【論文レビュー】チームワークの質がソフトウェア開発の成功を左右する! - アジャイル開発71チームの実態調査から見えてきたこと
こんにちは!テツローです!
今回もエンジニア組織に関する論文のレビューです。言わずもがなですが、いくら技術が進歩してもチームワークの良し悪しが、そのPJの成功を左右することは、ある程度想像できますよね。感覚値ではわかっていたけど、それをきちんと研究対象として取り上げたことに意義を感じる論文でした。
英語タイトル:Teamwork quality and project success in software development: A survey of agile development teams
日本語タイトル:アジャイル開発チームにおけるチームワークの質とプロジェクトの成功に関する調査
著者:Yngve Lindsjørn, Dag I.K. Sjøberg, Torgeir Dingsøyr, Gunnar R. Bergersen, Tore Dybå
1.ひとことで言うとこんな感じ
アジャイル開発チームにおけるチームワークの質(TWQ)がチームパフォーマンス、学習、仕事満足度に及ぼす影響と、この影響が従来の開発チームと異なるかどうかを調査する、といった内容です。私も普段からアジャイルのスクラム開発手法を採用しているので、TWQの影響はアジャイル開発チームに大きく影響するだろう、と思って読み進めていました。が、意外にも結果は違いましたw
2.なぜこの研究が重要なのか(社会的背景)
アジャイルな開発手法は、従来の開発手法と比べてチームワークをより重視しています。しかし、アジャイルなチームにおいて、チームワークの質が実際にプロジェクトの成功にどのような影響を与えているのかについては、詳しい調査がこれまでありませんでした。そのため、チームワークの質とプロジェクトの成功の関係を明らかにすることは、今後のソフトウェア開発の効率化や品質向上にとって重要な課題となっています。
3.研究で明らかにしたかったこと(リサーチクエスチョン)
アジャイルソフトウェアチームのパフォーマンスに対して、チームワークの質はどのような効果があるのか
チームメンバーの仕事に対する満足度に対して、チームワークの質はどのような効果があるのか
チームワークの質が与える効果は、従来型の開発チームとアジャイル開発チームでどのように異なるのか
4.研究の進め方
26の企業から71のアジャイル開発チーム(チームメンバー323名、チームリーダー76名、プロダクトオーナー78名、計477名)を対象にアンケート調査を実施しています。チームワークの質、チームのパフォーマンス、メンバーの成功度について質問し、構造方程式モデリング(※1)を用いて分析を行っています。また、従来型開発チームを対象とした過去の調査結果と比較分析も行っています。
5.主な発見・結果
チームメンバーとチームリーダーの評価では、チームワークの質が高いほどチームパフォーマンスも高くなりましたが、プロダクトオーナーの評価ではその関係はほとんど見られませんでした。
チームワークの質と、メンバーの学習や仕事の満足度との間には非常に強い正の相関が見られました。
アジャイル開発チームと従来型開発チームを比較すると、チームワークの質とその効果に大きな違いは見られませんでした。
6.この研究の面白いポイント
同じプロジェクトに対する評価が、チームメンバー、チームリーダー、プロダクトオーナーで大きく異なることが分かった点です。特に、プロダクトオーナーの評価だけが他と異なるのは、立場による視点の違いを端的に表しています。また、アジャイル開発がチームワークを重視しているにもかかわらず、従来型の開発手法と比べて大きな違いが見られなかったことも興味深い発見です。
7.実務や日常生活への応用可能性
当然と言えば当然なのかも知れませんが、チームのパフォーマンスを向上させたい場合、特に製品の品質向上を目指す場合は、チームワークの質の向上に注力したほうが良いと思います。また、チーム内での相互サポートや協力関係の構築というのが、特にアジャイルチームでは重要になるということがわかったので、自職場で新しくスクラム開発を始めるチームではこの点を意識していきたいと思いました。
8.自分なりの考察
チームワークの質と成果の関係が、プロダクトオーナーの評価では見られなかった、という事実が意外でした。これは、プロダクトオーナーがチーム内のプロセスより、出来上がってくる成果物自体を重視する傾向があるからなのかも知れません(論文では言及されていない)。また、アジャイル開発と従来型開発で大きな差が見られなかったという結果を見ると、チームワークの重要性というものは、開発手法の違いを超えたところにあるのかも知れませんね。興味深い論文でしたが、この研究の続きをするなら、具体的なチームワーク改善施策の効果検証を調べられると良いと思いました。
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