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新史太閤記(前編・後編)

基本情報

著者:司馬遼太郎
出版社:新潮社
出版年:1968年

媒体:文庫本
ページ数:(前)412p、(後)399p
読了日:2021年8月6日
所要時間:20時間

著者紹介

司馬遼太郎(しば りょうたろう)
(1923-1996)大阪市生れ。大阪外語学校蒙古語科卒。産経新聞文化部に勤めていた1960(昭和35)年、『梟の城』で直木賞受賞。以後、歴史小説を一新する話題作を続々と発表。1966年に『竜馬がゆく』『国盗り物語』で菊池寛賞を受賞したのを始め、数々の賞を受賞。1993(平成5)年には文化勲章を受章。“司馬史観”とよばれる自在で明晰な歴史の見方が絶大な信頼をあつめるなか、1971年開始の『街道をゆく』などの連載半ばにして急逝。享年72。『司馬遼太郎全集』(全68巻)がある。(新潮社/著者プロフィール)

読むきっかけ

この本を読のんだのは今回が二回目で、前回は高校2年生の時に祖父の家を訪れた際に祖父の本棚から拝借し読み始めた。当時は著者の古風な文体に読みづらさと優美さを感じたのを覚えている。表現だけでなく、内容そのものも鮮烈でありおよそ自分の人生の指針を定めるような本だったと思っている。それが、私にとってはじめての司馬作品であり、その後『最後の将軍』、『項羽と劉邦』と読んできた。そして、社会人を目前にしたこの機会に、改めてこの本を手に取ったというわけである。

本書のあらすじ(概要)

本書は日本史上初めて天下統一を果たした太閤豊臣秀吉の人生を司馬史観で描いた本である。ざっくり言うとど平民から人生をスタートさせた秀吉が、コミュニケーション力、政治力、商才をはじめとする才能を駆使して成り上がる話である。

本書の位置付け

そのそも「太閤記」とは一般に豊臣秀吉の伝記の総称であり、江戸時代から現代に至るまで様々な太閤記が出版されてきた。その中で、『新史太閤記』とは司馬遼太郎が書いた太閤記という位置付けである。
前述の著者紹介にあるように、司馬遼太郎は多くの小説を書いてきており、本作は戦国三部作と言われる、『国盗り物語』『新史太閤記』『関ヶ原』の1つである。

感想

私はこの本こそ最高のビジネス書であると思っている。
秀吉の一挙手一投足にビジネスに生かせるエッセンスが詰まっているからである。よく、漫画『キングダム』がビジネスに効くなんて言われているが、大方それと同じ路線で、かつ10倍ぐらい上質なイメージである。
ちなみに、ここでいうビジネスに活かせるというのは、主に「処世術」のことである。

主を儲けさせる
例えば、秀吉は若き頃、信長に仕える以前は「嘉兵衛」という今川家の被官に仕えていたのだが、その時から

「われら奉公人は、旦那に徳をさせるためにある。旦那にはいちずに儲けさせよ」

ということを同僚に言っていた。
しかし、その同僚達は商売ということを知らずに、秀吉はただただ気味悪がられて居場所がなくなったという経緯がある。

結局は秀吉は気質の合わない遠州(静岡)を離れて、商売感覚のある人の多い尾張(愛知)へと拠点を移すことで信長の下、上述の行動理念を貫き大活躍することになる。特に信長は当時の大名の中でも異例なほどに「実力主義」を取り入れていたということもあり、自分に得をもたらしてくれる秀吉が可愛かったという。

主(上司)を儲けさせるという感覚を一人だけ持ち、それを実行することは学ぶべきところである。

同僚の中での差別化
また、信長に気に入ってもらうという点でいくと、他の武将との差別化も行ったのもポイントである。秀吉は一般的な織田家の武将と比べて相当な回り道をしながら侍になっているために、侍にしては特殊な人脈が多くあり、結局は彼ら(野武士など)の力を借りながら美濃の稲葉山城(岐阜城)を落とすことに貢献した。

「うぬは妙な連中を知っている」
信長は、感心した。

これを現代風にとらえると、全職場との関係を良好に保っておき、いざとなった時に協力関係を仰げるようにしておいたり、社外の幾つかのコミュニティに属して多様な人と交流をしているという具合になると思う。

戦わずして勝つ
秀吉の生涯を通しての戦いのスタイルは「調略」である。
多くの戦いにおいて、彼は敵をいわば内部から崩壊させる形で勝利を収めてきた。これはかの有名な「清州会議」をはじめとする政治でも同じである。これには、相手が何を求めているのか、何を危惧しているのかということ読み取るを洞察の精度の高さが由来している。

戦は勝つべき態勢をつくりあげることであった。味方を殖やし、敵の加担者を減らし、戦場に集結する人数は敵の倍以上ということを目標としていた。合戦のもつ投機性を減らし、奇跡を信ぜず、物理的にかならず勝つ態勢へもりあげてゆく。

ただむやみに競合とコンペで激突するだけでなく、最もコスパの良い方法で事をなすべきであることは、時代を問わないと思う。

今回挙げた三つの事例は一部にすぎず、前・後編合わせた800ページの中で、大なり小なりの様々な処世術のヒントが隠されている。ストーリーもさながら、このようにビジネス書として用いることのできる良書であると思う。

最後に
本書の秀吉は高校生の時から私のヒーローである。その気持ちは今も変わらない。理由としては、私と類似している点が多くあるからである。商売好きな点、上昇志向な点、身分が低いという点、身長が低い点などである。
そんな彼が、一介の農民から天下統一を成し遂げたストーリー(実話)は私だけでなく、多くの人に勇気を与えるものだと思う。



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