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『俚俗と民譚』に掲載された風俗研究者・平井蒼太「鳥取県西伯郡外江村 盆行事聞書」①

 以下の記事で紹介したように風俗研究家・平井蒼太は『俚俗と民譚』という雑誌に投稿していたが、平井が「涸れる泉」を投稿した第1巻第8号(1932年)には彼の「鳥取県西伯郡外江村 盆行事聞書」という文章も掲載されている。以下に一部を引用してみたい。読みやすいように一部を現代仮名遣いにあらためて必要に応じて句読点を補った。

 旧暦七月十二日を上半期の清算日として、翌十三日(迎え火をたく)から十五日(送り火をたく)までの三日間である。
 村のお寺は、中央に位置する曹洞宗補岩寺で、前日中に清掃した墓には、花立(盆前にはこの花立売が附近から来て、仲々賑かであるが、榊を差した花立は、新墓のある家々への贈り物となるから、従って墓前には数多く林立する)灯籠(木製のものであるが、近来は亜鉛硝子張りの粗製品もあり、これに石油を燃料とした豆羊灯を使用する)が立られる。一郭の墓地、大小高低の灯籠に火が点されるのは、一方ならぬ壮観である。
 十三日夕暮から一家盛装裸足の姿で、お供物を持ってお寺詣りをする。
 盆の墓地には乞食(他からの)や犬などが謂集して、お供物を一夜のうちに取去り、或は食ひ荒して終ふ。灯籠の油、洋灯などまで盗まれることもある。

 仏壇の飾付は、軽い裸木を梁木として仏壇の上に入れ、これに供物を架する。盆提灯は仏前に沢山並べて下げる。盆提灯も新仏前への贈物で、線香蝋燭などと一緒に、親族知己から贈られるものであるから、家柄の程度によって異なるけれど、少くも二三種以上、種々雑多の形状のものが数多く架けられる。
 供物は、梁木に架けられる品は、かけ豆(小豆の一種で枝のまま三四尺に切ったもの)、かけ素麺(長さ二三尺のものを二つ折にして架す。赤青白黄などの色素麺である)、かざり菓子(糯米製で赤青白黄緑などの色染めで、味はない)、酸漿など。
 仏壇前面の机には、贈られた所の線香、素麺、砂糖、菓子などと一緒に、胡瓜、枝付の大豆、茎葉付のさと芋、裸木を脚にして作った茄子の馬などを乗せるのであるが、乗り切らぬ時は下に茣蓙を敷延べて、その上に並べ供える。
 尚、団子(小さく丸いもの。他に平たく丸い団子を作り、これは小豆ぜんざいにして食べる)、精進料理、油揚の入った五目めしが供えられる。十五日午後、麦藁又は木製の船に飾物を積み、線香を立てて海に流し、夕暮戸前で送り火をたいて、盆の行事が終了する。

長くなってしまうので、残りの文章は別の機会に取り上げたい。

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