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発明は、システムによって生きる


エジソンが白熱電球を発明してから20年、電球の一般家庭普及率は3%だったという事実を知らない人はけっこういると思います。発明の経済効果を生み出すのは、発明そのものではありません。それを実用するイノベーション

先日、新宿駅だったか?長大な貨物列車を目の当たりにして興奮しました。「コンテナ」が陸続と。異国の地から船で運ばれて、港からクレーンでトラックに、そして鉄道に運ばれて目的地に商品が届けられる。私はこの「システム」がめちゃくちゃ好きです。

戦前、ふ頭の非効率は誰もが認めるところ。荷物を船に積み込んだり下ろしたり、すべては人力でした。筋骨隆々の男たちが縄張り争い。多大な人件費をかけなければ貴重な物資が運べませんでした。そんな光景に疑問を持ち、コンテナが開発される。海運業とは船を運搬する産業ではなく、貨物を運ぶ産業だとして、貨物をあつかうシステムが誕生しました。

画期的な発明は、ときに反発や軋轢、葛藤を生んでなかなか浸透しません。状況を一変させたのは戦争。戦地に新鮮な食料を効率的に届けられるという事実に気づいた米軍は、ベトナムへの貨物をコンテナで大量発注。おかげで一儲けした人はたくさんいました。「ロジスティックス」とは、すなわち兵站。軍隊用語だったんですね。

船、トラック、鉄道によるシームレスな貨物輸送。街そのものを抜本的につくりかえる必要があるシステムづくりは遅々として進みませんでしたが、ドイツ軍の爆撃がかえって幸いしました。ロッテルダムはあたらしいハブ港として台頭。規制緩和も手伝って大きく発展しました。

システムの合理化の威力。積み下ろし時間が2時間から5分になるのに、最初は誰も信じてくれませんでした。パワーショベルが開発されたときも、村一番の力持ちが「そんな得体のしれないもの、信用できるか」といって、腕をめくりスコップで穴を掘ってその力強さを誇っていたというシニカルな昔話を彷彿とさせる。

コンテナは当時、積載量が「3割落ちる」という欠点があり、そこを突っ込まれたわけですが、「あれもできる、これもできる」と、積載量問題を解決するまでコンテナの稼働を待っていたら、逸失利益はいかほどだったか。戦争という「ガラガラポン」によって改革は進んだわけですが、イノベーションの難しさを感じます。

劣化は組織が「大きく、古くなる」ことで顕著に。戦争があったとはいえ、総取っ替えが行われたということは、それなりの必然性があったわけです。戦争を期待することはできませんが、「誰か」が意見するか、それとも離脱してあらたに作るか。権力者の言動を支持しないのであれば、行動するしかありません。

妥協をみずからに許してダラダラと無為な時間を過ごしていれば、そのうち道徳観もおかしくなって、モノゴトに意義を見いだす眼力も失われてしまう。自分なりの美意識、つまり審美眼や世界観を持っている人は、明確な「許せる、許せない」の線引きができるはず。

あたらしい何かを始めようと思うと、必ず抵抗勢力が現れます。当の本人たちはそんなつもりはなく、善意でモノ申しているとしても、過去の経験、前例、成功事例の数々が変化をさえぎっているという意識には気づきません。ですがそこに気づかなければコンテナや白熱電球はガラクタ同然だったはず。

そして気づかせる人は勇気をもって行動し、ですが無為にコトを荒立てるのではなく、いかにうまくコミュニケーションがとれるか?それは普段からの仲間づくり、根回し的な、したたかな、懐に入る戦術を地道に積み重ねるという下準備が欠かせません。

変化はシステムづくりから。勇気をもって行動するも、事前の根回しを忘れずに。

久保大輔




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