見出し画像

Startup Story: NFTブランド"RTFKT" - GFR Fundが出資してNikeに買収されるまで(1/ 出会い編)

Startup Story: RTFKT

[2/11追記] 1/28にClubhouseにてRTFKTについて取り上げましたので、こちらのPodcastも併せてお聞きください。

久しぶりのStartup StoryはNFTブランドのRTFKT(”アーティーファクト”と発音)を取り上げます。同社の名前が知られるようになったのは昨年2月末にNFTとして売り出した600足のデジタルスニーカーが発売後7分で総額 $3.1M(約3.5億円)も売れたニュースからだと思います。投資先をサポートする観点で私もその時に一足買いました。余り知られていないのは、そのデジタルスニーカーを最初にRTFKTから買った人は本当に履けるスニーカーが付いてくることで、冒頭の写真は半年後に送られてきた本物のスニーカーになります。

その本物のスニーカーも、実際に大手スニーカーマーケットプレイスであるStockXとかで取引されており、最後に取引された時は$7,500(約80万円)、現在の価格は$21,500(約230万円)で売りに出されています。

StockXで販売されているRTFKTのスニーカー

その後、様々なNFTプロジェクトを立ち上げて、最終的には昨年12月にNikeにより買収されました。NFTという市場が立ち上がる中、まさに彗星のように現れ、その波に乗って急成長し、最後は伝統的なブランドであるNikeに買収、とNFTのトレンドを象徴するようなスタートアップだったと思います。

GFR FundはそのRTFKTがまだ始まる前、3人のファウンダーがコンセプトを考え始めている時に出会い、出資を決め、会社設立のサポートをし、他の投資家を探し、と創業時から深く関わってきました。買収後、様々な方から出会いの切っ掛けや投資に至った経緯などを聞かれるので、今回のnoteではそれらを取り上げてみたいと思います。

E3でのミーティング(2019年6月)

最初にRTFKTのメンバーとzoomで話したのは一緒にやっている古森でした。彼が懇意にしている他の投資家から紹介を受け、その後、「筒井さん、良く分からないんですが、めちゃくちゃ面白そうなので、取り敢えずLAで出張に行った時に会ってみてください」と。ちょうど翌月(2019年6月)に毎年LAで行われている、大きなゲーム系カンファレンス E3(The Electronic Entertainment Expoの略)があり、前からE3に行く予定だったのですが、ちょうどRTFKTのメンバーも何人かがE3に来るというので、連絡をとって会ってみることにしました。

マーケティングの天才 Benoit(フランス人)

最初に会ったのは3人のco-foundersの一人、Benoit("ベンワ"と発音)でした。彼はフランス人で、E3には当時、勤めていたFnatic(ロンドンにある、ヨーロッパを代表するeSports teamの1つ)のBrand Directorとして参加していました。E3は通常、LAのほぼど真ん中にある、巨大なイベント施設Staples Center(昨年11月にシンガポールのクリプト取引所 Crypto.comが命名権を購入し、Crypto.com Arenaに改称)で行われます。会場内は余り座るところもなく、落ち着いてミーティングができないので、通常、周りのホテルのロビーやラウンジでミーティングが行われます。Benoitと会ったのもそんな近くのホテルロビーにあるバーカウンターでした。

Benoitは熱いタイプの人間で、そのカウンターで、フランス語訛りのある英語で熱く語ってくれた当時のRTFKTのビジョンはこんな感じでした。

ー オフラインとオンラインでハイエンドのプレミアスニカーブランド
ー オフラインから始め、Nikeのスニーカーをベースに限定のカスタマイズスニーカーを作り、複数の価格帯で販売
ー IGを使い、様々なデザインをテストし、ニーズがあるもののみ製作
ー ユーザーが買ったときに3Dのデジタルスニーカーが一緒に付いてきて、social media等で拡散、または販売もできるようにする
ー デジタルスニーカーの販売はブロックチェーンを使って行う 

筒井ミーティングメモの日本語要約

今、読み返してみると、当時からかなり現在の形に近いイメージを描いていたことが分かるのは驚きです。スニーカーを売買するというのは当時から既にStockXやGOATというマーケットプレイスがあったので、真新しいアイデアではないのですが、このデジタルスニーカーというコンセプトは面白かったです。ユーザーがデジタルスニーカーを買うという行為は当時、BenoitがFnaticで色々なマーチャンダイジングを手掛ける中で気づいたトレンドだったという話でした(以下はTwitterで出会いのきっかけ等を書いたもの)。

多分、1時間ぐらい話したでしょうか、次のミーティングがあるので切り上げなければいけなかったのですが、終わり際にBenoitから、もう一人のco-founderのZaptioが来ているから会って欲しいと言われ、面白かったので会ってみることにしました。というか、Zaptio?と聞き返すと、Benoitからは、ああ、Zaptioはハンドル名で本当の名前はStevenだと。彼らとのやり取りは絶えずこんな感じで、いまいち素性が良く分からず、良い意味でデジタルネイティブなのかもしれません。

RTFKTの3人のco-founders

スニーカー職人 Zaptio(イギリス人)

Zaptioとは翌日、これまた会場近くの違うホテルのレストランで会うことができました。Benoitはそれでもまだ会社勤め経験のある、ゲーム業界に良くいそうないでたちで現れたのですが、Zaptio、というかStevenはひょろっとした頼りない感じの青年でした。多分、年齢も20代前半か半ばだと思います。ただ彼の話は非常に面白かったです。彼はイギリス出身で、高校生の頃からスニーカーが大好きで、他の人からオーダーを受け、カスタマイズのスニーカーを作って売るビジネスをずっとやっていたそうです(下の写真はZaptioのインスタから。2013年頃の作品)。

そう、スニーカー、というかRTFKTのアイデアは元々Zaptioがオリジナルで、現に彼は"RTFKT Limited"という名前の会社をE3前の2019年始めにイギリスで設立をしていました。またロンドンには彼がディレクターを勤めるスニーカー工房があり、そこで10名ぐらいのメンバーが既にカスタマイズスニーカーの制作に従事していました。Zaptioはデジタルマーケティングにも詳しく、インスタなどのsocial mediaを使ってユーザーとのコミュニケーションを取るというのも得意でした。ただ、BenoitにしてもZaptioにしても3Dでのデザインはできません。それを補ったのが3人目のco-foundersであるChrisでした。

[2/18 訂正] その後、Benoitの話によれば、RTFKTの(デジタルスニーカーの)アイデアはFnatic時代に仕事上で知り合ったBenoitとChrisが二人で思い付いたアイデアで、その後、オフラインスニーカーも作ろうという話になり、BenoitがZaptioを誘って3人で始めることになった、とのことでした。

天才3Dクリエイター Chris(アメリカ人)

Chrisは3人の中で唯一、アメリカにいるco-founderなのですが、結局はLAから戻った後、zoomで話したのが初めての出会いでした。Chrisはユタ州のSalt Lake City出身のアジア系アメリカ人で、今でもそこに住んでいるので、ベイエリアに来ることは殆どありません。

Steam上のChrisのサイト

ChrisはゲームプラットフォームであるSteamの世界ではとても名が知れた3Dデザイナーで、ClegFXというハンドル名で、主にCounter-Strikeというシューティングゲーム向けのデジタルアイテムをデザインしては販売する、ということを長年やっていたようです。本人もスニーカーが大好きで、上のイメージを見れば分かりますが、ゲームのアイテム等を模したデジタルスニーカーをデザインして公開する、といったことをやってました。

3人がどうやって出会ったのか、聞いた気もしますが、明確な記憶がありません。確かゲームコミュニティーの中で出会ったということだったと思います。とにかく陽気な3人で、キャラも性格も違いますが、3人それぞれが持つスキルと経験が、まさにRTFKTのビジョンを実現するには不可欠で、面白いチームだな、というのが第一印象でした。以下がBenoit, Zaptioと会った直後に僕がチーム残したインターナルメモです。何はともあれ面白いと思ったので、もう少し調べてみよう、という趣旨です。

A founding team has the right experiences and expertise. Digital clothing is a new, emerging market. Not sure how big it is going to be, and how big RTFKT can scale as they are not a platform but a "digital brand". That said, I think it's very interesting and want to move to the diligence process.

筒井メモの抜粋

Digital Fashionの兆し

デジタルファッションというコンセプトはRTFKTが初めてだったかというと、実はそうではありません。恐らく最初にそれを大々的にやったのはノルウェーでは良く知られているCarlingsというファッションリテールチェーンだと思います。彼らはユニクロみたいな店舗で、元々はジーンズを売る店舗として1980年代にスタートし、今は独自ブランドも展開しています。従来はeコマースを全くやっていなかった同社が、eコマースを強化するために思いついた面白いアイデアは、完全にデジタルの洋服を売ろう、というアイデアでした(下が立ち上げた時の同社インスタ)。

そうやって2018年秋に実験的にサイトをオープン、1つの洋服が約1,000円〜3,000円程度の安価なものでした。ユーザーが購入した後にセルフィー写真を送ると、その写真に買った洋服を着せたイメージを送り返してくれる、というものすごいマニュアル対応で、数ヶ月やったのち、今はサイト自体をクローズしています。投資のdue dligenceの一環で当時のCarlings社 担当者と話をしたのですが、とにかく手間が掛かるので最終的には止めた、とのことでした。

ただ、その動きは2019年前半に徐々に広まっていったようで、2019年5月にはデジタルで作られた洋服が$9,500(約100万円)で販売されたことがニュースとなりました(チャリティーオークションなので、完全な商用ではないです)。ちょうどゲームのFortnite(Fortniteやその開発会社 Epic Gamesについてはこちらをご覧ください)上でNikeがスキンとしてスニーカー等を売り出し始めたのも同じ2019年5月頃でした。

そのような流れを受けて、様々なメディアにてVirtual Fashin / Digital Fashionについて取り上げられたのもその頃です。

ただ、日本で昔からアメーバピグとかあつ森とかをプレーしていれば、ゲーム内でキャラクターに着せる洋服とかを買うのは当たり前にしてましたよね?ただ、その流れがゲーム以外の領域どう広まっていくのか、そもそも広まるのか、というのがその時のテーマでした。

RTFKT = Video Games + Street Fashion < Digial 

RTFKTが面白かったのは、そのビデオゲームとストリートファッションという2つのカルチャーを、デジタルの世界で融合させようとしていた点でした。当時、デジタルファッションはアートの世界が中心で、一方でゲームで売られるアイテムは、当然のことながらゲームの中で完結していました。

デジタルスニーカーという概念は、ゲーマー層とストリートファッションが好きな層、両方のコアユーザーの興味を掻き立てる面白いコンセプトでした。そして、2つの層は恐らくかなり重なっており、熱いファンコミュニティーが生まれる素地がありました。実際、Zaptioがリードする形でインスタにRTFKTアカウントを作り、2019年春頃から様々なコンセプトビデオ(以下ビデオに写っているのがZaptio)を発表し、いずれも10万〜30万PVとなっています。

E3でのパートナーシップ発表

RTFKTの2019年のE3での様子

実は、僕もこれは後から知ったのですが、RTFKTは2019年のE3で、eSportsチームのFaZe Clanと、ブロックチェーンをベースにしたデジタルスキンのマーケットプレイス WAXと共にデジタルスニーカーのeコマースサイト立ち上げを発表しています(以下が特集記事)。

元々の予定は、このWAXから出資を受け、というか子会社のような形となり、WAXの一機能、一部門としてデジタルスニーカーのマーケットプレイスを立ち上げる予定だったようです。ただ、せっかくやるのであれば、独自ブランドで、独立したスタートアップとしてやりたい、ということで外部投資家による資金調達を模索しており、GFR Fundはそんなタイミングでチームと会った訳です。

2019年6月にE3でBenoit & Zaptioに会った後、何回かのフォローアップコールと、due dligenceの結果、GFR Fund内での意思決定を7月中旬に行います。次のセクション(リンクはこちら)ではその投資委員会の様子をご紹介します。

*この記事が面白いと思われたら↓Twitter↓でのシェアをお願いします!*

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?