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ピンチをアドリブで乗り越える技 93/100(スピーチ10 -イメトレ)

自問自答を繰り返しながら、
アドリブと演技の関係を
追求していってみようと思い立ちました。
100回(?!)連載にて、お送りします。


スピーチに関するお話も、今日で10回目となりました。

「ピンチをアドリブで乗り越える」とは少し方向性がずれているかもしれませんが、今までご紹介してきた様々なツールを、実際の場面でどのように活用するかを、スピーチという特定の状況を例に、まとめてきたつもりです。

今日はイメトレについて、お話ししようと思います。

何か大きなイベントがある前は、そのイメージトレーニングをすることが、非常に効果的であるということは、よく言われていることかと思います。

例えば、かのモハメド・アリは、試合前にこのイメトレを行っていたそうです。

多くのスポーツ選手や棋士も、イメトレをするらしいですね。

でも、それがどれだけ有効であるか、知識として知ってはいても、なかなか実践しようと思わないですよね?

かくいう私も、舞台前に頭の中で反芻するようなことはしますが、しっかりとしたイメトレを習慣づけているわけではありません。

それでも、私たちの脳の、想像力というものの、力は実感しています。

イギリスの演劇学校で不思議な体験をしました。

ある発声の授業の時です。

いつも、楽器である自分の身体を鍛えるために、様々なエキササイズをやらされます。

発声する時に、その振動を反響させてくれるのが肉体です。

その肉体が硬くこわばっていると、豊かな音を出すことが出来ないという理由から、声の授業でも全身のストレッチを行うことから始めます。

喉や肺、横隔膜、声帯、唇、鼻、顎などのトレーニングを行うのはその後です。

その日はまず、首のストレッチをしました。

何もしない状態で、まず左の方へ首を回します。

胸や上半身は動かさず、首だけで、どれぐらい左を向くことができるか、覚えておきます。

それから、首や肩、背筋、腰などのストレッチを行い、もう一度左を向いてみると、明らかにさっきよりも、より左の方を向くことができます。

同じように右の方も向いてみました。

やはりストレッチ後の左側ほど、滑らかに遠くを向くことができません。

しかし、ここで先生から、
実際にストレッチをするのではなく、目を瞑って、さっき左側で行ったストレッチを、右側も同様に、頭の中で一つ一つ再現するように、
と言われました。

それからもう一度右を向くと、なんと実際にストレッチを行なった左側と、同じぐらい遠くを向くことができるんです!

身体は一切動かしていないのにです。

これには驚きました。

確か2年生の中盤あたりの授業だったと思うので、その頃には自分の身体というものがある程度理解できていて、どのストレッチでどこの筋肉が和らぐかなど、細かく理解できていたから、リアルな脳内再生ができたのだと思います。

でも、なぜこの脳内再生の力が大事で、実際にどう役に立つかお分かりでしょうか?

舞台上や撮影中、いつも本格的なストレッチができるとは限りません。

急に予定よりも早まって、十分な時間が取れなかったり、何か軽いアクシデントがあって、人知れずそこの筋肉をほぐしたい時、この脳内再生をすることによって、多少は対応することが可能です。

もちろん、実際に身体を動かす必要が、一切ないわけではありません。

でも、動かしたいけど、事情があって動かせない時、そういうちょっとしたピンチな状況の時に、この脳内再生で対処するようにしてます。

脳と人間の身体というのは、本当に不思議ですよね。

これは、スポーツ選手がやるような、ウォームアップのイメトレも同じことだと思います。

本番という状況は、日常とは違います。

極度の緊張状態に置かれるし、アクシデントも起こります。

そしてそれらは、唯一無二な状況であり、事前にその状態を再現しておいて稽古することは不可能です。

でも、脳内であれば、それが可能です。

頭の中の想像力は無限であり、そこで一度、いや何度か、本番の状態を想像して場数を踏んでおけば、いざ本番という時には、すでに何度か似たような状態を経験している、ベテランでいられます。

そうしておけば、もし何かアクシデントが起きて、ピンチに陥ったとしても、冷静に対処することが出来るのではないでしょうか?

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