ファンはなぜ何度も何度もサインを求めにやってくるのか?
チケットの半券はただの紙切れだが、スクラップブックに大事に保管された半券を見るたびに、ずっと後になってもファンはそのときのことを思い出す
「ファンダム・レボリューション」の一節です。amazonで売り切れ。中古品で9,000円を払って手に入れた本です。今も中古品以外では買えないらしい(Kindleでは1,515円)非常に示唆に富む内容で、今も繰り返し読んでいます。
サッカークラブの練習場には、日々たくさんのファンが見学に訪れます。今はコロナで規制が敷かれていると思いますが、かつては「毎日」足を運んでくださる方もいて、そして毎回、写真をとってはサインをお願いしたり。お目当ての選手の写真やサインは山のようにあるはずですが、そんなことは関係ないようです。不思議に思っていましたが、著書を読んで妙に納得しました。
つまり、2021年7月21日の写真、サインはその日限りのもの。唯一無二で、二度と手に入らない、ファンにとってはかけがえのない品なのでしょう。調子がいいとき、ケガで元気がないとき、チームが調子よくても試合に出れない悔しさ、ゴールを量産しているのにチームが勝てないジレンマ。同じ選手でもさまざまな感情があり、それが写真やサイン(筆跡)に表れているのかもしれません。数ヶ月、数年を経て、ストラップブックに保管された品々を見ては当時のことを思い出し、ノスタルジックな感情を愛でているんだと思います。
サッカークラブのファンともなれば、試合のチケットやユニフォームを買うことによって機能的な側面(競技を見て興奮、感動、熱狂)を購入しているように思われます。そしてそれはその通りなのですが、一部のファンは「意味」を購入していることも事実。ファンにとってユニフォームや試合、半券やサイン、写真を集めることは「象徴」としての価値があります。
ブランド(選手)を近くに感じ、所有意識を持つ。ファン仲間の中でステータスを「買う」ことができる数少ない手段のひとつがコレクションです。ファンの活動そのものには基本的に金銭的価値が発生するわけではありません。ですが古くからの買い手と売り手の関係では説明できない、複雑で強力な関係性があります。ファン活動が増えて、活発化すれば長期的には安定的な収益がクラブにもたらされるはずです。
企業やスポーツクラブも同様、ファンをモノを買ってくれる消費者として見るだけではなく、それ以上の存在と考えるべき。そしてファンをマネジメントする上で大事なのが「グループ」の一体感を保つことです。ファンをつなぎ止めることを優先し、即物的な金儲けは二の次に。
そのために、目に見えないつながりに大きな価値があることに気づかなければなりません。そしてつながりを生み出すのは文脈。消費者の自意識やアイデンティティと結びつくようなストーリーは最高のマーケティングになります。クラブコンセプト(世界観やビジョン)を軸に展開される、ありとあらゆる発信物がコンセプトを如実に表現、もしくは逆にほのめかすことで消費者に刷り込まれるストーリー。このプロセスがいわゆるブランディングです。
そしていうまでもなくコンセプトは、ファンを洞察し、ファンの心の問題をつかんだ上で言語化されるもの。いかに顧客に近づき、言葉に耳を傾けて、感情に寄り添って、本人たちも気づいていない潜在的なニーズをえぐり出すことができるか。ファンが繰り返し写真を撮る姿を見て、その理由を見出し、言語化できることもまた、ファンを知るための重要な手段の一つです。
久保大輔
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