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グループ会社の単体会計システムは統一すべき?【クラウド連結会計こだわり仕様シリーズ】

こんにちは!「マネーフォワード クラウド連結会計(以降“クラウド連結会計”)」のプロダクトマネージャーをしている、HORI です。

こだわり仕様シリーズ第2回

クラウド連結会計を作り上げていく途中で、様々なことを背景から深く検討して仕様に落とし込んでいきましたが、プロダクトの営業資料やヘルプページの仕様説明には書ききれない背景がたくさんあったりします。

(かなり充実したヘルプページがありますが、それはあくまでもユーザー様が操作に迷わないためなので、仕様の背景までは書いてありません)
なので

  • 「なんでこういう仕様になっているんだろう?」

  • 「プロダクト制作側の考え方を知りたい」

と思うようなコアなユーザー様や連結会計の世界に興味がある方に向けて、「クラウド連結会計、こだわり仕様シリーズ」を綴っていきます(全何回とか週イチ更新とかは難しいので、不定期で追加していきます。体系とかナンバリングは増えてきてから整理します)

こだわり仕様シリーズ第1回はこちらです。


グループ会社の会計システムは統一すべき?

今回はシリーズ第2回。「グループ会社の単体会計システムは統一すべきか?」に対して、クラウド連結会計がどのように考え、仕様を決めていったのかを説明していきます。

先に結論

ここから先、長い説明を始める前に結論を書きます。完全統一はムリです(笑)。

もう少し丁寧に言うと、「目指しても良いが、前提にしてはいけない」です。特に成長を続けていくことを目標にするなら、全社が常に同じ会計システムを使っている状態をキープするのは不可能です。

この結論は、数十年続いているERP統合論争の現状と同じような背景・理由となりますので、まずはERP統合論争の歴史からひも解いていきます。

ERP統合論争の歴史

連結会計が制度化された金融ビッグバンの頃から、2010年前後にかけてSAPを中心としたERPシステムのメガベンダー達が「ERPシステムを全社同じシステムにする」という構想で、全世界のグローバル企業に採用されてきました。(このころはいわゆるクライアントサーバー方式が前提)

このコンセプトは、強力なリーダーシップを発揮可能な欧米の大企業や、ある程度業務内容が全世界で共通化可能な業界で一定程度の成功を収めました。なので、一時期は「全社のERPシステムを統一していくべき」という論調が正義のように語られていた時代もありました。

ただ、自分もその時代に会計監査やパッケージベンダーで過ごしてきた身として断言できますが、「達成できた会社は皆無」であり、「一時的に達成した会社があったとしても、維持負担に耐え切れず、結局断念」というのが現実です。

むしろ、この時生まれたブームの負の遺産として「2025年の壁」という課題が発生してしまっており、業界を揺るがす問題にまでなっています。

クラウドシステムの世界的な勃興

ERP統合の次の流れとして、今、何が起こっているかというと、現場の担当者が、その国、その規模、その業務に適したクラウド業務システムを採用していくという流れが加速しています。

「新興国の成長」、「法令の多様性」、「技術革新の速さ」に対応していくためには、「親会社が指定した会計システムを入れる」という時間、労力を考えると、現場の判断を尊重したクラウド型サービスの選択が主流になっています。

なお、クラウド型の業務システムは、ユーザーのニーズに合わせてスモールに作れることが強みであるがゆえに、多種多様なプロダクトが市場にローンチされている状態となっています。

スマートキャンプ社が提供している「Saasカオスマップ」にその状況が如実に表れていると思いますが、国内だけでも多種多様なクラウドサービスが乱立し、各担当者が自分の業務に適したシステムを選択する時代になっています。

かつ、この傾向がグローバルで進展しています。会計システム業界は、東南アジア各国内で群雄割拠状態、欧米では数社が抜け出し始めている状況と地域によっても様相が違います

背景にあるグループ経営に対する考え方の変化

表面上の流れは、クライアント・サーバー方式 ⇒ クラウド方式 で片づけづけられてしまいがちですが、この変化の背景には「権限移譲」、「多様性の尊重」といった価値観の変化が含まれていると考えられます。

親会社主導で全ての方針、施策を出していくような統合型のグループ経営管理が限界に突き当たり、現場の力を最大限に引き出していく分散型のグループ経営管理が必要とされている大きな流れが存在しているのです。

グループ経営管理を行う上で望ましい状態の定義

コストや労力を抜きにして考えるなら、グループ経営管理を行う上でのベストなデータ共有状態は、「全グループ会社の全データを統一の勘定科目、統一の軸で常時閲覧できること」になるかと思います。

ですが、労力をかけてデータを共有可能にしても、チェック、活用できなければ、意味がありません

特に、分散型グループ経営を効果的、効率的に遂行していく上で、親会社側でモニタリングすべきはどの水準か?を考えると以下の線引が妥当な水準になるのではないかと思います。

  • 親会社の管理部門:月次で財務諸表(統一科目)のモニタリングを行う

  • グループ会社側:上記の財務諸表の説明責任を負う

  • 親会社は仕訳、取引レベルには基本的には有事以外は踏み込まない(任せる)。が、異常確認や有事の際には踏み込む前提
    (ここを踏み込む場合はもう一つ先の共有機能がいりますが、そこはいったんパートナー企業や駐在員の力を仰ぐことにしました)

また、これらの大前提として、作業工数の合理化と透明性の確保のために「グループ子会社側の手作業が最小化されること」は常に配慮する必要があります。

途中で手作業が入るほど、上記の役割分担の間にこぼれるエラーが起きやすくなるので、上記の役割分担を可能な限りシームレスに実現できる状態が望ましいと言えます。

グループ経営企業における単体会計システムのリアル

国内の新設子会社ならまだしも、海外の会社や、M&Aで買収したグループ子会社の会計システムを変えることは困難です。「会計システムを揃えて下さい」と言ったところで、地理的要因や業種、規模により変更不可能なこともありますし、何よりも、グループ子会社側の自主性や、創意工夫を否定してしまうと、グループ子会社側の有能なメンバーを失う可能性も高まります。
グループ子会社が会計システムを変更するのは、グループ子会社側が「変更にメリットがある」と判断した場合に限定しておくことが賢明です。

クラウド連結会計の選択

このような状況でグループ各社の会計システムが統合されていることを前提にした連結会計システムを作ってしまうと、単体会計システムが統合されてから使うシステム⇒永遠に使い始められないシステムになってしまいます。
ですので、クラウド連結会計としては以下のスタンスに基づいて仕様を決定しました

  • 単体会計システムは統合していなくても連結決算ができるようにすること(親会社も他社の単体会計システムであってもOKとする)

  • 連結会計システムとして、マネーフォワード クラウド連結会計を採用した場合、単体会計システムをマネーフォワードにそろえることに子会社側がメリットを感じられるようにすること

クラウド連結会計が基本前提としている単体会計システムの状況

仕様の前提にした業務条件(一部)

具体的な仕様としては以下のような業務条件をみたせるように意識しています。

  1. 現状利用しているExcel連結パッケージからのインポートを可能にする(既存の業務を変えずにスタートできる)

  2. 様々な単体会計システムからの出力レポートを可能な限り加工なしで取り込めるようにする

  3. 加工が必用な場合も最低限の工数で繰り返し可能とする

  4. マネーフォワードシリーズからはAPI連携でデータを取得できるようにする(データの加工作業なしで取り込めるメリットを提示できる)

  5. 作業の分担、データの共有、履歴の管理ができるようにする。

特に1.~3.についてはかなり細かい仕様を積み上げて実現しています。
そして、単体会計システムの想定範囲は国内会計システムに限定せず、世界各国の会計システムのデータを取り込んできた経験をフル活用して、最低限のシンプルな設定作業ながら、世界中の会計システムのデータの取込が作成可能な柔軟性を追求しました。

世界各国の残高試算表様式とその効率的な取込みを実現している細かい工夫や、残高試算表とB/S、P/Lの違い なども面白い題材ではあるのですか、ちょっと長文になりすぎてしまったので、また別の記事を書くときに触れようと思っています。

最後に

いかがでしたでしょうか?
私たちはこだわりを持ってプロダクトを作り、連結会計の世界を変えていくつもりで日々の開発に取り組んでいます。志を叶えるにはまだまだ遠い道のりですが、このこだわりに共感し、一緒に未来を作っていくメンバーを募集しています。共感された方、気になった方は、ぜひエントリーをお願いいたします。




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