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2020年のコロナパニックと2011年の震災の記憶〜ちょんまげ隊長ツンさんとゆく東北の旅

 Jリーグのすべての公式戦延期が決定した最初の週末、サッカーファンの皆さんはどのようにお過ごしであろうか。試合は行われず、よって遠征にも行けない。「旅とサッカー」をメインテーマとするOWL Magazineにとっても、かなり手痛いダメージである。

 今般の危機的な状況に接して思い出すのが、9年前に発生した東日本大震災後に経験した、何とも言えぬ閉塞感である。大地震による津波被害と原発事故に加え、その後も頻発する余震と計画停電、そしてこちらのCMがトラウマとなった方も少なくないだろう。

 まもなく9回目の「3.11」を迎えようとするタイミングで発生した、今回のコロナパニック。あの時の教訓が生かされることはなく、政府の対応は場当たり的で、メディアは不安を煽るばかりで、ネット上ではデマと誹謗と悲観論ばかりが渦巻いている。日本人の「反省しない国民性」を嫌になるくらい思い知らされた。

 奇しくも先週、Jリーグの開幕節の取材を終えた私は、ちょんまげ隊長ツンさんの密着取材で東北を訪れていた。取材記事はYahoo!個人ニュースにて発表予定だが、そこで掲載しきれなかった写真を今回はお見せすることにしたい。震災の記憶をたどる旅は、はからずも今回のコロナパニックに向き合う上で、さまざまなヒントを与えてくれるだろう。

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 2月23日、三共フロンティア柏スタジアムで開催された、柏レイソル対北海道コンサドーレ札幌を取材後、スタジアム付近でツンさんの車に乗せてもらう。途中、元フットボーラーのYさんをピックアップ。翌日には、ベガルタ仙台サポのHさん夫妻も石巻で合流した。今回は合計5名での東北の旅である。

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 その日の夜は、石巻市にあるKさんのご自宅に泊めていただいた。震災の時は自宅を流され、家族は仮設住宅での生活を余儀なくされたが、今は立派に自宅を再建。奥さんと3人の娘さん、そして1匹のミニチュアダックスフンドと楽しく暮らしている。

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 そんなKさん宅にはツンさんをはじめ、ちょんまげフレンズや他のボランティア団体の「拠点」となっている。Kさんいわく「これまでのべ100人は泊まったでしょうかね」。のみならず、ご自身もツンさんのボランティア活動に積極的に参加。活動を通じて生まれた、愛媛との縁(えにし)を感じさせるグッズがリビングに飾ってあった。

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 いつもお世話になっているKさんのご家族に、即興の被災地支援報告会を始めるツンさん。TVモニターにPCをつなげれば、いつでもどこでも報告会ができる。まさに名人芸の域。さながらフーテンの寅さんの啖呵売を聞いているかのような気分になる。

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 石巻からHさんの運転で、一路女川へ。この日は晴れたと思ったら、いきなり小雪が吹き付ける、東北のダイナミズムが凝縮されたような天候。そういえば震災直後の被災地は、たびたび冷たい雪に見舞われていた。生活インフラが止まった状況で、東北の人々は、どれほど辛く心細い日々を過ごしたことだろうか。

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 昼前に女川に到着。ここを訪れるのは、JFLに昇格したばかりのコバルトーレ女川の取材以来だから、実に2年ぶりである。さっそく海に面した商業施設、シーパルピア女川へ。脂の乗ったサバの開きが並んでいるのを見て、ツンさんの表情も自然に和らぐ。

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 シーパルピアのすぐ近くにある『ふらわ〜しょっぷ花友』にて、店主の鈴木千秋さんとツーショット撮影。ちょんまげ隊では毎年5月、母の日に合わせてこの店から100鉢ものカーネーションを購入し、牡鹿半島のお母さんたちにメッセージを付けてプレゼントする活動を続けている。こちらのお店には、上皇ご夫妻も訪れたそうだ。

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 女川から今度は南三陸へ。南三陸ハマーレ歌津には、全国のJクラブやそのサポーターから寄せられたフラッグが飾られている。ここを管理しているのは、震災を機に移住してきた富山県出身の坂下邦彦さん。ツンさんとの親しげな会話を聞いていて、震災発生から今に続く確かな交流の深さを思わずにはいられない。

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 昼食を摂るべく、南三陸さんさん商店街へ移動。いきなりモアイ像が出迎えてくれて驚く。1960年のチリ地震の影響で、この地域が津波被害に見舞われた記憶を後世に伝えるべく、チリ人の彫刻家が製作したモアイ像を91年に設置。しかし2011年の津波で流されてしまい、イースター島の石で作られた新たなモアイ像が寄贈されたという。

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 さんさん商店街がある志津川地区は「東の志津川、西の明石」と呼ばれるくらいタコの産地として有名なのだそうだ。そんなわけで、この日のランチはタコ壺ラーメン。塩味のさっぱりしたスープに、分厚いタコの刺し身が入った豪華な一品。冷え切った身体をほぐしてくれる、温かくて豊かな味わいであった。

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 この日の宿泊先は、牡鹿半島にある割烹民宿『めぐろ』。ツンさんの東北支援活動が重点的に行われたのが、この牡鹿半島であり、それゆえ『めぐろ』にも何度も投宿している。2014年のワールドカップの際、ちょんまげ隊は牡鹿の子供たちのためのパブリックビューイングを開催したが、その時の拠点にもなっている。

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『めぐろ』の魅力は、窓から見える美しい浜の景色、そして地元産の魚介類をふんだんに使った料理である。この日の夕食は、キンキのみぞれがけ、アナゴの白焼、ホヤ、ワカメ、そしてクジラの刺身、などなど。ここの料理が楽しみで、牡鹿でのボランティア活動を続けている人も少なくない。

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 そしてもうひとつ『めぐろ』の名物となっているのが、当地に移住してきたアーティスト、太田和美さんの作品『HOYAPAI』。料理が美味いだけでなく、地元のアーティストや県外のボランティアとコラボレーションする交流の場にもなっているのが『めぐろ』の魅力。石巻を訪れる機会があれば、ぜひとも牡鹿半島まで足を延ばしていただきたい。

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