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【短編脚本】#2「まだ、東京で」

【短編脚本#2】十月二週目

りか24
たくま24

大学3年時から付き合う
社会人2年目の2人の物語。

りかは就職を機に東京に引っ越してきたが、
退職し地元の栃木に帰ることに決めた。

遠距離恋愛を機に別れることとなった。

目黒川側沿いのワンルーム。
10月初旬の珍しい引っ越しである。

ーーーーーーーーーー


りか)よーしこれで全部だね。

たくま)りかにしたら大分荷物少なくなったね。

りか)まあね、実家に帰ったら家具もあるし。
   会社の人とかにあげちゃった。

たくま)会社辞めてから3ヶ月か。
    結局、栃木に帰ることにしたとは。

りか)まあね、仕方ないよ。
   お金ない。これが現実だよ。

たくま)東京で再就職すればよかったのに。

りか)いいのいいの。
   栃木の田舎から出てきた冴えない
   私に東京は疲れちゃうのよ。

たくま)そっか。りかが決めたことなら。

りか)でも、引っ越しの
   手伝いきてくれてありがとね。

たくま)まあ。
    大学から3年も時間を共にしたわけで。
    今日でお別れだし。

りか)さみしいね。さみしいこと言うね。
   ま、元彼が最後にお別れに
   きてくれるなんて変な話だけどさ。

たくま)元彼だし、
    もう間も無く仲良しの友達になるね。

りか)友達でいてね。好きにならないでね。

たくま)…
    荷物は全部積めこめたかな。
    忘れ物はない?


2人はレンタカーに乗り込んだ。
首都高...東北自動車道...そんな道のりである。


りか)でも東京はあっけない。
   私がいなくなっても誰も知らない。
   時間もヒューって。
   止めて欲しいわけではないけど、
   気にかけて欲しいよ、東京さん。

たくま)何言ってんのさ、そんなもんさ。
    引っ越しなんて。
    引っ越す人が勝手に感情移入して...
    街も不動産も住民も、時間も、
    別にいつもとなんら変わらない。

りか)なるほど。
   そんなもんかぁ。
   人間って身勝手だねー。

たくま)それが人間らしさだけどね。
    AIに寂しいなんて感覚はないしね。

りか)あるかもよ。あい(AI)が。

たくま)人間はみーんな寂しがり屋だよ。
    誰かから必要とされたいし、
    なんか爪痕残してその場に一緒に
    いたんだって、そうしたがる。みんな。

りか)私も東京から必要とされたかったなぁ。

たくま)そうかもね。東京から出てくなー
    って東京に言われたかったんじゃない?

りか)1年半の東京生活。
   割といろんなことしたんだけどね。

たくま)そうだね。でも東京のこと
    なんもわかってないんだろうなぁ。

りか)たくまはまだココで挑戦するんでしょ?

たくま)挑戦だなんて大げさな。
    会社勤めを続けるだけよ。

りか)すごいなぁ大企業の会社員は。

たくま)そうかな、大したことないよ。

りか)会社員なんてできなかった。
   いい子じゃないもんね、私は。

たくま)いい子?いい子じゃないと
    会社員ってできないの?

りか)そうだよ。いい子じゃないと。
   私は言うこと聞かないし
   我慢弱いし、みんなと協力できないし。
   私は会社で働くことも
   東京で暮らすことも向いてない。

たくま)どうしたんだよさっきから。
    りかのできないことが
    見つかってよかったじゃないか。
    決して無駄じゃないし、
    向いてることに近づいたじゃないか。

りか)優しいねたくまは。
   一体何ができるんだろうねー私には。

たくま)栃木に帰って休んで、
    自分を見つめ直して、
    ゆっくりまた始めたらいいじゃない。

りか)なにしてるんだろうなぁ一年後の私。

たくま)何してても正解さ。
    おれも、りかも、
    大人の階段を自分の足で登ってるさ。
    少しは。

りか)登れてるといいな。
   東京の下道好きだったなぁ、
   この道、ループ乗ったりしたね!


一年半で見てきた東京の下町を走りながら、
首都高のインターが近づいてきた。


たくま)高速乗りまーす。
    ほら窓開けて東京にお別れを言って。

りか)大げさな。またいつでも遊びにこれるし。

たくま)そういうけど、案外東京ってこないよ。
    あ、でもよかったの?

りか)何が?

たくま)なんか前言ってなかった?
    役者になりたいって。

りか)あー言ってたっけかそんな夢物語。
   そんなの無理だしいいよ。

たくま)大学でも劇団サークル入ってたわけだし...
    また、やってみたら?

りか)いいよ、生活できないよ。

たくま)まだ24歳じゃん?

りか)...いいって

たくま)なんとかなるんじゃない?

りか)やめなよ!そうやって夢見させるの!
   自分は、会社員やってるくせに。

たくま)え、え、あ、ごめん。

りか)あ、いや、えっと。
   やりたいこととできることは違うんだよ。

たくま)目を見てたら本当は
    やりたいんじゃないかなって。

りか)うるさい、
   会社員やって安定してるからって!

たくま)会社員...?
    自分はやりたいことも、
    才能も夢もないから...
    だから夢がある人が羨ましいんだよ。

りか)バカにしてるんでしょ。そうやって。

たくま)違うって。
    りかの目を見てたらなんか寂しそうで。

りか)....いいよ、もう。

たくま)悪かったよ、帰ろう。


急に感情が高ぶるりかに驚いたたくま。
それからしばらく沈黙が続く。

その後20分車を走らせ
埼玉県に入ったあたりの
パーキングエリアで軽食と休憩を取った。
りかはまだ黙りこくっている。


たくま)食べ終わったんなら、そろそろ行こか。

りか)ちょっと待って。これ見て。

たくま)インスタ?誰?なんか見たことあるけど。

りか)同じサークルの一個下の...カナデ。
   ドラマデビューだってさ。

たくま)テレビの道に進んだんだ、彼女。

りか)実力そんなだったんだけど、なんで。

たくま)カナデちゃんも相当な
    努力したんじゃない?
    

りか)...

たくま)そろそろ行こか。

りか)うーん、なんでカナデが?


不機嫌そうなりかはの態度は急変した。


りか)ちょっとさ。納得いかない。
   やっぱりモヤモヤする。
   戻れる?

たくま)戻る?はあ?どこに?

りか)戻って欲しい。

たくま)だからどこに。戻るって東京に?

りか)そうだよ、言わせないでよ。

たくま)ちょっと落ち着いてって。

りか)落ち着いてる。
   カナデに負けるわけがない。

たくま)はぁーん?
    でも家解約しちゃったろ?
    うちも無理だよ?

りか)友達の家に居候する。
   後ろに積んである物を今から売りに行こう。

たくま)わかった。わかったよ。

りか)なんか反論しないわけ?

たくま)別に。これでよかったんだと思って。
    決心ついてないと思って。

りか)なにが?こうなると思ってたの?

たくま)うん。表情とか目線で察した。
    それでこそ、りかだよ。
    大学サークルの時のように
    舞台に立ってよ。また挑戦してよ。

りか)うん…うん。ありがとう。
   危なかった。
   嘘をつき続ける人生になるところだった。

たくま)よかった。あ、でも...

りか)何?まだなんかある?

たくま)友達の関係に戻ろう。
    俺はりかとの距離感は
    今くらいでいいと思う。
    友達として、ずっと応援してるよ。

りか)うん。ダサいけど、たくまらしいね。
   ありがとう。


りかは、栃木に帰ることを
撤回するためお母さんに電話をした。
お母さんも帰ってくるって
冗談かと思っていたそう。


りかは第2の人生を東京とまた歩み始める。

りかは、まだ、東京にいる。


ーーー完ーーー


10月8日土曜日

毎週脚本#2「まだ、東京で」
長谷 鉄

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