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記憶の中の橘正一『化け物研究』―方言研究者・大田栄太郎の回想

 以下の記事で橘正一の発行していた『化け物研究』(最終的には『民間信仰』と改題して発行。本記事では以下『化け物研究』と記載する。)は実際に出版されていたことが分かったが、現在ではこの雑誌は忘れ去られてしまった。しかしながら、橘と交流のあった方言研究者・大田栄太郎は『化け物研究』のことを記憶していた。大田は東條操(方言研究の先行者)、橘と共同で雑誌『方言と土俗』の発行を計画するほど橘と交流があった。(注1)大田栄太郎『方言調査・研究・資料目録―主に戦前を顧り見て戴恩記とともに―』(だるま屋、1970年)は大田が執筆した方言文献目録、論文、交流のあった人々との文章をまとめたものである。(注2)(書影を写真で掲載しておきたい。)ここに「橘君を懐ふ」という橘に関する回想も掲載されており、ここから『化け物研究』に関する部分を引用してみたい。なお、この文章の初出は『国語研究』第8巻第5号(1940年)であるという。

表紙
奥付
目次。柳田国男や渋沢敬三の回想も収録されている。

君は初め方言といふよりは寧ろ土俗学者であった。確か処女出版は「盛岡猥談集」(発禁)か何かであり、例の昭和五年八月に創刊主宰した「方言と土俗」をその誌名の示す通り双股のもので、大体が土俗が主体で橘君も土俗雑篇を載せてゐたのであった。当時君は非常に土俗研究に熱心で先の雑誌一つで足りず「化け物研究」といふ雑誌(確か二三冊で廃刊の筈)を発刊したことによってもその間の事情が分る。/時代の流れであったか「方言と土俗」も次第に土俗から方言雑誌と変り、方言を題材に取扱ったものが漸く多くなって来た。(後略)

大田は橘の『化け物研究』のことを「確か二三冊で廃刊の筈」と回想しているが、正しくは創刊号で廃刊である。このように、大田のように橘と深い交流のあった人々の中には『化け物研究』を記憶していた人物もいたようであるが、その記憶もあいまいなものであった。橘が早逝したこともあり、『化け物研究』は忘れられてしまったようである。

 この『化け物研究』の存在を実際に確認して紹介した文章を以下の『草の根研究会会報』第1号に投稿しました。しばらく売り切れとなっていたが、この度増刷されたので興味のある方は以下のページをご覧になってみてください。ページ内の「購入フォーム」よりお申込みいただけます。

(注1)松本博明「橘正一と雑誌『方言と土俗』」『岩手郷土文学の研究』第五号、岩手郷土文学研究会、2004年、P21~41。

(注2)この本は国会図書館デジコレに最近収録されており、国会図書館内で閲覧可能。

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