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「日本遺産(JAPAN HERITAGE)」とは? 世界遺産と何が違うの? 全国にいくつあるの? 日本遺産の誕生背景や目的、現状について詳しく解説

皆さん、こんにちは!
TerraTrek【テラ・トレック】初投稿になります!

以前、このアカウントでルポルタージュを何度かアップロードしたことがありますが、今後は地理や歴史など幅広い分野の記事を定期的に公開していきたいと考えています。よろしくお願いいたします。

私自身は、現在都内の大学で地理学を学んでいる大学生です。これまで地域調査や自主的な研修旅行を通して、日本各地を訪れてきました。そこでの発見や成果について、このnoteを通じて共有していければ、と思います。

さて、記念すべきリニューアル後最初の記事でピックアップするのは… 私の専門分野でもある…

"日本遺産(Japan Heritage)"

と呼ばれる文化庁認定の事業についてです。

私は、旅行が大好きで寺社仏閣や城郭といった歴史的建造物をよく訪れますが、栃木県の足利学校(ストーリー #001 『近世日本の教育遺産群-学ぶ心・礼節の本源-』)を訪問した際に、現地で「日本遺産」の看板を見たのがきっかけで、日本遺産というものを初めて知り、それ以来、日本遺産巡りにハマっています。

その後、大学でのゼミ活動において、捕鯨が盛んな和歌山県太地町でフィールドワークを行うと、再び日本遺産に出会い(ストーリー #032 『鯨とともに生きる』)、実際に地域住民や日本遺産を通じた観光事業を推進する協議会などへ取材をし、研究を進めることになりました。

今では、日本遺産普及協会において、プロボノ・インターンメンバーとして、日本遺産の普及活動や地域活性化のために活動しています。

そうしたなかで、全国に104ある日本遺産1つ1つはもちろん、日本遺産制度そのものについても深く学んできました。これらの経験を踏まえ、今回は日本遺産とは何か詳しく解説していきます。


1. 日本遺産とは?

日本遺産(Japan Heritage)事業は、文化財や伝統文化を通じた地域の活性化を図るために、文化庁が平成27(2015)年度から開始した事業です。

歴史的経緯や地域の風土に根ざした世代を越えて受け継がれている伝承、風習など、点在する遺産群をストーリーとしてパッケージ化しているのが日本遺産の特徴です。

例えば、日本遺産 #001 「近世日本の教育遺産群-学ぶ心・礼節の本源-」のストーリーは以下の通りです。

我が国では、近代教育制度の導入前から、支配者層である武士のみならず、多くの庶民も読み書き・算術ができ、礼儀正しさを身に付けるなど、高い教育水準を示した。これは、藩校や郷学、私塾など、様々な階層を対象とした学校の普及による影響が大きく、明治維新以降のいち早い近代化の原動力となり、現代においても、学問・教育に力を入れ、礼節を重んじる日本人の国民性として受け継がれている。

日本遺産 ポータルサイトより

日本全国に104あるストーリーは、このように200文字程度で簡単に要約することができ、その内容に沿って、建造物や遺跡・名勝地、祭りなど、有形無形問わず構成文化財が設定されています(日本遺産ポータルサイトから閲覧できます)。

日本遺産の各ストーリーは、その特徴によって次のように分類されます。
地域型:単一の市町村内でストーリーが完結
シリアル型:複数の自治体に跨るストーリー展開

日本遺産 #001 「近世日本の教育遺産群-学ぶ心・礼節の本源-」の場合、旧弘道館(茨城県水戸市)や、足利学校跡(栃木県足利市)、旧閑谷学校(岡山県備前市)、咸宜園跡(大分県日田市)など、所在自治体が4県4市におよぶシリアル型にあたります。

図1、2が示すように、日本には北海道から沖縄にかけて全104の日本遺産がありますが(全ての都道府県に構成文化財が存在する)、そのうち地域型は34件で全体の3分の1程度となっています。

図1 日本遺産一覧(1)
出典:「日本遺産(Japan Heritage)」パンフレット
図2 日本遺産一覧(2)
出典:「日本遺産(Japan Heritage)」パンフレット


2. 日本遺産の登録条件

日本遺産の根幹となるのは「ストーリー」であり、その内容が以下の3点を踏まえていることが絶対条件となります。

①歴史的経緯や地域の風習に根ざし、世代を超えて受け継がれている伝承、風習などを踏まえたものであること。
②ストーリーの中核には、地域の魅力として発信する明確なテーマを設定の上、建造物や遺跡・名勝地、祭りなど、地域に根ざして継承・保存がなされている文化財にまつわるものを据えること。
③単に地域の歴史や文化財の価値を解説するだけのものになっていないこと。

日本遺産 ポータルサイトより

また、ストーリーについては、興味深さ、斬新さ、訴求力、希少性、地域性といった観点からも、総合的に魅力を十分に伝えるものとなっている必要があります。

この他、日本遺産を活用した地域づくりの将来像や具体的な方策、国内外への発信ための体制の整備などが審査基準となります。

構成文化財については、地域に受け継がれている有形・無形のあらゆる文化財が対象となり、地方指定や未指定の文化財を含めることも可能ですが、国指定・選定のものを必ず一つは含めなくてはならないというルールもあります。


3. 日本遺産登録の流れ

日本遺産の申請者は市町村であり、都道府県教育委員会を経由して、文化庁へ申請が行われます。

その後、図3の通り、認定審査(①ストーリー審査、②計画審査)を経て、認定地域として認められた場合、重点支援期間(3年間)と自立・自走期間(3年間)の合わせて6年間が取組期間となります。

特に、重点支援期間中には、国からの補助金などを積極的に活用し、地域づくりや観光誘致を行い、徐々に自走できるよう体制を整えていかなくてはなりません。

認定から6年が経過したタイミングで、文化庁による総括評価が行われ、認定取消の場合を除き、その結果をもとに継続審査として計画審査が進みます。

優れた取組が見られた地域は優良遺産として重点支援地域に、その他の地域は認定地域に分類され、それぞれ地域活性化計画のもと、再び3年間の取組期間に入り、その後も定期的に審査が続きます。

一方で、継続審査において、再審査となった場合、認定取消となる可能性もあります。また、継続審査や再審査の結果、重点支援地域・認定地域ではなく、「認定地域(条件付)」になると、その後の3年間の取組期間で日本遺産候補地域と競い合うことになります。

日本遺産のストーリーは100件程度という上限を維持する必要があるため、取組内容次第で日本遺産から抹消される地域が出てくることもあります。

図3 日本遺産登録の流れ
出典:令和5年度 第2回日本遺産審査・評価委員会

今年度(2024年度)は、平成27年度条件付き認定地域と令和3年度認定地域の中から(図3の赤枠内)、新規認定および認定取消の有無が発表される予定です。

これまで認定が取消されたことはなく、条件付き認定地域の継続審査は初めてとなります。

平成27年度条件付き認定地域には、①「信長公のおもてなし」が息づく戦国城下町・岐阜、②六根清浄と六感治癒の地 ~日本一危ない国宝鑑賞と世界屈指のラドン泉~、③津和野今昔 ~百景図を歩く~、④古代日本の「西の都」 ~東アジアとの交流拠点~の4件があります。

対して、令和3年度認定地域には、⑤北海道の『心臓』と呼ばれたまち・小樽 ~「民の力」で創られ蘇った北の商都~、⑥天空の岩山が生んだ信仰と産業 ~房州石の山・名勝地鋸山は自然と歴史のミュージアム~、⑦おもてなし文化 ~受け継がれゆく京の花街~の3件がリストアップされています。


4. 世界遺産との違いとは?

世界遺産含め文化財の多くは、これまで、「甲冑→国宝、重要文化財」、「寺社・仏閣、城郭、遺跡→史跡、名勝、天然記念物」、「伝統芸能→無形文化財、民族文化財」という形で、個々の遺産を「」として指定・保存してきました。

しかし、保存に重点を置いた従来の文化財行政では、地域の魅力が充分に伝わらないという課題もありました。

そこで、日本遺産は、寺社・仏閣、城郭、遺跡、伝統芸能、食文化など、有形無形問わず幅広い分野を対象に、「」でストーリーを構成し、これを地域のブランド化・アイデンティティ再確認促進のために、「活用」を重視する方針となりました。

そもそも、日本遺産自体が東京オリンピック開催によるインバウンド(外国人観光客)の増加を見据え、新たな日本の魅力を国内外に発信していくために誕生したものです。

それゆえ、活用次第では認定取消になる恐れがあるのも、日本遺産の大きな特徴といえます。

ただ、岩手県平泉町の中尊寺金色堂のように、日本遺産(#069『みちのくGOLD浪漫-黄金の国ジパング、産金のはじまりの地をたどる-』)と世界遺産(『平泉 ─ 仏国土(浄土)を表す建築・庭園及び考古学的遺跡群 ─』)とで構成文化財が重複するケースもあります。

写真1 中尊寺(岩手県平泉町)


5. 日本遺産をもっと知るために

日本遺産ポータルサイト(リンクはこちら)では、全104のストーリーについて、それぞれ詳しく解説されており、実際に訪れる際に便利な宿泊先やお土産・グルメ、みどころなどの情報も掲載されています。

また、特集記事や各認定地域からのお知らせ記事も日々投稿されているので要チェックです。

写真2 日本遺産ポータルサイト

日本遺産検定を受験するのも、日本遺産について知る良い手段かもしれません。日本遺産検定とは、2023年7月に始まったばかりの新しい民間試験で、合格すると「日本遺産ソムリエ」の称号を得ることができます。

日本遺産検定は合格がゴールではなく、その後、日本遺産ソムリエのコミュニティや、定期的に開催される日本遺産勉強会に参加できる点も大きな魅力です。

直近では、2024年5月17日(金)、18日(土)、19日(日)に3級試験がオンライン開催される予定です(2級は2024年夏、1級は2024年冬頃)。4月24日(水)には、60分で学べる無料対策講座も実施されます。

また、全ての日本遺産が見開き1ページでコンパクトにまとめられている以下の検定公式テキストがおすすめです。

人気クイズ集団QuizKnockと文化庁がコラボしたYouTube動画「QuizKnockと日本遺産を知ろう!!」も絶賛公開中です。


拙文最後までお読みいただき、ありがとうございました。少しでも日本遺産に関心をお持ちいただけたなら幸いです。

なお、当noteアカウントおよびX(Twitter)アカウントでは、これから日本遺産に関する情報を定期的に投稿していく予定です。今後とも宜しくお願いいたします。


【執筆者プロフィール】
TerraTrek(テラ・トレック)管理人
所属:
★大学3年生(執筆時/専攻は地理学)
経歴・資格:
★日本遺産普及協会(インターン)で活動中
・NEALリーダー(自然体験活動指導者)
興味・関心:
★文化財活用(日本遺産、食文化)
・観光(インバウンド、聖地巡礼)
・地方創生(人材育成、地域産業)
連絡先:
→terratrek2024■gmail.com
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※返信できない場合もございます。ご了承ください。


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