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Startup Story [short]: Epic Games - Fortniteはどの様にしてできたのか?

Startup Story: Epic Games

今週、人気ゲームFortniteを開発するEpic GamesがApple(とGoogle)を提訴したことが世界中の話題になり、日本でもそのニュースを見聞きした人は多いと思います。その訴訟の内容や、そもそも訴訟が起きた経緯等は今回は取り上げないので、以下の記事やtweetsをご覧ください(下記の宮武さんのtweetsは業界関係者にとってはめちゃくちゃ面白いのですが、背景等を知らない方にはやや専門的すぎるかもです)。

このEpic Gamesという会社はゲーム業界では幅広く知られていますが、ゲーム業界以外では殆ど知られてない会社だと思います。元々は数々の人気PC/コンソールゲームに加え、ゲーム制作ツールであるUnreal Engineで業界では名前が通った会社でした。それが一般にも名前を知られる様になったのはFortniteというバトルロイヤルゲームが出てきてからだと思います。Epic Gamesという名前は知らないけど、Fortniteというゲームは知っている、聞いたことある、という人はいるかと思います。先月、ソニーが同社に$250M(約270億円)を投資した事で話題になりましたが、同社は未上場でありながら、これまでに$3.4Bn(約3,700億円)を調達し、直近の企業価値は$17Bn(約2兆円)と、任天堂(約6.5兆円)には及びませんが、ネクソン(約2.3兆円)に匹敵し、バンダイナムコ(約1.4兆円)を軽く超えます。今回はそんなEpic Gamesを見てきたいと思います。

[3/24追記] 筆者がClubhouse上で毎週(日本時間の毎週土曜朝、SF時間の毎週金曜夕方)、開催している「シリコンバレーVCトーク」の2/26の回でEpic Gamesを取り上げました。以下がそれをPodcastとして収録したものになります。

Founder: Tim Sweeney

Epic Gamesの創業は古く1991年まで遡ります。FounderはTim SweeneyというUSのMaryland州(USの首都 Washington DCの北に位置する州)の田舎生まれの機械好きの少年でした。1970年生まれのTimは幼い頃からものを分解したり、組み立てたりするのが大好きで、5歳の頃には芝刈り機を分解し、ゆくゆくはそこから電動スケートボードを作って遊んでいたそうです。父親が防衛省の関連会社で地図分析に従事しており、その様な技術屋の血を受け継いだのかもしれません(下記の写真はKotakuの記事より)。

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1980年代はUSにてアーケードゲームが流行った時代なので、ご多分に漏れずTimもアーケードゲームに触れます。ただ、他の子供が単にゲームをプレーするだけなのに比べて、Timの場合は更にアーケードの機械を分解して中身を調べたり、自らゲームを作ったりします。1977年にAtari社から発売が開始された世界初の家庭用ゲーム機、Atari 2600を親が買ってくれた後もいくつかゲームをやりましたが、彼の興味は常にゲームを作る事だったそうです。

Timが11歳の時、兄が父親に家庭用パソコンの先駆けであるApple IIをプレゼントし、そこからTimのプログラミングが始まります。ゲームがどの様に動いているかを自分で分析し、やり方を学び、そこから様々なコードを見ては、より良い方法を自ら考えていったそうです。誰も学ぶ人がいないので、全て独学、当時はレアだったオンラインの掲示板で多くの時間を過ごした様です。

小中高と地元の学校に通ったのち、大学も地元のUniversity of Marylandに進学し、機械工学を学びます。ただ、興味は常にコンピューターにあった様で、在学中の1991年にITコンサルティングを行うPotomac Computer Systemsを立ち上げます。しかし、同社は事業はうまく行かず、Timは他のビジネスを考え始めます。

最初のゲーム(+制作ツール):ZZT

大学に入ったのを切っ掛けにTimの父親がIBM Personal Compter AT (PC/AT)を買ってくれました。Apple IIではまだパソコンは黎明期過ぎましたが、IBM PC/ATが出た頃には徐々にソフトウェア/ゲームを販売するというビジネスが成り立ちつつありました。そこでTimはPC/ATを使ってパソコン向けにゲームを制作・販売することを考えます。ただ、ゲームを作るにはまずはゲームを作るツールが必要だったので、まずはその制作ツールから作り始めたのですが、その過程でこのゲームを作るツール自体を”ゲーム”として売り出せば良いのだ、というアイデアに辿り着きます。

そうしてできたのが、最初の作品ZZTでした。1991年10月、Timが21歳の時です。興味深いのは、この最初の時点で後にUnreal Engineを開発・販売する原型となる、ゲーム制作ツールを外部に提供する、という考え方が現れている点です。ZZTはまずはTimの大学の友人達の間で話題となり、その反応を見てTimはZZTを他のユーザーに売り出すことを考えます。これが想定以上に売れたので、Timは本格的にビデオゲームを制作することを考えます。

Epic MegaGames

ビデオゲーム会社を始めるに当たって、Timは会社名をEpic MegaGamesに変更します。理由は”きちんとしたゲーム会社”に聞こえるから、という単純なものでした。2作目の作品はもう少しグラフィクスを用いたJill of the Jungleという、女性を主人公とし、スーパーマリオの様な横スクロールのゲームで、1992年に発売されています(一説によればTimは1985年に発売されたスーパーマリオそのものからヒントを得たという話も)。これが1日に20~30本も売れ、当時のPCゲームとしてはかなりのヒットでした。

そこからTimは本格的に人材を集め、数々のPC向けビデオゲームを作り始めます。アクションRPGゲームのSolar Winds(1993年発売)、横スクロールアクションゲームのJazz Jackrabbit(1994年発売)、Fire Fightというシューティングゲーム(1996年発売)等々。そして、競合他社 id Softwareが制作したきれいな3DのシューティングゲームDoomに魅せられ、Epicでも1994年頃からDoomに対抗する3Dのゲームを作り始めます。それが、1998年に発売されたUnrealです。そして、このゲームを作るためにTimが2年半を掛けて、一人で作った制作ツール、ゲームエンジンがUnreal Engineでした。

このUnrealはその綺麗なグラフィックスやゲームプレイにより、当時、PCゲームで人気が出てきたジャンル、ファーストパーソンシューティング(First Person Shooing or FPS)で人気タイトルの1つとなります。それだけでなく、元々Unreal EngineはEpicの社内で使う開発ツールとしてTimが作ったのですが、その綺麗なグラフィックスを見た他のゲーム会社から連絡が相次ぎ、Unreal Engineの技術をライセンスすることも始めます。ここにEpicの原型が出来上がります。Unreal Engineの技術を他社でライセンスすることで資金を調達し、それを新しいゲームの開発資金に当てるというモデルです。

Epic Gamesへの社名変更&オフィス移転

Unreal発売の翌年1999年2月、社名をもっとシンプルなEpic Gamesに変更すると共に、オフィスをTimの地元であるMarylandから更に南のNorth Carolinaに移転します。この頃までにEpicは社員50名程の規模となってましたが、エンジニアが世界中に散らばっていた為、全ての社員を1つのオフィスに集めることが目的でした。その後、このNorth Carolinaを拠点に数々のゲームを作っていきます。

この間、Epicにとって大きな決断の1つは、これまでは一貫してPC向けのゲームを作っていた訳ですが、2006年にMicrosoftのXbox 360向けとして、同社初となるコンソールゲーム Gears of Warを発表します。ジャンルとしてはシューティングで、これはXbox 360向け全タイトルの中でも6番目に売れた程の商業的成功を収めます。更に、Unreal EngineもPCゲームだけでなく、コンソールゲームが制作できる様に対応させ、それをUnreal Engine 3.0として他社向けに提供を始めました。この変更により、Unreal Engineの裾野を広げ、同エンジンがゲーム業界で更に普及する切っ掛けとなりました。

Tencentによる投資/買収

EpicがPC/コンソール向けゲームを作り続ける中、ゲーム業界は大きく変わってきていました。1つはスマホという新しいゲームプラットフォームの台頭です。Clubhouseの時に取り上げた様に2008年にはiPhoneのApp Storeが第三者に公開され、2011年頃には新しいスマホゲームの会社が急成長していました。もう1つはビジネスモデルの変遷です。これまでゲームの売り方はソフトウェアをパッケージ化して、それを一定金額で販売するのが基本でした。それがスマホの台頭や技術の進化により、最初ゲームを購入する時はただですが、ゲームの中で課金すると言った方法が出てきました。業界用語ではFreemium or free-to-playと呼ばれる手法です。Timは当時、その様な新しいゲーム提供の仕方を"game as a service"と呼んでいたそうです。

その新しい動きに対応する為、Epicは当時、海の向こう側で急速に存在感を現し始めていた中国のTencentから出資を受けることを決めます。こうして、2012年6月 Epicの40%の持分と引き換えに、$330M(約350億円)の出資を受け入れました。そう、これまた余り知られていないのですが、実はUSの会社であるEpic Gamesは中国のTencentが40%を握る、同社の関連会社なのです。その後のEpicの追加資金調達によって、Tencentの持分は更に希薄化しているとは思いますが、それでもまだ30%強は保有しているのではないでしょうか。TencentはEpic Games以外にも、League of Legendsを運営するRiot Gamesも完全買収していますし、それ以外にも世界中の様々なゲーム会社を買収・出資しています。

Fortniteの成功

話をEpicに戻します。Fortniteというゲームは、実は2011年にはEpicが開発予定のゲームとして発表しています(以下ビデオは2011年の発表時のもの)。そこから開発を始める訳ですが、社内的な事情やTencentの関与等々から開発は常に遅れ気味だったそうです。初期の頃のメインの開発はポーランドのゲーム会社であるPeople Can Fly社によって行われました。同社は元々は独立した会社でしたが、2007年にEpicが同社の過半数を買い取り、2012年には完全子会社化しています。余談ですが、友人であるヨーロッパのゲーム投資家が2012年頃にこのFortniteを開発中のPeople Can Fly社を訪問し、当時のFortniteのデモを見る機会があったそうです。その後、Fortniteがこの様なヒットになるかどうかは当時は全く分からず、あの時投資しておけば良かった、と笑いながら話していました。

紆余曲折もありながら、Forniteはなんとか2017年7月にPC(Windows & Mac)及びコンソール(プレステ & Xbox)向けにアーリーアクセスとして発売が開始されます。正式タイトル名は Fortnite: Save the World面白いのは、最初にリリースされたFortniteは恐らく読者の方がご存知の今のFortniteではない点です。最初にリリースされたForniteはシューティングゲームではありましたが、バトルロイヤルではありませんでした。

バトルロイヤルという、特定の場所で最後の生き残りを掛けてプレイヤー同士が闘うスタイルはForniteが最初ではなく、恐らくPlayerUnknown's Battlegrounds(略してPUBG、パブジーと発音)という別のシューティングゲームが確立させたスタイルでした。因みに、このバトルロイヤル、という言葉自体は30歳代以上の方であれば分かるかもしれませんが、1999年に高見広春氏によって書かれた小説「バトル・ロワイアル」が語源になっています(日本外では、同小説を元に映画化され、2000年に公開された「バトル・ロワイアル」によって普及)。

上記のPUBGが公開されたのは2017年3月で、瞬く間に人気が出ているのを見たEpicは、このFornite: Save the Worldsのバトルロイヤル版である、Fornite Battle Royalを2017年9月に発売開始します。そう、こっちの方が皆さんがよく知るForniteですね。実は発売開始されてからまだ3年程度しか経っていないのです。にも関わらず、ここまで社会現象化し、話題となり、子供も大人も夢中になっているのは驚きです。

今後の可能性:新たなSocial Network

Fortniteの成功は財務的に大きくEpicに寄与しました。Venturebeatの記事によれば、Epic Gamesの2019年の売上は$4.2Bn(約4,600億円)、EBITDAは$730M(約800億円)、2020年は売上は$5.0Bn(約5,500億円)、EBITDAは$1.0Bn(約1,100億円)に達する見込みとのこと。未上場企業でありながら、驚異的な数字及び利益率です。コロナの影響もあり、この4月だけで$400M(約440億円)の売上だったそうです。

このForniteの成功により、これまでも優良ゲーム会社だったEpic Gamesは更なる上のステージに行きます。2018年10月にはKleiner PerkinsやLightspeed Venturesと言った名だたるVCから$1.3Bn(約1,500億円)を調達(企業価値 $15Bn(約1.7兆円))、そして直近ではソニーや他の投資家から追加で$1.8Bn(約2,000億円)を追加調達し、直近の企業価値は$17Bn(約2兆円)に達します。

Appleと真っ向から戦えるのも、ここまで成功してきた自信と、Tencentやソニーを含む投資家のバックアップと、今でも物凄い勢いでお金を生んでいるForniteの成功、と言ったものがEpic Gamesにあるからだと思います。Fortniteは単なるゲームという枠を超え、特に若い世代がアバターを使ってたむろするバーチャル空間、新たなSocial Networkになっています。今年4月にFortnite内部で開催されたアーティストTravis Scottのバーチャルライブは累計で2,700万人が参加しました。日本でも今月頭に米津玄師がフォートナイト上で無料ライブを実施したことは記憶に新しいかと思います。Epic Gamesはそういう意味で、この10年間、従来のSocial Networkとして成功してきたFacebookやTwitter等に匹敵する程の影響力のある会社になる可能性を持っており、今後ゲームがどの様にインターネットに影響を与えていくのか、その新しい世界を切り拓いていく先駆者と言っても過言ではないかもしれません。

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