鳴き竜はノイズ?

 テルミンを立って演奏する練習に取り組んでいることについてはこのブログでも書きました。これまでイヤホンでモニターしていたのは、美しくない音で奏でているのを誰かに聞かれたくないがためです。一度思い切ってスピーカーで鳴らしてみたところ、思いがけず音楽を奏でる興奮がよみがえってきました。身体の揺れは相変わらずですが、スピーカーから聞こえてくる音はどこか懐かしく、脳卒中発症前に自分が奏でていた頃の音の要素がそこにはありました。

 利き手を左手にスイッチしてほぼ一年。ビブラート動作もマシになってきて、ようやく自分の音に音楽の要素が戻ってきたとも言えますが、私の観点は少し違います。
 私は自らの1stCDアルバムを2001年に作った時から、自分自身のテルミンの音の録音やミキシングを担当しています。比較的狭い空間に大きな面積のある壁面が平行していたりすると、フラッターエコー(定在波、鳴き竜)が立つからと敬遠されます。学校の音楽室ではその解消のために平行面を作らず音を乱反射させたり、多穴ボードを壁面に用いていたりしています。音響的には邪魔者扱いされるフラッターエコーですが、音響的に量感を感じたり、音楽的に鳴ってくれるのを感じるところは比較的小さな容積のシューボックスタイプだったりします。経験的に「フラッターエコー」の要素が大いに影響しているからではないかと密かに考えています。立派なレコーディングスタジオで興奮を伴う音響の経験をしたことがありません。2001年に録音したときもレコーディングスタジオでなく、どこにでもあるような私の部屋でしました。音響的に好みだというだけでなく、なんとも「その気」にしてくれる音だったのです。

 イヤホンモニターは音を顕微鏡で覗くように精密にピッチ精度を確認できますが、なんとも「感じない音」。箱鳴りする場で弾いたなら、音量を増していけば、部屋全体が鳴っているような、動物がいなないているかの感覚に包まれます。身体性の高いテルミン演奏であれば、まずはピッチ精度であることは言うまでもないのですが、ずいぶん遠回りをして、私にとってテルミン演奏の魅力はいったいどこにあるかについて、再発見させてくれました。

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