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上京して5年、はじめての家。

少し目線を上げると大きな公園が鎮座する、4階建てアパートの最上階。広々としたバルコニーが売りの一つである、30㎡もない1DK 。

一般的には2人暮らしするには少し狭いよう。だけど1Kに転がり込んでいた身からすれば広すぎるくらい。上京して5年、ようやく手に入れた、私が自由に生きれる「私のお城」。


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上京して初めての部屋は蒲田にあった。大学に通う路線の駅までにもう一つ蒲田の付く駅がある、不思議な街。(一駅区間は車で走って30分、な”田舎の中の都会”に住んでいた子からすれば最寄駅が2つは不思議。)

その時も私には同居人(今とは別)がいて、間取りは2DKだった。私は現在の家までに4つの住処を渡り歩いており、蒲田はその最初の家となる。

私も同居人も自室を持っていて、一見するととても自由に聞こえる。だけど、いつしかその家に帰るのも、同居人と顔を合わせることも苦痛になっていった。

__共同生活に向き・不向きな人は一定数いると思う。もし多少なりとも不向きな自覚があればよしておいた方がいい。片側へのしわ寄せに気づかず、同居人を不幸にしてしまいます。

そうこうしてあっという間に楽しくなくなった東京・蒲田2人暮らし。もちろん、楽しかった記憶もある。が、思い出せるものはそう多くはない。一番近いドラッグストアに2人で買い出しに行ったこと、安くなった惣菜を食べながら録画した番組を一緒に見たこと、それくらいだ。

ほどなくして蒲田の家での生活は、終了。同じ区内に引っ越した。理由は女暮らしには治安が悪いからというシンプルなもの。実生活で警察のお世話になってしまい、愛娘2人の身を両親が心配して引っ越しを勧めた。

めでたいことに、ちょうどその引っ越しの半年くらい前から私には彼氏(今の同居人)ができ、仲の悪い姉と過ごすより心地の良い”彼氏の家”に転がり込むことが度々増えるようになる。(この外泊がのちに火種になることも知らず)彼氏の家は神奈川にある学生寮。幾度も寮母さんの目をかいくぐり侵入していたのが今では懐かしい。こうして私の半東京半神奈川の生活は1年半ほど続く。

しかし、そんな半東京半神奈川の生活は前途多難だった。九州女児の母が、ヨソの男の家に外泊するなんて!と、愛娘の外泊を許さなかったのだ。九州女児の娘としては、母のお言葉よりも自分の安住が大事で、あまり聞く耳は持たなかった。この頃の私の口癖は「精神衛生上」だった気がする。

それでも母が大事な愛娘は、母の言いつけを守ろうとするときもあった。自分で縛りを設けて強制的に自分をイエに帰らせるという作戦を立てたのだ。具体的には、イエの近所のファミレスでバイトを始め、終電がなくなるようにシフトを組み、私の”天国の家”(=彼氏の家)に帰れないようにすること。つまり、退路を断つのだ。

そんな健気な少女の目論見も悲しく、本当に本当に家に帰るのが嫌で、終電もお金もない中、7km先の神奈川にある”天国の家”まで1時間半かけて歩いて帰る羽目になる。しかも一度や二度じゃない。


だけど、自分が自由を手に入れるために起こす行動はとても爽やかで晴れ晴れとしていた。

グーグルマップが指す道に街灯が2つ3つしかなくても、
急こう配の坂道に視界が覆われて絶望を感じたときも、
登り切ったと思ったら降り出した夏の小雨も、

どんな時もずっとずっと心臓はドキドキで、瞳は喜々と輝いていた。

県境に一人ウキウキしながら越えた多摩川も、
景気づけにセブンで買った冷製コーンスープをパウチからストローで飲むときも、
この路地を曲がれば見覚えのある大通りに出る!と思ったら、茂みをくぐらされたことも、

今思い出しても私の中でキラキラと仕舞われている。

たとえ、更に姉妹仲が冷え込んだとしてもかまわなかった。大好きな家族を敵に回しても、自分が信じる道をすすむ。

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大好きな人を敵に回す、そんなときがあなたにも訪れるかもしれない。
それでもあなたが本当にすすみたい道なら、すすんでいいと思う。
その時の景色がかけがえのないものであるということは約束する。

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そうして家族の了承を得られないまま、自分の信じる道を歩み続けた私は、第二の住処を神奈川から東京・目黒に移すという過程を経、(この頃は既に一大田・九目黒生活だった。もはや帰っていない。)

昨年の春ようやく私の住処はたった1つになった。

社会人になることをきっかけに、今の家に正式に住民票を移した。(親からも半ば押し切りの形だが了承を得た。)私にとって上京して5つ目の家。


だけど、「帰りたい」と思えるはじめての私の家。
なんのしがらみもなく暮らせる幸せを噛み締めている。

書いてみて思ったが、とんでもない道のりであった。自分の人生なのだから、自分が思う幸せは、自分でつかみ取っていい。そう感じて、改めて過去の自分に感謝する。

#はじめて借りたあの部屋

私のお腹と人生の肥やしにします。 あなたのサポートで今後もミーハー業が続けられそうです^^