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【ショートショート】炎の大魔王
「やったー、旅行だー!」
「わーい!」
太郎と次郎は初めての旅行に大はしゃぎ。ホテルの部屋に着くなりベッドの上に乗り、ぴょんぴょん飛び跳ねた。
「ちょっと、あなたたち、そんなことしてないで、水着に着替えてビーチに行くわよ」
「やったー!」
「わーい!」
パパとママがパラソルの下で居眠りしている間に太郎と次郎がビーチで遊んでいると、仲良しの吉男が太郎目がけて駆けてきた。
「太郎くん、お家が燃えてるよ!」
「えっ? どこどこ?」
「こっちだよ」
吉男の案内で砂浜を駆けてゆくと、太郎の家がメラメラと燃え盛る大きな炎に包まれている。
「砂をかけろ!」
太郎の指示で、太郎のクラスのみんなが1列に並び、砂の入ったバケツを最前列の太郎に「オーエス、オーエス」のかけ声に合わせて順繰りに回した。吉男も隣のクラスのみんなを引き連れて、同じように最前列で炎めがけて砂をかけ続けた。次郎がやってきて、太郎に聞いた。
「お兄ちゃん、幼稚園生もやっていい?」
「うん、いいよ」
次郎も自分の後ろに並ぶクラスメイトから次々と送られてくる砂を頑張ってかけた。
「オーエス、オーエス!」
皆のかけ声が大きくなるにつれ、炎は小さくなってゆき、
「ああ、寒い……」
と言って、炎の大魔王の顔はどんどん崩れていった。
「ようし、トドメだ!」
太郎、吉男、次郎は両手をまっすぐにのばし、手の平を精一杯広げて大魔王に向け、3人同時に叫んだ。
「魔封波!」
「うおおおおお……!」
大魔王は巻き上がる砂嵐の中に消え、元通りになった太郎の家はみるみる縮み、昆虫ケースの中にすぽっと収まった。
「やったー、大魔王を倒したぞー!」
「わーい!」
みんなは飛んだり跳ねたりして喜びを分かち合った。
太郎がふと目を覚ますと、車の中で母の胸に抱かれていた。気づいた母が、
「あら、太郎、起きたのね。もうすぐホテルに着くわよ」
と優しく声をかけ、太郎の頭をそっと撫でた。太郎はまた目を閉じてこう思った。
「小さくなったお家をどうやって大きくしようかな」
(了)
子どもが出てくるお話↓
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