見出し画像

よく眠る羊はアイドルの夢を見ない。

「最近、よく眠れてますか?」

先生は優しい声で言った。

「いえ……あまり」

「そうですか。前回出した薬は飲んでいますか?」

「はい」

いや、飲む時と飲まない時がある。

飲んでも頭がぼんやりするだけで、眠りが来てくれないのだ。

「リオさん、少し運動不足なのかもしれません。ウォーキングでもいいので、1日30分くらい少し汗ばむ程度の運動をしてください」

「はい」

私はメガネ越しに目を細める先生をしばらく見つめ、自動的に返事をした。

私は週に3度のダンストレーニングと1度のボイストレーニングを数時間ずつしている。

それじゃ足りないのだろうか。

それとも私が日本人だから言葉が通じないと思っているのだろうか。

そう、私は韓国にいる。

なぜ、私は韓国に来たのだろう。

なぜ、あの時、ママは止めてくれなかったのだろう。

なぜ、事務所は何も言ってくれないのだろう。

なぜ、1年半もカムバックできていないのだろう。

なのになぜ、オーディション番組に出てはいけないのだろう。

なぜ、GFRIENDもLovelysも7年契約の壁を超えられなかったのだろう。

なぜ、韓国は週に6日も音楽番組をやるのだろう。

活動休止中のアイドルが毎晩、音楽番組を見る気持ちを誰か想像した人はいるのだろうか。

なぜ、ママは「あなたはMステ出ないの?」なんてこと言うのだろう。

2019年まで毎年100組以上もデビューしていたKPOPガールズグループ。

彼女たちの大部分は今どこで何をしているのだろう。

どんな気持ちで日々をやり過ごせばいいのだろう。

なぜ目が覚めて携帯を開くといつもSNSが騒がしいのだろう。

「そっか、リオさんはあまり気軽に散歩はできないかな」

なぜ、そんな無意味な言葉を投げかけるのだろう。

なぜ、あんなに輝いてた人が命を絶ったのだろう。

なぜ、笑顔が顔に張り付いて取れないのだろう。

なぜ、私はアイドルになったのだろう。

なぜ、私はここにいるのだろう。

なぜ、私は生きているのだろう。

なぜ、私は夢を見るのだろう。

私は眠りたい。

泥のように深く眠りたい。

羊のように深く眠りたい。

夢なんか見ないように。


よく眠る羊はアイドルの夢を見ない。 1話  

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?