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Startup Story: NFTブランド"RTFKT" - GFR Fundが出資してNikeに買収されるまで(2/ 投資編)

白熱?した投資委員会

[2/11追記] 1/28にClubhouseにてRTFKTについて取り上げましたので、こちらのPodcastも併せてお聞きください。

(前回(1/ 出会い編)はこちら。冒頭の写真は、前回投稿のフィジカルスニーカーのデジタル版)GFR Fundでの投資委員会自体は2019年7月12日に開催されました。E3でRTFKTのメンバーと会ってから約1ヶ月後です。日本からの参加者もいるので、基本はZoomでの開催です。”白熱”とタイトルには書きましたが、実は複数案件の議論をする中でRTFKTに割く時間があまりなくなってしまい、最後は駆け足で説明したことを覚えています。そして、時間がないのもあってか、もしくは直感的に皆が面白いと思ったのか(雰囲気的にはこっちでした)、大きな反対意見も出ず、やろう!、という意見に纏まりました。

以下が投資委員会資料で議論をしたRTFKTの主な投資テーマと、考えうるリスクの抜粋です。投資テーマのほとんどは前回のnoteで触れていますね。

投資テーマ
①デジタルファッションという新しいトレンド
②バランスの取れた創業チーム
③リーズナブルなバリュエーション
リスク
①エグゼキューション/プロダクトリスク
②リーダーシップリスク

投資委員会資料からの抜粋

上記にはないですが、今思えば潜在的にプラスに考えていたのは、既にあったインスタを中心とする熱いコミュニティーの存在です。ゼロからの立ち上げではありますが、そのビジョンに共感する人たちが多くいたことはその方向性に可能性があることを示していました(以下のインスタのビデオは25万ビューを達成)。

エグゼキューション/プロダクトリスク

ここで読んで戴いている皆さんに理解を頂きたいのは、シードステージでの投資というのはこういうパターンが殆どです。売上なんてもってのほか、プロダクトらしいプロダクトもなく、本当にマクロの市場トレンド、どういう方向に物事が流れているのか、という大きな流れと、創業チームに賭ける部分が大きい投資になります。なので結果、大きく当たるケースもありますが、多くのケースでは外れます。

創業時のRTFKTの投資家向けスライド

リスクの一番にエグゼキューション/プロダクトリスクを挙げているのはそのためになります。いかに面白い3人組と言えどもプロダクトと呼ベるようなものは何もないので(例えばアプリなのかウェブサイトなのか、どこでフィジカル、デジタルスニーカーを販売するのか、決済とかはどうするのか?等々)、まずはそれを作れるのか、仮に作れた場合、そのプロダクトがユーザー、コミュニティーに受け入れられるのか(Product-Market Fitと呼ばれるもの)、等々はまさにこれから検証が必要です(下記ビデオはRTFKTが2019年のE3で発表したAR sneakeer eCommerce プロダクトデモ)。

しかも彼がやろうとしているのはフィジカルスニーカーの販売、デジタルスニーカーの販売、それらを売買するマーケットプレイス等々、結構、複雑で、1つ1つでも大変なのに、それを全て同時並行で進めるのは相当難易度が高いという印象でした。

ブロックチェーン/NFTとCTO

もう1つ、ここまで読んで頂いて気付いた方も多いと思いますが、RTFKTの最初のストーリーの中には全くNFTの文字が出てきません。創業当時は彼らはフィジカルスニーカーを主軸としたビジネスを考えていたため、それはやや後回しでした。ただ、デジタルスニーカーの販売やマーケットプレイスの構築にはブロックチェーンを用いることを当時から考えていました。

その為にスカウトされたのが、4人目のメンバー、CTOとして入るSamuelでした。彼はイスラエル在住のシリアルアントレプレナーで、Benoitの昔からの知り合いです。Samuelは最初はパートタイムとして入り、フルタイムでjoinするのは少し後となります。その分、このマーケットプレイスの構築は遅れます。が、結果的にそれが良かったのかもしれません。その点は後述します。

リーダーシップリスク

もう1つ不安を感じていたのは、この3人のco-foundersはすごくフラットな関係で、誰が3人の中でリーダーシップを発揮していくのがやや不透明なところでした。元々のアイデアの軸であるZaptioは一番若く20代、BenoitとChrisは30代なので、Zaptioはポジション上、CEOとなっていますが、優しい性格もあり、残り二人を引っ張っていくタイプではありません。一番、良く話すのはBenoitで、結局、彼が投資家へのピッチを行うのですが、通常、VCはCEOと話すのに慣れているため、Benoit(しかもタイトルもco-founderのみ)がピッチをするのに違和感を感じていたろうと思います。

また、基本3人ともクリエイター気質で様々なアイデアは出すのですが、それらを裏できちんと回していく、実行に移していくCOO的な存在がいないのも不安でした。資金調達後、何人か候補がいたのですが、全て3人のco-foundersとウマが合わずにクビになったりしています。この部分は後々、GFR Fundがサポートをした部分になります

会社設立:Flipping

我々が2019年7月に出資を決めた時には、まだ会社はイギリスにあり、他の投資家も決まっていませんでした。まず最初にしたのはアメリカに会社を設立することでした。今後の資金調達を、アメリカの投資家を中心にやっていくのであれば、アメリカの法人であることは資金調達の無駄なハードルを省きます。アメリカに新たな法人を作って貰い、アメリカ法人を親会社とし、既にあるイギリスの会社を子会社にすることで(これをflippingと呼びます)、既存の資産を移せますし(と言っても殆どなかったですが)、今後の投資/資金調達はアメリカの親会社にしてもらう形を整えました。実はこれが結構な時間が掛かりました。

共同投資家集め

同時並行で進めたのは、GFR Fundと一緒に投資をしてくれる共同投資家集めでした。Co-founders達には調達をしたい目標金額があり、ファンドサイズが小さいGFR Fundでは全額は出せないので、残りの金額を出してくれる投資家が必要でした。RTFKTのビジョンを分かってくれそうなゲーム系、B2C系で仲の良いファンドに以下のようなメールを送って興味の程を聞いてみます。

実際に送ったメールの文面

多分、10~15の投資家にメールをしたと思いますが、残念ながら2019年夏時点で興味を示したのは数社でした。興味を示してくれたファンドの1つがGalaxy Interactiveです。Galaxyは今ではブロックチェーン系のファンドとして名前が知られるようになってますが(カナダの上場アセットマネジメント会社 Galaxy Digitalの一部門。クリプトトークンの1つであるEOSの資金をベースにしたGalaxy EOS VC Fundも運用)、当時は始まったばかりでした。確か他のVCの紹介で知り合い、最初の顔合わせのzoom meetingの時に今、どういう会社を見ているか、という会話の中でRTFKTの話をしたところ、興味があるというので紹介をしました。

そして、結局そのGalaxyが残りの金額を出すこととなり、漸くRTFKTメンバーが目標としていた金額が集まりました。それが大体、2019年の8月ぐらいだったのですが、そこから会社のflippingや投資契約やらで時間が掛かり、結局、全てがクロージングしたのは10月末でした。

RTFKTスタート(2020年1月)

良くメディアなどでRTFKTのスタートは2020年1月と記載がありますが、ちょっとずれがあるのは(アメリカ親会社が設立され、お金が着金したのは10月末)、その当時 ZaptioとChrisはフルタイムでやっていましたが、Benoitが前職のFnaticを辞め、正式にRTFKTにjoinしたのは2020年1月という経緯がある為です。

2020年2月に筒井が訪問したロンドンのRTFKTスニーカースタジオ

当初はフィジカルスニーカーを軸に考えていたこともあり、彼らはまずZaptioのスニーカースタジオがあったロンドンに拠点を作りました。コロナが始まる直前の2020年2月にヨーロッパ出張に行った僕は、ロンドンまで足を伸ばし、そのスタジオを見に行き、チームとも会ってきました(この時、初めてco-founderの最後の一人、Chrisとface to faceで会うことができました)。

スニーカーを組み立てる作業場

そこはオフィス兼スニーカーを作る作業場みたいなところで、様々なデザインツールや、スニーカーに貼り付ける革、3Dプリンター等が並んでいて、総勢15名程度のメンバーが、忙しく動き回ってました。

テストで作ったRTFKTのロゴ

そのチームの様子を見て、成功の確信を深め、たまたま前回ラウンドで残っていた投資枠(事業会社向け等に少し枠を取っておいていた)を全てGFR Fundで投資をさせて欲しいという交渉をし、同じバリュエーションで追加出資を行いました。結果的にこれは正しい判断でした。

COO採用

VCは投資後、様々なサポートをします。我々がまずサポートをしたのはリクルーティングでした。大きかったのはCOOです。これは2020年を通じて探していて、RTFKTメンバーが見つけた候補も何人かおり、僕もその候補の一人をインタビューするためにLAに出張に行ったり等をしていたのですが、最終的にはGFR Fundのアドバイザーとして、数年間一緒にやっていたNikhilを紹介したのがハマり、彼が正式にフルタイムのCOOとして2021年頭に参画しました。Nikhilはその前、数社の創業に関わり、常にCFO/COO的な役割を担ってきたので、スキル的にはピッタリで、さらにブロックチェーンにも詳しく、今後RTFKTがNFTを取り組んでいくには最適な人材でした。年齢もco-founders3人と近く、好きなゲームも一緒だったというのもプラスでした。

そして、Nikhilの参画はGFR Fund側にも大きなメリットがありました。前述の通り、RTFKTのファウンダーはアイデアは色々と出てきて、複数のプロジェクトが同時並行で動いているのですが、投資家としてその状況をトラックするのがかなり大変でした。Nikhilが入ったことにより、それを裏できちんと把握できるようになりましたし、入ってみたら想像通りぐちゃぐちゃだったバックオフィスがNikhilのお陰でかなり整備されました。恐らく彼がいなければ、その後のNikeの厳しい買収 due diligenceに耐えられなかったと思います。

アドバイザーの紹介

もう一人、いたら良いなと思っていたのは、RTFKTの3人のfirst time foundersに対し、事業をスケールさせた経験のある人間にプロダクトやgrowth strategyの手ほどきをしてもらうことでした。我々のネットワークの中にまさにピッタリの人がいて、グリーUSで元同僚だったErosはOpenFeint(2011年にグリーが買収したモバイルゲームプラットフォーム)やグリーUSにてゲームプラットフォーム拡大の責任者だっただけでなく、その後は創業直後のDiscordに加わり、Chief Marketing Officerとして同社の成長を支えた人間でした。

幸い、ErosとRTFKTのco-foundersのウマもあったので彼にはRTFKTのアドバイザーとして入ってもらい、定期的なミーティング等を通じて様々なアドバイスをして貰いました。結果的にErosも自分のファンドからRTFKTに出資することになります。

開発会社の紹介

また前述の通り、CTOの参画が遅れていたので、チームの判断により、デジタルスニーカーを売買するマーケットプレイスのアプリは外注することを決めました。この時、アプリの主機能としてAR(Augmented Reality、拡張現実)を使ったスニーカーの試着を想定していたので、AR技術に優れ、且つ受託で開発を行ってくれるところを探しました。GFR Fundの過去に会ったスタートアップを洗い出し、候補として出てきた3~4社に当たって、そのような開発ができるカナダの会社をなんとか探し出すことができました。

が、結局その開発自体は失敗に終わります。双方のコミュニケーションがもつれてしまい、開発が遅れに遅れ、且つ想定と違うものができ、半年ぐらい掛けて作ったものは結局、リリースには至りませんでした。

コロナと戦略シフト

2020年を通じて、RTFKTは①パートナーシップ(様々なゲーム企業やリテールブランド、eSportsチームとの提携による独自スニーカーの企画)、②DTCサイトの立ち上げ(主にフィジカルスニーカー用)、③スニーカースタジオの安定稼働(受注したものを納期通り制作)、④デジタルスニーカーのマーケットプレイスアプリ、の4つを同時並行で立ち上げることを模索していました。例えば①ではゲームストリーミングサイトのTwitchや、ゲーム会社のEA等と組んだスニーカーの制作を行なっています。

そんな中、2020年春にコロナが世界中をヒットし、RTFKTも戦略の変更を余儀なくされます。1つはデジタルスニーカーへの完全シフトです。やはりコロナの中で安定的に大量のカスタムスニーカーを作り続けるのはサプライチェーンの観点でも労働環境という観点でも厳しく、フィジカルスニーカーは一旦、フォーカスから外そう、となりました。

もう1つは大手ゲーム会社やIP、ブランドとのパートナーシップではなく、クリエイター、特に先進気鋭な3Dクリエイターの発掘・協業です。大手とのパートナーシップの協議はコロナの影響もあってか本当に時間がかかり、ただ一方でRTFKTはsocial mediaを中心にファン層を拡大し続けており、その中で、自分にもデジタルスニーカーのデザインをさせて欲しい、というリクエストが多く来ていたようで、それをちゃんと取り上げてみよう、と。

この2つの大きな戦略シフトを行ったのが2020年秋頃で、そこからNFTへ急速に舵を切ることになります。続きは次のnoteにて。

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