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和歌山県田辺で結成された?趣味人の集まり・熊野趣味道楽宗

 戦前の趣味人の集まりには「〇〇宗」という団体がいくつかあり、東京の三田平凡寺を中心とした我楽他宗、大阪の高橋好劇を中心とした浪華趣味道楽宗(注1)、兵庫の西宮にあった西宮雅楽多宗(注2)が知られている。これらの団体は各趣味人が寺院に見立てた山号寺号を作り、〇番○○山○○寺と名乗っていた。(注3)(たとえば、三田平凡寺は趣味山平凡寺と称していた。)これらの集まりが組織された大正時代には、都市だけでなく各地域でも趣味人の集まりがあったが、和歌山県田辺には「熊野趣味道楽宗」という我楽他宗などに触発されたと思われる趣味人の集まりが組織された。以下の記事で紹介した蒐集家・上中宗太郎が発行していた『熊野趣味研究』の第1巻第1号の「私の希望品」には以下のような記述がある。

私の希望品
1.ポスタースタンプ a 内地物 b 外国物
2.シーリングスタンプ(封緘紙)
a 商店用(百貨店、呉服店、食料品店其他)
b 商品用(売薬、薬品、食料品其他一般)
c 官公署用(逓信省、大蔵省、宮内省、外務省、大公使館、旅団連帯其他)
3.記念絵葉書 優秀名所絵葉書
4.レッテル類
a 足袋票 b 名物票 c 駅弁 d 本票 e 広告燐票 f ビール、ラムネ、サイダー票 g 薬品票 h 呉服票 附 同業組合證
5.新聞表題
6.趣味誌 趣味に関する切抜
7.郵券 a 日本 b 外国
8.印紙
9.蔵票
10.入場券類
11.名所、航路案内
12.官製葉書、官白
13.納札
14.宣伝ビラ
熊野道楽宗第一番札所
和歌山県田辺町
娯美宅山蒐楽寺住職 上中宗太郎

1.貝に関する書物
2.版画
3.美術展原色エハガキ
4.記念エハガキ(官公署)
5.風俗エハガキ
6.官白
右恵送品に対し美麗なる貝殻にて返礼致します
熊野道楽宗第二番札所
紀伊山貝蔵寺住職 木下清一郎(和歌山県田辺町北新町)

上述の情報から『熊野趣味研究』に投稿している上中、木下が熊野道楽宗に所属しており、上中が第一番札所であることから熊野道楽宗は上中が中心になって組織した集まりであったことがわかる。現在のところ、これ以上熊野道楽宗については分からないが、他に所属していた趣味人はいたのだろうか。

(注1)たとえば、浪華趣味道楽宗は橋爪節也「大大阪の画家たち(第6回)「浪華宝船会」と趣味人たち : 近代的表現を「宝船」に求めて」(『やそしま』(15)、2021年)を参照。

(注2)西宮雅楽多宗については、山内英正「「西宮雅楽多宗」の人々(一)戦前編―趣味人ネットワークの成立・展開―」、「「西宮雅楽多宗」の人々(二)戦後編―趣味人ネットワークの成立・展開―」『平成26年度 大手前大学公開講座講義録「集う―夙川・知の散歩道―知る・出逢う・辿る・詠む」』、2017年)が詳しい。これらの論文はGoogle Scholarで検索すればWebで閲覧可能。

(注3)橋爪前掲。

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