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硯考 書道と心技体

「心技体」とはその言葉の通り心、技、体、(メンタル、テクニカル、フィジカル)三つのバランスがすべて整ったときある特定の能力において最高の力=パフォーマンスが発揮されるということです。

「心技体」を最初に使い始めた人物は、柔道家の道上伯(みちがみ はく1912〜2002)といわれています。彼は戦前からこの言葉を使っていたようです。1953年に柔道とは何かという質問に対し、
最終目標は心技体の錬成であり、それによって立派な人間になることである。
と答えたことが伝えられています。

「心技体」はおもにスポーツの世界で使われている言葉ですが、柔道、剣道弓道などだけでなく、芸道の世界、書道、茶道、華道などにおいても共通した思想であり、同様のことがいえます。

ここで、心と体について考えてみると、例えば、緊張したときに体が動かないや、さわがしくて勉強に集中できないなど、分けて考えるのは難しそうです。やはり心と体は一体のもの、心身と考えたほうがよさそうです。

さて、書道について考えてみると、近頃の書道は書くこと、つまり技に偏っているように見えます。技と言ってもどちらかと言えば技巧、人工的な技、すなわち作為的な技です。そういったものは外へのアピールを重要視します。例えば、きれい文字。あるいはパフォーマンス書美術(あえて書道とはいわないことにします)。

一方で、心身面、精神的な側面は置いてけぼりにされがちです。例えば墨を磨ること。この動作には書作の前に精神を整え集中させるという重要な役割があります。そして書くときに無心になれるかどうか。自然に自分を表現できるかどうか。美しい墨色で表現できるかどうか。
外に対してを考えるよりも内に対してどう考えるかという「道の思想」が大切なのではないかと思います。

心、技、体は足し算ではありません。心、技、体は掛け算です。どれか一つでも欠けてしまえばゼロになってしまいます。何事も偏ってはいけません。中庸。こういうバランス感覚は日常の生活の中でもとても大切なものです。



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