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サステナブルな商業施設【海外事例】

前回の投稿では、
私の生業である「商業施設の開発プランニング」について、
また私のライフテーマである「サステナブルな都市・商業開発」について、概要をまとめました。

今回は、「サステナブルな商業施設」として先駆的な事例である、海外の商業施設を紹介します。

世界中で気候危機が深刻化するなかで、一部のモール開発者たちは我先にと、商業施設を「エコフレンドリーな目的地(Eco-Destination)」として再構築することで、集客を図ってるよう。

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①「Burwood Brickworks Shopping Centre」

まず紹介したいのは、オーストラリアのビクトリア州で、2019年12月開業したばかりの「Burwood Brickworks Shopping Centre」。

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引用:Real Leaders
画像引用元の記事にあるように、自らを「The World’s Most Sustainable Shopping Mall(世界で最も持続可能なショッピングモール)」と称する。

持続可能性をコンセプトの中心に据え、来訪者がライフスタイル、ショッピング、食事を楽しめるように、ミクストユース(複合用途型)の未来的なモデルを提供。

オーストラリアで最初の「屋上都市型ファーム」を有し、雨水と廃水をリサイクル、太陽光パネルなどの再生可能資源を通じて、エネルギー需要の105%を生み出す。
持続可能な建築認定制度である「Living Building Challenge™ (LBC) 」の厳格な基準をクリアした、世界初の商業開発。

ファームにはレストランが併設し、収穫した野菜を味わえる一方、農家による農業テーマの教室が開催されるなど、教育・コミュニティ活動も行われる。
また出店するテナント側は、店舗の内装用にさまざまなエコ素材のデータベースが提供され、モールによって設定された環境基準を満たす必要がある。
つまり結果として、サステナビリティへの意思と実行力を有するテナントのみが集積する。
オーストラリア最大のスーパーマーケットチェーン「Woolworths」から、様々な業態のカフェ・レストラン、ヨガやピラティスのスタジオ、エコな日用品や美容品の販売店、ワインショップ、ペットストアなど。

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消費者には、”このモールで買い物をすれば、社会貢献ができる。環境保護への投資ができる。”という満足感と信頼性を提供。
テナントには、”このモールに出店すれば、企業・ブランドの社会的責任やサステナビリティへの先駆的な理念をアピールすることができる”というメリットを提供。

開業時のレポートはこちらへ。少しパースと印象が異なる点もあるけど、ちゃんとコンセプト通りに実現しているのが素晴らしい。
事業主はシンガポールに拠点を持つ「Frasers Property」という不動産会社。シンガポールでは、彼らの他にもサステナビリティへの先駆的な挑戦をしている不動産会社があるようなので、別記事にて深掘りしたい。

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②K11 MUSEA

次に紹介するのは、香港にある「K11 MUSE」。2019年8月末に尖沙咀エリアに開業した商業施設で、大型施設「Victoria Dockside」の中に位置する。
香港最大手のデベロッパーの一つ「新世界発展」が手掛ける。

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引用:K11MUSEA
新世界発展傘下の「K11グループ」が掲げるのは、「アート、自然、人」という3つのコアバリュー。この共通した理念のもと、K11 MUSEAの他にも、K11 Art Mallという商業施設、オフィスビル、教育プラットフォーム、デザインストア、非営利の文化財団なども運営。

他施設から遅れて、開業したばかりのK11 MUSEAでは、10階建ての施設全体がハイエンドの雰囲気を纏い、世界クラスのアートコレクションが至る所に展示されている。

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引用:TRIPPING!
テナントは、高級ファッションブランドからレストランや映画館、劇場、アートギャラリー、キッズ向けプレイルームなどがミックスされている。

そして今回注目したいのは、K11 MUSEAでは、
「持続可能性とショッピングのギャップを埋めるという点で、ゲームを変える(市場の常識を変える)」ことを目標に据えている点。
象徴となるのが、8階に位置するサスティナビリティをテーマに生物多様性が学べるミュージアム「Nature Discovery Park」

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ミュージアムは、アーバンファームとオープンバタフライガーデンで構成されていて、海岸という立地特有の様々な植物が生息し、熱帯植物​​や在来植物から、アクアリウムや自然に引き寄せられた蝶の生息まで鑑賞できる。
ここでは、香港で人気が高まっている「アーバンファーミング」に関するワークショップや、米国の野生生物保護団体「ジェーングドールインスティチュート」と提携しているガイド付きツアーも毎日開催。
その他、大学や研究所、地域の社会起業家ともコラボレーションしながら、教育・コミュニティ活動に取組む。

新世界発展のサステナビリティ責任者であるEllie Tang氏曰く、
「持続可能性に精通していない人々を、ゆっくりと良い習慣に変えること」を目指しているとのこと。
気候変動の概念を押し付けるのではなく、自然の美しさを真に理解することを奨励する。
環境保護の啓蒙には自然を愛する気持ちを自発的に生み出すことが重要、という考えには、感化されるものがある。

その他、この施設は米国のLEED(ゴールド)、香港のビームプラス(ゴールド)基準を含む、グリーンビルディング認証を達成。
広大な壁面緑化や、石灰岩や木材などの天然素材の利用、灌漑用水に循環される雨水貯留、年間エネルギー消費量を12%以上削減する海オイルフリーチラーシステムなどがその認証取得を裏付ける。

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③Bullring & Grand Central
次に紹介するのは、英国のバーミンガムに位置する「Bullring & Grand Central」の事例。ここは商業施設のコンセプトというより、導入されているAIシステムが特徴的。

キャプチャ

引用:Bullring&Grand Central
事業主である英国の不動産開発企業「ハマーソン」は、同国の新興企業「グリッドエッジ」と協業し、モール内のエネルギー使用量を削減するAIシステムを開発
モール内の温度センサーとリアルタイムのエネルギーデータを使用して、暖房、換気、空冷システムを最適化し、温度とエネルギーコストの両方でピークと谷がいつ発生するかを予測。
次に、エネルギーコストと消費電力の二酸化炭素排出量を最小限に抑えながら、建物を快適な状態に保つために、最も効率的な時間設定をアドバイス。
そうすることで、年間100,000ポンド(119,275ドル)の省エネが実現できるとのこと。

モールの運営コストを下げながら、エネルギー使用量を最小限に抑えることで、経済価値と社会的価値の両軸を成功させている好事例。

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④ReTuna

最後に紹介するのは、スウェーデンのエスキルストゥナに2015年に開業した商業施設「ReTuna」。世界初のセカンドハンド(中古品)に特化したショッピングモール

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引用:HUFFPOPST
モールは、地方自治体のリサイクル部門が所有しており、隣接するリサイクルセンターと協業して商品を販売。
売られている商品の殆どが公共の寄付によるもので、モール内のデポ(保管所)で地元の人々によって寄贈されている。

ReTunaのスタッフはそれらの寄贈品を、モール内の家具屋、自転車店、書店、アパレルショップなど各ユニットの保管ゾーンに分類し、修理・改良を行い、販売する。こうして廃棄物となるはずだったモノに新しい生命が吹き込まれ、次の持ち主へとバトンタッチしていく。

2018年の売上は100万ポンド(119万ドル)を超えたとのこと。この成功は注目を集め、他の北欧のまちでも設立の話が立ち上がっているとCNNが報じている。「サーキュラーエコノミー(循環型経済)」の成功例として、多様な業界・団体への希望の光にもなっているだろう。

ここでは中古品のアップサイクル・販売の他にも、
サステナビリティに焦点を当てたイベント、ワークショップ、講義の開催、
高校による1年間の教育プログラム「リサイクルデザイン」の実施、気候に配慮した会議を開催できる会議室の用意、オーガニックのランチと焼き菓子を提供するカフェまで備わっている点で、
地域のかけがえのない居場所としても使われていることが素敵。

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引用:ReTuna

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どの施設も、サスティナビリティの思想を消費者に押し付けるのでなく、「自然に囲まれた生活、環境にやさしい購買活動というものがいかに豊かで、心を満たし、美しいものであるか」を、様々なメソッドを介して伝えている。
そして、それが単なる慈善活動ではなく同時に経済的価値をもたらし、企業の持続的な経営にも寄与することが、一部実証されつつあるようだ。

引き続き、グローバルに情報収集しながら、自らの仕事に活かしていきたいと思います。つづく。