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【こえ #2】声帯を摘出して1年間は筆談で過ごしたが…

山後 政芳さん


 声帯を摘出して1年間は筆談で過ごしたが、相手に申し訳なく感じた。食道に空気を取り込み、食道入口部の粘膜を新たな声帯として振動させ発声する「食道発声」に取り組み始め、自分の声をICレコーダーに吹き込み自分と会話する練習を何年も続けた。今では、声帯を摘出し声を失った人に対して発声訓練を通じて社会復帰を支援する「銀鈴会(ぎんれいかい)」の理事も務める。

 静かな会議室で面と向かっての山後さんとの会話に聞き取りづらさは感じない。しかし、「ホームの場内アナウンスとかいつでも騒音の状況を見て話し始めないといけない、発声に詰まって頭で思ったことがポンと言えなかったり、相手に伝わっているか常に神経使ったりするんだ」。食道発声はそれなりに体力も使うため、一日の中でも常に良いとき悪いときがあるそう。

 「相手が気遣って聞こえてるよって言ってくれても、満足できないんだ。ほら、100m走で優勝しても記録に満足できないみたいなもんかな」と苦笑いされた。
 街中で見知らぬ人に道を聞く習慣を自分に課している。騒音の中で、(初めて聞く人にとっては少し)違和感がある声で、伝わっているかどうか試すためだ。「お店の人じゃダメなんだ、気遣ってくれちゃうから。自分でも初対面の人は嫌だなと思うけれど、敢えて試す。それでちゃんと伝わることで自信がもてる。勇気をもらえるんだ。」

 発声の調子が悪いかなと思ったら会いに行く知り合いがいる。全盲の女性だ。全盲でおられるが故に音に敏感で、足音で誰かを判別できる。山後さんの発声に対しても、空気の量や気管孔の雑音まで詳細なフィードバックをくれ、発声が「長く続かない」と相談すれば腹式呼吸のアドバイスまでしてくれる。

 「今でも未達。まだまだ。そこまでやらないと食道発声は進歩しない。自分の声をどう作っていくか、少しずつ自分を高め続けるしかない」。山後さんは発声のアスリートだろう。
 「どんな環境でも、例え耳の遠い方が相手でも、少しでも遠くに届く少しでも大きな声が出せるようになりたい。そんな製品ができたら嬉しいね」。そんな用具があれば、アスリートの記録はもっと伸びるはずだ。

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