フェスの動員数と比例しない音楽の売上 / 対談 with 今井一成 #2
THECOO 株式会社代表の 平良 真人( @TylerMasato ) の対談シリーズ。今回のお相手も前回に引き続き、株式会社JVCケンウッド・ビクターエンタテインメントの取締役であり、JVCネットワークス株式会社の代表取締役の今井一成さん。
今井一成(いまいかずなり)
1986年に日本ビクターに入社。
オーディオ機器の営業を経て、ビクターエンタテインメントのロック部門:スピードスターレコーズでアーティスト宣伝担当。サザンオールスターズのチーフプロモーターなどを務める。
2010年よりデジタルビジネス部の部長となり音楽配信マーケットを担当。
2017年6月 株式会社JVCケンウッド・ビクターエンタテインメントの取締役に就任。
2018年4月 JVCネットワークス株式会社の代表取締役を兼務。
アーティストグッズのマーチャンダイジング事業を主力とし、e-コマース事業、FC事業を展開中。
アメリカが CD を完全に捨てたのに対し、なかなかストリーミングの普及が進まない日本の問題として、所有の文化や wi-fi 環境の違いなどが大きく関わっているというお話を前回伺いました。( 前回の記事はこちら )
今回も、そんな今の日本の現状に対する今井さんの想いをお伺いします。
ストリーミングの普及願い、レコード会社が今できること
平良真人( 以下、平良 ):
まだ日本はアメリカみたいに配信サービスを使えていないという点はお伺いしていたんですけど、一方で僕、久しぶりに去年の年末に カウントダウンジャパンフェス に行ったら、チケット売り切れで、若い人たちが沢山いたわけですよ。正直びっくりして、なんだかんだ言われているけど、音楽自体はみんな聴いているんだなって。
今井一成氏( 以下、今井氏 ):なるほど。。
平良:
フェスという空間が好きなのかもしれませんけど、音楽は聴いてるけど、それがマネタイズに繋がっていないだけなのかなってなんとなく肌感で思ったんですよね。
今井氏:
そのメインステージにいる何千人のお客さんが、どんなツールで音楽を聞いているのかと言うと、ちょっと言い方は悪いですけど、最近問題になっている無許諾アプリなど、オフィシャルではないと思います。
平良:なるほど。それは YouTube なども含めてですか?
今井氏:
YouTube 自体は素晴らしいサービスです。YouTube は有料サービスをスタートさせてマネタイズしていたりもするのですが、アップロードされているコンテンツが、100 % オフィシャルかって言ったらそんなことはないじゃないですか。
平良:そうですね。
今井氏:
Apple Music や Spotify のような音楽サービスが始まっても、YouTube の中にはグレーなコンテンツも混在していて、どっちがいいかと言ったら、やっぱり YouTube をオフラインで聞いてる方が楽しいって子どもたちはなっちゃうのかなと。そうすると、正規のものになかなか来てくれない。その辺りも含めて日本の国民性とアメリカの国民性の違いとか色んな要素が絡み合っていると思いますよね。アメリカは良いものだと認めると凄い勢いで広がって行くけど、日本はそれぞれが様々な選択肢持っていて、気づいたら意図していた方向と違う方に流れが行ってしまったりもしますよね。
平良:
サブスクみたいな形態がメインのマーケットになった時に、レコード会社としては、どんな風にマネタイズしてくのか大きな方針みたいなものはありますか?
今井氏:
そうですね、レコード会社によって考えた方が違うとは思うんです。外資系の会社みたいに、アメリカも含めて契約条件もワンコントロールで話しながら進めていける会社と、弊社みたいなドメスティック会社だと。日本の中でビクターはメジャーレコード会社と言われていますけど、海外で見たらインディーズですからね(笑)。
なので、あくまで弊社に関して言うと、CD の売上が下がって、レコード屋さんもどんどん閉店する中では、やっぱりストリーミングを伸ばすしか無いかなと思っています。でもそれは、正直、我々が頑張ってできることの範囲が狭くて、DSP 側が会員数をどんどん増やしてくれないとどうしようも無かったりもするんですよね。2 年後 3 年後の仮説を立てて動いてはいるんですけど、やっぱり今が厳しい。
だから、自分は現在別会社を作って、マーチャンダイジングのビジネスを行っています。CD 以外の売り上げを作る為に、プロダクション側が物販をやっているものの、なかなか手が回らない所もあったり、その隙間を埋められるようなビジネスを考えています。
あとは会社の e コマースを去年リニューアルさせたんですよ。そこで何をやるかと言うと、アーティストが CD を出した時に、そこでしか手に入らない特典を付けて予約販売するとか、極端なことを言えば、3,000 円の CD に高付加価値なものを付けて初回盤を 6,000 円で販売するとか。真のファンがちょっと値段は高いけど、そこでしか手に入らないものを買うことが出来る。ユーザーの気持ちを少しくすぐるようなビジネスを新たに今考え始めているところですね。
マネタイズできる音楽が限られてしまっている現状
平良:そういう意味で言うと、自社の" チャネル "を強くしていくことが、凄く大事になってくるということですよね。
今井氏:
そうですね。だから、fanicon と言うサービスは凄く面白いなって思っているんです。俳優でもタレントでもミュージシャンでもコアファンを固めてそこに情報を集約させて組織化する。そうしてコアなファンをどんどん強くしていく。この考え方自体は何十年も前からあって、基本は変わって無いんですよ。
だけど、そう言うファンクラブの運営側がプロダクションだったり、レコード会社のスタッフだったり様々で、それぞれ立場が違うから情報共有が追いついていなかったりして、ミュージシャンから「 事務所のサイトには載っているのに、何でレコード会社のサイトにはライブ情報が載っていないんだ 」みたいに言われたり、情報の格差が実際あるんです(笑)。しっかりやっている所と、なかなか手が回らない所とあって。
それがインターネット時代になると、もっとわかりやすくなってしまって、今度はファンから、「 ツアーが発表になったけど、まだレコード会社のサイトには載っていません 」って言われちゃうようになるわけですよ。それをまたアーティストが見ていたりもして(笑)。そうすると、苛立つアーティストも出てきてしまうわけですよね。これは僕の勝手な解釈なんですけど、アーティストの中には事務所が運営しているファンクラブとは別で、もっと自分自身でファンとやりとりしたいと言う人はいると思っていて、そう言う人にとっては、今までなかった画期的なサービスだなって思いますね。
平良:ありがとうございます。
今井氏:
事務所の中で、「 俺がやるよ 」ってアーティストが言っても、いやいやいやってなるじゃないですか、やっぱり。音楽に専念して下さいって話にどうしてもなっちゃうし。
平良:
fanicon は誰でも簡単にすぐ開設できる点が 1 つ大きなポイントです。基本的には情報発信とコミュニケーションがメインになっているのですが、最近ではチケット先行やグッズ販売のようなファンクラブ機能もできていて、どういうコミュニティを作っていきたいかに合わせて自由に取捨選択して、出来るだけアーティストさんの作りたい世界を作るサポートができるようにと考えています。今後はコアファンの熱量の見える化みたいなものにも取り組んでいきたいなとは思ってはいます。
今井氏:
平良さんもロックがお好きとお伺いしたのですが、僕もロックが大好きなんですね。でも、音楽業界の今のマーケットに置いて、ロックってなかなかビジネスができないなと思っていて。fanicon やモバイルファンクラブみたいなサービスがあった時に、それを活用できるアーティストは限られていますよね?
平良:そうですね。偏りはあると思います。
今井氏:
そうですよね。様々なジャンルがあってこその音楽業界だと思うんですけど、今のマーケットでマネタイズできるエリアは凄く偏っているような気がするんですよ。
昔はロックもポップスも演歌もそれぞれがコンサートや CD などで格差はあるとしてもチャンスがあったはずなんです。でも今は、純粋に音楽に向き合って、いい音楽を世の中に発表した人がマイノリティーな扱いをされるような状況になっている。だから、売れるため、曲が聴かれるためにやりたいことを変えてまで曲を作ったりしなくちゃいけないんですよね。
アメリカのニュース記事でストリーミング時代はイントロ 15 秒以内にしないといけないとかよく記載されていますけど、僕はそれもちょっとおかしいと思うんですよね。聴かれるための音楽を作るのは変だなって気もして。
ミュージシャンがカッコイイと思える音楽を作って発表して、それがマネタイズできる環境を作るために、もっとマーケットを構築していく必要があるんじゃないかなって思っているんです。
聴かれる音楽を目指してしまっているのが今の音楽業界で、ストリーミングのチャートを見ても、ロックはほとんど入っていないし、ロックに限らず、チャートに入るのはポップス、海外のヒップホップ、EDMみたいになっちゃうんです。
一方で、フジロックフェスティバル や、ロック・イン・ジャパン などのロックフェスはチケットが取れないくらい盛況で。ここの矛盾をなんとかしたい。だからこそ、目線の違う異業種の方々が音楽業界にもっと参入してくれて、今の偏ってしまっているビジネスをフラットにできれば、もっと大きなマーケットになると思うんですよね。
応援するなら音楽に投資して欲しい
平良:
僕は音楽業界のビジネスに関しては素人なのでわかっていない事の方が多いのですが、わからないなりに色々考えて、米津玄師さんが大きな転換点になって欲しいと勝手に思っているんです。米津さんはもともとニコニコ動画でハチと言う名前で活動していて、そこから紅白に出演するような国民的アーティストになっている。
そう言う人がSNSのおかげで昔より出やすくなっている状況ではあると思っていて、その人たちを育てる仕組みができれば、多ジャンルでマネタイズできる人が増えていくんじゃないかなと思ったんですよね。この仕組みと同じような経験を、僕は Google 時代にしていて。Google Adwords の一番初めのお客さんは、判子屋さんなんですよ。
今井氏:判子?
平良:そうです。インターネットで判子を販売してる人達がいたんです。
今井氏:あー、ありますね!
平良:クリック数のうち〇%のものが売れますみたいなアドワーズ広告を一番初めに使い始めたのは実は中小企業なんですよ。
今井氏:そうなんですか。
平良:判子をネットで売ろうってなかなか思わないと思うんですよ。
今井氏:判子屋さん自体があんまり表に出てくるお店じゃないですもんね。
平良:
でも街には必ずあったじゃないですか。
何が言いたいかって、所謂、判子屋さんってロングテールなんですよね。音楽もそれが成り立つのかなと思っていて、今井さんの仰っていたことってミドルからテールをきちっとやりましょうよってことなのかなと僕は勝手に解釈したんです。
今井氏:
そうなんです。僕がデジタルに転身する時に先輩に最後に言われた言葉がずっと頭に残っていて、「 今、ロックは売れないからね 」と。
どうしても目先の数字も追わないといけないから、ニーズがありそうなアーティストをプッシュするようになって、気がついたら歪なマーケットになってしまったのが今の現状だとは思うんですけど。
でも、やっぱり夏フェスに行くと、毎回感じるんですよ。「 こんなにロックファンいるんだ 」って。
レーベルの宣伝担当がフェスから帰ってきて、フェスのレポートをする時に、◯◯バンドが◯◯ステージで二千何百人入って入場規制でした!とか言うんです。でも、CD やダウンロードの数字は 2 日経っても動きがないわけですよね。ちょっと待てよ!と。僕は、やっぱりそれはおかしいと思っていて。ミュージシャンが 2,000 人以上の人の足を動かして音が届いたのに、見て聴いた人が配信で聴くとか CD を買うとかの行動にスライドしないマーケットはおかしいと思うんですよ。
今って、ライブはライブ、音楽リリースは音楽リリースみたいに別物になってしまっている。
平良:マーチャンダイジングはマーチャンダイジングですよね。
今井氏:
そう。全部が別々になっちゃっているイメージで。これをなんとかもう1回近付けられないかなと思っています。
fanicon のようなサービスも、サービスが伸びていくときに、プッシュするアーティストは偏るんじゃないかなと思うんですよ。アーティスト同士や事務所同士の口コミも偏っていて、ある特定のジャンルはなかなか入ってくれないとか。
だから僕は、新しく入りきらないジャンルをマネタイズしたり、繋ぎ込むようなものができたら、そこに関わりたいなって意識が強いんですよね。
平良:fanicon を作った最初のきっかけは YouTuber なんですよ。
今井氏:結構入っていますよね。
平良:
そうですね。当時、彼らはファンから直接、課金してもらったり物を売ったりすることができなかったので、それができる仕組みを作ることがきっかけなんです。だけど、それは YouTuber に限らなくても同じだなと思って。俳優、アーティスト、アイドル、どんなジャンルでもファンさえいれば、一緒にコミュニティを形成することで深い繋がりが生まれていく。仰ったみたいに今は、お金を払う対象が物じゃなくなってきているのは間違いないなとは思ったんですよね。
今井氏:
そうですね。数年前に、投げ銭システムをやっている会社がプレゼンに来て、アイドルの例を見せられたんですけど、正直なかなかミュージシャンは難しいと思うよって結局そのまま終わったんです。それから数年経った今、投げ銭というカルチャーは物凄く大きくなっていて。
アーティストになにか貢献したいとか、アーティストと共に何か一緒に作り上げたいとか、ファンの心理もわかるんですけど、でも僕はやっぱりミュージシャンだったら音楽に向けて欲しいなって。歌を唄う人や、バンドで演奏する人は、ベースは音楽なのだから、応援するなら音楽に対して応援するところからスタートして欲しいというのが本音ですかね。
平良:
僕自身は全く同じ想いで、僕は音楽に対して結構な投資をしているんですけど、モノじゃなくてコトにお金をかける時代と考えると、音楽は記憶に紐づくと思うんですよ。そこが実はモノでもありコトにもなり得るのかなって思っていて、だからフェスやライブが人気なのかなって。
今井氏:
フェスはその究極だと思うんですよね。
でもよくあるのは、ヒット曲を沢山持っているアーティストのライブを観に行って、こちら側は昔のヒット曲を聴きたかったのに、新曲ばかり歌って昔のヒット曲をあまりやらないとかね。
平良:いやー、ありますよね。
今井氏:
ありがちじゃないですか。お客さんはライブで満足してグッズも買って帰ってくれます。だけど、そこで歌った新曲は昔のヒット曲に比べて全然売り上げとしては成り立っていない。でもなんで新曲を出したがるんだってことなんですよ。
平良:そうですね。。。。。
今井氏:
だから僕は大概のミュージシャンはやっぱり新しい曲を作って発表したい。でもそれがなかなか今の時代、昔のように成り立たない。だから、グッズを作ったり、ファンクラブでコアなファンを束ねて向き合ったりしている。でも、ミュージシャン、アーティストが新曲を出したい衝動がある限りは、やっぱり今出すものに対して、マネタイズできる仕組みを作れないかなってどうしても思ってしまうんですよ。そしたらもっとマーケットが大きくなるはずなのになって。
(つづく。)
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