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Startup Story: NFTブランド"RTFKT" - GFR Fundが出資してNikeに買収されるまで(3/ NFT&買収編)

デジタルスニーカーへのシフト

[2/11追記] 1/28にClubhouseにてRTFKTについて取り上げましたので、こちらのPodcastも併せてお聞きください。

(1/ 出会い編はこちら、2/ 投資編はこちら)RTFKTのメンバーはsocial mediaでコンテンツをviralさせるのが本当にうまく、例えば以下のTiktok上のビデオは(リンクはこちら)2,600万viewsぐらいあります。

RTFKTのTiktokビデオ

他にも、テスラがCybertruckを発表した後は、Cybertruckをテーマにしたデジタルスニーカーを勝手に作り(これはその後、NFTとして販売)、既製の写真を合成してElon MuskがそのCybertruckスニーカーを履いているように見せた写真を作って、インスタに載せたりしてます(以下の写真、ぎりぎりアウトな気もするが、、、)。

デジタルスニーカーのマーケットプレイスアプリが出来上がらない中、RTFKTはChrisを中心に、デジタルスニーカーをデザインしてインスタやTiktokでviralさせる、ということを繰り返し行います。

NFTローンチ

デジタルスニーカーをNFTにして売る、というのは誰のアイデアだったかは定かではありません。RTFKTのファウンダーとは月に1回の定例コールをしていたのですが、2020年8月か9月頃に、最初にそういう話があった様に記憶しています。もしかしたらクリプトに早くから投資をしていた、もう一社の投資家 Galaxy Interactiveからのアドバイスだったのかも知れません。

いずれにせよ、これまでデジタルスニーカーは数多くデザインしてきたので、NFTとして売れるコンテンツはたくさんあります。最初のNFTドロップは、上でも触れた、テスラのCybertruckに模した"Cybersneaker"でした。これを2020年10月(ちょうどNBATopShotがローンチした頃です)にNFTアートの販売プラットフォームであるSuperRare上でローンチします(リンク)。オークション形式だったのですが、なんといきなり30 ETH、当時のETHの価格で$11,357(約120万円)、現在のレート($2,500/ETH)では$75,000(約800万円)で落札されました。

SuperRareでドロップされたRTFKTのCybersneaker

翌月には同じSuperRare上で、今度はゲーム機のSony Playstation 5をテーマにした"PS5 Sneaker"をドロップします(リンク)。こちらは4.2 ETH、当時のレートで$2,588(約30万円)で落札されました。

クリエイターとのコラボ

この2つのNFTドロップを皮切りに、様々なNFTのプラットフォームでデジタルスニーカーの販売を始めます。そして、キーワードの1つは前回触れたクリエイターとの協業でした。その第一弾はデザイナー @mgxs_co と組んだ"The X"で、本作品はMetaGrailという、これまた違ったプラットフォーム(リンク)で、2020年11月にドロップが行われました。ビデオを見て頂くと分かりますが、AIを使って白いキャンパス上で模様が変わるのがポイントになってます。こちらは22 ETH(現在のレートで$55,000、約600万円)で落札されています。

2021年に入ってもその流れは止まりません。これはクリエイターとの協業案件ではないですが、ゲーマー向けパソコンメーカー NZXT社とのパートナーシップ案件で、同社が新しく販売するデスクトップパソコンに模したスニーカーをデザインし、2021年1月に発表します(これは販売はなし)。冒頭のTiktokのビデオがそうで、NZXT社関係者によれば、これはプロダクトマーケティングとしては大成功だった様です。

こういった取り組みが1つの完成系を見せたのが、1回目のnoteで記載した、2021年2月に販売後7分で$3.1Mを販売したというあのデジタルスニーカーです。実はこれもクリエイターとのコラボ案件で、そのデザイナーは @fewcious という17歳の少年でした(下のビデオに出てくる男の子)。

この金額はさすがにRTFKTチームも想定していなかった様ですが、金額の多寡は置いておいて、実はこの少年にまつわる逸話があります。彼はアメリカのLas Vegasに住んでいる普通の少年なんですが、家庭の事情で家を出ざるを得ない状況に追い込まれていて、ただお金もなかったので、これまではそれも実現できず、ただ昔から絵が描くのが好きでずっーっと書いていたそうです。

これまでは描いた絵を売る手段もなく(名前が知れた画家という訳でもないので画廊で売ることもできない)、NFTという技術とRTFKTとのコラボによって初めて自分のデザインを他人に売ることができたと、そして手にしたお金で漸く家を出て、自分の居場所を見つけた、と、まさにNFTが彼の人生を良い方向に変えた訳ですね。このように、NFTの大きなメリットの1つは、これまで、伝統的な芸術の世界では全く相手にされることがなかった新しいタイプのクリエイター達(以下のBeepleが良い例ですね)にマネタイズの方法を与えたことだと思います。

a16zからの出資オファー

ちょうどこの頃、このfewciousデザインのデジタルスニーカーを販売した2021年頭頃、まだ手元のキャッシュは秋頃まであったのですが、早めに動くということで資金調達の準備を進めていました。ただ、大きな金額をレイズするのではなく、$2~3Mの少額を既存投資家、及びお金以上の価値を提供できるNFTアーティスト、インフルエンサーといったエンジェル投資家を中心に調達する予定でした。そのため、まだ投資家向け資料すら用意しておらず、興味がありそうな投資家とZoomで会話をしていたタイミングでした。

そこで現れたのがa16zです。僕が知っている限りでは、a16zには我々が紹介したアドバイザー ErosがRTFKTに紹介した様です。タイミングとしては上記のfewcious スニーカー発売の後でもあったので、RTFKTの名前がNFT界隈でも知られた頃でした。RTFKTメンバーによれば、例の如くカジュアルな感じで資料も使わずに担当パートナーの Jonと会話をしたみたいなのですが、すごい興味を持ってくれたらしく、その後、すぐにJonから僕のところに連絡がきます。既存投資家としてのレファレンスですね。

Jonとは他の投資案件で何回か話したことがあったので、RTFKTと会ったきっかけや投資に至った理由、これまでの課題等をフランクに共有しました。その数日後、a16zからタームシートが届き、RTFKTはピッチ資料を作ることもなく、他の投資家と話すこともなく、追加の資金調達を決めることができました(同社の資金調達発表ブログポスト)。我々の投資先の中でも、このようなスピード調達はあまり見たことがなく、実はタームシートにサインした後の、投資家達のアロケーション(投資枠)の取り合いの方が大変だったのですが、RTFKTにとっては時間を掛けずに資金調達をできたのは良いことでした。

ポスト上でGFRは"godfathers"と紹介されてます

RTFKT Cryptopunk Project

RTFKTがsocial media上でviralityを作るのかがいかにうまいかを示すもう1つのプロジェクトがRTFKT Cryptopunk Projectです。これはCryptopunk(Cryptopunkについてはpodcastを一緒にやっているHike Ventures安田さんのこちらのnoteをご覧ください)のオーナー向けに(Cryptopunkは合計で1万体しかありません)、そのオーナーが保有するCryptopunkの顔に模したNFTデジタルスニーカーと、フィジカルスニーカーの両方を特別に無償で提供する、というものです(mintをしなければいけないのでガス代は発生)。

上のビデオをご覧頂くと分かりますが、本当に1足1足が違います。下のtweetsが実際に届いた人からの投稿です。このプロジェクトの発表後、一時的にCryptopunkの価格も上昇しました。

Clubhouse事件

その後、RTFKTは著名なアーティスト 村上隆氏と組んでProject Akiraのコード名でCloneXというアバタープロジェクトを立ち上げる訳ですが、それに至るまでにちょっとした裏話があります。

やや話は脱線しますが、2020年夏、ちょうどコロナが始まって数ヶ月経った頃、アメリカで頑張っている数人の日本人起業家にzoomで会いました。僕にも何かできることはないかと考えて、facebook上で以下のように発表・公募をしてprivate slack channelを立ち上げました。現時点では10名弱のメンバーがそのslackに入っており、各々のニーズ、リクエストに応じて様々な相談に載っています。

2020年夏のfacebookへの投稿

その中の一人に、海藻テックのスタートアップで、和菓子ブランドも手掛けるMisaky TokyoをLAで立ち上げた三木アリッサさんという方がいます。ちょうど昨年5月頭に「筒井さん、助けてくださ〜い!」と電話が掛かってきて、何事かと思って話してみると、Clubhouseクリエイターの最終候補に選ばれて、近々公開オーディションを行うので、ゲストに招く面白いスタートアップを紹介してほしい!、というお願いでした。ちょっと考えた後、RTFKTが面白いだろう、ということでファウンダー達に連絡をしてみたら、ぜひやりたい!ということだったので、トントン拍子でRTFKTとアリッサさんとのClubhouseコラボが実現しました。

その恩返し?ということもあって、アリッサさんがRTFKTにForbes Japanの記者を紹介してくれ、電話インタビューを経て、その方が記事にしてくれたのがこちらです。

前置きが長くなりましたが、この日本語のForbes Japanの記事をたまたま村上隆さんがご覧になり、興味を持ってRTFKTに連絡があったというのが切っ掛けでした。そう、なのでアリッサさんなしにはこのCloneXのローンチはなかった訳です(その後、彼女も晴れてClubhouseの最初のクリエイター40名の一人に選ばれたので、お互いハッピーな結果でした)。

※後日談として、アリッサさん曰く、この村上隆さんとRTFKTを繋げた裏の立役者の方がいらっしゃるらしいのですが、ここではお名前も含め、割愛をさせて頂きます。

Takashi Murakami & CloneX

このCloneXローンチの準備には相当な時間を掛けていました。恐らく夏頃から本格的な準備をし始め(以下インスタ投稿は2021年8月)、

そして公にサイトを公開したのは2021年11月末でした。

このCloneXでは、AIによって自動的に組成された2万体のユニークなアバターがドロップされます。販売は2つのステップに分かれていて、最初の1万体はpre-saleで、これは過去にRTFKTがドロップした何からのNFTアセットを持っている人のみが対象で、価格は0.05 ETH及びガス代のみ。残りの1万体(及びpre-saleで売れ残ったもの)はオークション方式でpublic saleされ、これは最低価格が 3 ETH(現在のレートで約$7,500、約80万円)とやや割高でした。

実は、その人気の高さからpublic saleの当日はサーバーが攻撃され、ダウンしてしまい、買いたいのに買えなかったユーザーからかなりの文句が出る、という残念なことが起こります。その背景には、そもそも3 ETHと最低価格が高かったり、過去のRTKFTのNFTアセットも、CloneX発表後、価格が高騰して(いずれも100万円以上)、普通のユーザーでは買えず、不満が溜まっていた、というのもあったと思います。

現時点でも、Openseaで見るFloor Priceは約 7 ETH(約$17,000 or 200万円)なので、決して安くはありません。この辺はまだまだ業界全体の課題ですね。

OpenseaのClone Xのページ

Nikeによる買収

RTFKTのメンバーが常々言っていたのは、万が一、RTFKTが買収されるのであれば、それはNikeでないとダメで、それ以外の買収オファーは受け付けないと。なので、Nikeから買収オファーがあった時は本当に嬉しかったのだと思います。

実は買収オファーがあったのは暫く前で、その交渉にはすごく時間を掛けてました(もしくは時間が掛かってしまった)。ただ、ここは書けないことが多すぎて、ちょっと詳細な内容は割愛します。

ただ、このNikeという伝統的、ある意味、現在のブランドを代表する会社が、ポッと出のNFTのデジタルファッションの会社を買った、という事実が業界に与える影響はとても大きいと思います。NFT、ブロックチェーンという、一見如何わしい技術とそのスタートアップを、あのNikeが買った訳ですから。

RTFKTの今後

通常、スタートアップが大きな会社に買収されると、途端にスピードが落ちたり、もしくはこれまで計画していたことができなくなったりするのですが、RTFKTに関しては、全く心配はいらないようです。12月末に新しい試みとして、各アバターが属する部屋みたいな位置付けの Space Podを立ち上げます。というか、Clone Xを持っているユーザーに、1体に対して1つのSpace Podをクリスマスプレゼントとして無料でドロップします。

ユーザーはその”部屋”に自分のNFTコレクションを飾ったり、VRで楽しんだり、といったことができるようになります。また、それだけでなく、以下のtweetsで記載があるように、今年に入ってもマルチプレイヤー化、アバターの3D化等々を着々と進める予定で、既にマイルストーンも明らかにしています。

デジタルスニーカーとして始まったRTFKTですが、今は3Dアバターやその部屋空間というプロダクトをローンチし、徐々にメタバースにその土台を築き始めています。3人のRTFKTの創業クリエイターの中には明確なプロダクトビジョンがまだあり、それに向けて前進を続けているので、Nikeに買収された後であっても、彼らが作るプロダクトや世界観はまだまだ楽しみですね。

長い間、読んで頂きまして、ありがとうございました。本編を持って、3部作のStartup Story: RTFKT は終わりとなります。

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