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伝統芸能集団にハラスメント研修をさせていただいた件

何度となくお話ししていますが、昨年の4月より某伝統芸能の事務局に勤めており、その伝統芸能の維持・継承・発展の一助になれるよう奮闘しています。
大きな意味で『芸能界』、つまり『ギョーカイ(エンタメ業界)』ではありますが、その言葉の華やかさとは程遠く、地味で慎ましやかに定期公演を見守っている毎日です。

昨年は、芸能界全体で世間を賑やかせるスキャンダルが頻発した年でした。
上半期こそ、ワイドショーはビッグモーターの話題でもちきりでしたが、夏以降は芸能界に於けるセクシャルハラスメントやパワーハラスメント等の『醜聞』が相次ぎ、秋からはそれに加えてプロ野球選手が自由契約になったり伝統ある大学のラグビー部が廃部になったりと、世間の注目を浴びる対象がどんどん増えていきました。

そうなってくると、私が属する伝統芸能の世界でも楽屋に少なからずザワつきが生じ、特に、『宝塚歌劇団の公演中止』というニュースに際しては『もはや他人事ひとごと・対岸の火事として傍観できない』という空気を感じ始めたと思います。

実際、こうした伝統芸能を管轄する官公庁からは『貴組織に於いては問題はないか、現状の把握と対策如何?』といったヒアリングが口頭であったと漏れ聞こえたり、或いは当事者である中堅の役者からは『若い子たちが悲観して辞めてしまわないように、事務局として何らかの対策を考えられないか?』といった相談も、非公式に上がってきました。

そしてとうとう秋の情報交換会(役者側の代表理事と我々事務方との例会)にて、『ハラスメント研修』実施についてのオファーを正式に承った次第です。

その時に、理事会の世話役さんから次のような申し出がありました。
『協会さんのツテで、お偉い先生がいらっしゃれば講演いただいて…』
『弁護士か社労士か分かりませんが、専門家の方においでいただいて…』

ただ私の頭の中では、そうした『専門家のお偉い先生』であってもこの伝統芸能の独特の世界はすぐにはご理解いただけず、通り一遍の『企業向け人権セミナー』を少しアレンジした程度のものになってしまうだろうな、それでは彼らにとっては他人事であり眠いだけの研修になりそうだなという感覚が強くありました。
というか、先ほど述べましたように夏頃に中堅どころの役者から個人的に相談を受けた時点で、『自分がやるしかない!』という想いが募り、既に勝手に『講師モード』で構想に入っていたものですから、そこからは一気にコンテンツを作り上げていきました。

ただ心配なのは、私が勝手に『講師モード』で準備を進める一方で、聴き手側はどうなのか?
専門講師としての肩書や経験を持った『偉い先生』が企業ベースの話しをするのと、『中の人』である素人の私が自分の経験と見識だけで話すのと、どちらが彼らの役に立てるのか?
そんな不安が拭えず、親しくして貰っている理事の方に敢えてお尋ねしてみました。

『で、次長(私)はそういった知識とかご経験はあるんですか?』
『はい、一応ですがメンタルヘルスマネジメントの資格を持っていますし、アンガーマネジメントといって怒りやイライラをどうコントロールするのか?といった勉強をしてたり、あとキャリアコンサルタントとかの勉強もしています。なにより、私自身が30代と40代に会社でパワハラに遭いまして、会社を休んだりしてそこから復帰した経験もしてるもので…』
『そんな資格や経験をお持ちの次長にお話しいただけるなら、願ったりです。正直、我々も見知らぬ偉い先生に一般論で話されてもどうかなぁとは不安に思ってたので…。楽屋の事情も知ってくれている次長に喋ってもらう方が、心強いです!』
といった感じで、私が講師を務めることにお墨付きをいただけた次第です。

さて、それから1ヶ月ほどの準備期間を経ての研修本番、ちょうどクリスマスの時期でした。
参加は強制ではないのに、なんと欠席は3名、それもお稽古や取材で都合つかなかった方だけ。役員の方々が公演期間中にかなり声掛けされたと聞きました。こちらに対する期待が感じられます。

というわけでその内容ですが…

1.社会に於けるコンプライアンス意識の高まり


伝統芸能団体向けに特化したと言いつつも、まずは世間のコンプライアンス事情について理解しておく必要はあります。特に一般社会人に較べて社会情勢に疎い彼らに対しては、昨今の社会の動きを説明することから始めました。
芸能スキャンダルが広まるのにテレビ・新聞・週刊誌しかなかった時代と較べて、今はパソコン・スマホの普及であらゆる醜聞が『瞬間的に拡散』し、『双方向』、つまり名もない一般人がフェイクも含めて自由に発信できる時代であることを図示しました。
『ハラスメント』は『組織のコンプライアンス違反の1つ』であり、その中には『パワハラ』だけでなく『セクハラ』・『ジェンハラ』・『アルハラ』・『モラハラ』等、いろんなハラスメントが含まれていること。『パワハラ』の中には6種類、『肉体への暴力』・『言葉による暴力』・『仲間外しや無視』・『過大な要求』・『過小な要求』・『プライバシーの侵害』があること等を説明しました。

2.現場に於けるハラスメント


彼らにとって、舞台や稽古や楽屋はONですが、地方巡業等では本来はOFFであるはずの移動・宿泊・食事等も集団で過ごさざるを得ず、全てがストレスフルな環境となり得ます。
また、冒頭に挙げたような芸能・スポーツ界に共通する特性としては、『男社会(宝塚は女社会)』・『体育会気質』・『閉鎖性』・『特殊性』等があり、それらがうまく機能することで『伝統』を守ってきたが、それは同時に『脆弱性』も持ち得るという側面を整理しました。

3.パワハラに関する現代の受け留め


伝統芸能の上位者は、『私の指導は厳しいだけでなく愛を込めている』、『私自身も師匠から怒鳴られてここまできた』と思いがちですが、同じやり方が今の若手を動かすモチベーションになるかどうかは分からない。ハラスメントは『行為者』と『される側』の二者だけで決まるものではなく『周囲の受け留め』が重要。
昔のスポ根マンガにあるような暴力シーンや特訓シーンは、現代社会では否定されている。ゲームのルールが変わった以上、新しいルールでの指導が必要。

4.上位者に期待すること


後継者や若い人財の育成は上位者の最重要ミッション。その為に、『怒るのではなく、叱る』。『怒る』は感情に支配されている、『叱る』は理屈を諭すこと。
そして、『人を叱らず行為を叱る』こと。

5.その他


パワハラに加えて、内輪やご贔屓筋との飲み会で起こり得る『アルハラ』や『セクハラ』について、また役者間同志だけではなく劇場スタッフ等へのハラスメント防止についてもお話しを拡げました。
また最後に、万一にもハラスメントが発生した場合、その当事者として、或いはその傍観者としてどうすべきか?のサジェスチョンにも触れてみました。

こうした内容で約45分間、私が喋りまくり、最後には拍手を頂戴しました。
終了後に若手や中堅からいただいた感想としては、
『途中で寝るかもと思って参加したが、分かりやすくてあっという間に終わった』
『お話しの熱量がすごくて、社会の様子がよく理解できた』
『楽屋でモヤモヤしていた部分が、なんかスッとした。やっていただけてヨカッタ』
というお声があり、嬉しい限り。

一方でベテラン層からは、
『要するに、ワシらが受けてきた指導が今は通じないってことやな』
『正直、今までの教え方ではマズイっちゅうことやね』
と、主旨は理解いただけているものの、その実践・意識変革については自信がないというか、曲げたくないという気持ちを感じました。
人によっては心の中で、『なんちゅう研修をやってくれてるねん!』と苦々しく思っているかもしれません。
或いは、そうした傾向のある方ほど、『ま、自分には関係ない研修やったな』と何も感じることなく従来どおりに指導されるのだろうと言う方も多かったようです。

それぞれの感想はありますが、結論・総論として、やってヨカッタ。
この伝統芸能集団にとっても、そして私の経験としても、やらせていただけたことはたいへん意味があったことと、素直に自負できた研修会でした。

※この内容は、今夕の stand.fm(ともさんのプロティアンラヂオ)でもそのままお話しする予定です。
ともさんのサードプレイスラヂオ | stand.fm

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