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『遠野物語』柳田国男をより楽しむため読書案内①

 現在、ツイキャスというサイトで「『遠野物語』柳田国男を読む」(追記1)という連続企画をやっているが、放送で触れた、もしくは参照した文献を『遠野物語』をより楽しむための読書案内という形で文章にしていきたい。『遠野物語』に関する文献や論文は膨大にあり、私もすべてに目を通しているわけではないが、私の読んだ範囲で少しずつ紹介していきたい。

①『注釈 遠野物語』(後藤総一郎監修・遠野常民大学編)

 私が読んだ限りでは一番詳しい『遠野物語』に関する解説書。ページ数は400ページを超える。柳田国男研究で有名な後藤総一郎と遠野市民が中心となって形成された「遠野常民大学」が編集を行った。専門家と地元遠野市民による10年におよび調査・共同学習の大きな成果である。出版されたのが1997年とやや古く最新の柳田国男研究の成果と照らし合わせると疑問に感じる箇所もあるが、このボリュームの『遠野物語』の解説書が今後出るかどうかは分からないため、この本の価値は損なわれないであろう。また、昨今話題となっている専門家と市民の共同研究の先行事例としても注目すべきであると思う。

②『遠野物語の誕生』石井正巳(ちくま学芸文庫)

 『遠野物語』の成立過程を残された原稿資料をもとに丹念に検証、再現していく。『遠野物語』は民潭のテキストか、文学作品かという議論が起こることがあるが、この本を読むと柳田国男と佐々木喜善の共同の創作物であったということがよく分かる。『遠野物語』がどのようにしてつくられたかを知りたい方におすすめ。

③『柳田国男と遠野物語』石井正巳

 『遠野物語』に関する論考を多く収録されている。『遠野物語』は1935年に柳田国男の還暦を記念して増補版が再版されたが、その再版の経緯、その際に加えられた『遠野物語拾遺』に関する論考、佐々木喜善の再評価など、論じられる範囲は『遠野物語』にとどまらない。

④『遠野/物語考』赤坂憲雄(ちくま学芸文庫)
 『遠野物語』を柳田国男の創作したものとして、伝承された地である遠野に戻してみて元のはなしや民俗を検討する。本の題名にもある「遠野/物語」は『遠野物語』を解体するという意味も込められている。赤坂憲雄の提唱する「東北学」につながる指摘もあり、民俗学にも興味がある方向け。特に『遠野物語』をヒントにして、日本列島と北方文化の関連を考察する論考がおもしろい。

(追記1)YouTubeにも随時あげているので、こちらでも観られます。

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