちらでも構わないのですが、普段の言動からSNSに対して無関心と思われたい、そう装いたい欲が透けて見えることがあります。人は最も関心を寄せることほど無関心を装いたがるのは、今も昔も変わりません。  そういう人たちに共通して見られた振る舞いが「未読スルー」。これはSNSこそが自分の居場所と考える人たちにとって、最も重い「罰」にあたるよう。「既読」なのに「未読」と見せかけられるアプリもあるように聞きました。  

          「未読スルー」考

          手術台に乗ってきました

           脳出血を発症する前からつむじのあたりにでき物があって、少しずつ大きくなってきたので、取り除くことにしました。兄も頬のでき物を取り除きましたが、そんな程度に軽く考えていたら、ちょっとおおごとになってしまいました。  近所の皮膚科にでもいけば簡単に切除できたかもしれませんが、私を担当することになった形成外科の先生によれば、下手に刺激を与えるのはよくないので、まずは腫瘍を取り除き、その際に切除した組織の検査は後日行う。切除は局部麻酔でやって、二回目の縫合したりする手術は全身麻酔

          手術台に乗ってきました

          嫌いなのものと好きなもの

           テルミン演奏に取り組んで今年で30年になります。様々な人と関わりました。  私には天邪鬼ともいうべき難儀な傾向が心の中にあることを知っています。  テルミンの様な演奏がとても難しい楽器に長年取り組んでいるからかもしれませんが、困難のハードルが高いほど自然に足が向いてしまう挑戦癖のようなところがあります。実際、関わった人の中には、性格的に難アリな人もいましたが、そういう人の話にこそ耳を傾け、優しく接してあげるべきと自分に課しているところがある。その代償として、どれだけ多くの

          嫌いなのものと好きなもの

          心のままに

           私が主催する「認知症マトリョミン演奏サロン」を実施しています。9月から12月まで浜松市内で開催中ですが、メインイベントとなる浜松駅前のオープンスペース「ソラモ」でのイベントを開催しました(NHK静岡様にご取材いただきました)。  「認知症マトリョミン演奏サロン」で演奏体験された方々の声を集めています。 マトリョミンの演奏特性については「繊細に反応するので驚いた」「難しかったが楽しかった」といったご感想を多く耳にしました。  トレーナーの方に手を取られての演奏法については「

          心のままに

          スイッチはどこにある?

           9月21日は「世界アルツハイマーデー」   国際アルツハイマー病協会(ADI)が認知症への理解をすすめ、本人や家族への施策の充実を目的に制定されたもの。1994年9月21日、スコットランドのエジンバラで第10回国際アルツハイマー病協会国際会議が開催されたが、会議の初日であるこの日を記念日として定めた。  鍵盤やフレットといった音の高さの基準が楽器の側にないテルミンのような楽器に長年取り組んでいるので、音の高さに関しては敏感な特性が人間に備わっていることについて日々実感して

          スイッチはどこにある?

          テルミン博士のお誕生日に際し、電子楽器テルミンの昨日、今日、明日について考察する

           私とテルミンとの関わりは、テルミン演奏を習うためロシアに渡った1993年に始まる。  テルミンの楽器に触れずに奏でる演奏法に関心があった。手が1mm動いたなら、1mm分だけ音の高さが変わる敏感な演奏特性が、最新技術でなく、古典的な電子発振の応用によりもたらされている点に興味を持った。ありふれていた電子発振方式「ヘテロダイン」から、世界初の電子楽器を創り出し、おまけに触れずに奏でる演奏法だとは、非凡な着想と鮮やかな手法にテルミン博士の天才を見た。また、弾く人が違えば動作が違い

          テルミン博士のお誕生日に際し、電子楽器テルミンの昨日、今日、明日について考察する

          テルミン博士も考えなかったテルミンの可能性

           テルミン発明から100余年。ロシアで創られた世界初の電子楽器テルミンですが、革命や戦争といった時代の荒波に楽器も発明者も翻弄されました。発明当時、テルミンは軍事、保安、諜報といった領域における応用を期待され、その技術は求められました。一世紀の時を経て、テルミン演奏が普及し、高齢化社会のトップランナーを走る日本において、テルミンの演奏特性を認知症予防に活用しようとする試みが生まれていることは、さすがのテルミン博士にも想像できなかったでしょう。  以下は「認知症マトリョミン演

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