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「天気の子」レビュー〜少年少女の「生きる力」に揺さぶられ、クリエイター魂に追悼したあの日

新海監督の新作「すずめの戸締まり」を明日観る。
前作から3年以上も経った。

今だからこそあの時感じたままに書いたレビューをそのままに。

やっぱりクリエイター魂を全身に感じた日になった。

あの日は2019年7月20日。
3年前の誕生日の日だった。

映画「天気の子」レビュー

オープンした池袋キュープラザの日本最大IMAXで鑑賞。激込み!

3年以上前から企画して、今年の異例の梅雨長期化を見越していたのならば、まさしく、新海監督が「天気の子」。仕掛け人川村元気と共に、やはりまだまだ彼らはもっている。ずっと梅雨で苛立ちを感じていたが、映画の展開とシンクロして、晴れろー、晴れたー!の喜びと解放感、カタルシスを素直に感じる。そして池袋の劇場を出た時の朝方の梅雨空が嘘のような日差しになっていて目眩。やはり彼らはもっている。

私は「君の名は」を奇跡の映画と絶賛しているのだけど、最初から期待値を上げずに観たので「君の名は」のような心の奥底がぐわーっと掴まれる感覚は無いものの、存分に本作も楽しんだ。

脚本がイマイチ、主人公に共感できない、等の声も多いが、やはり新海監督作品は映画的醍醐味に満ちている。新宿や池袋の表から裏通りまでの精細な描写は観ていて、現実との地続き感(しかも天気は梅雨の間の晴れ間だし)が何とも心地よく、そして相変わらず、さあ、始まるよ!というRADWIMPSの楽曲たちが今回も素晴らしく、心奪われる。今回は三浦透子さんという力強く天高く響き渡るのようなボーカルにギュンと揺さぶられ、他に合唱パートでの高揚感も素晴らしい。

主人公2人の造形や表情、感情溢れる声の演技も素晴らしかった。小栗旬の低いボイスもまた渋くていい。本田翼のTHE本田翼の声も、分かりやすく男子大好き色っぽいナイスバディ夏美さんの画的魅力と相まって、跳ねた魅力となっている。

だけども、やっぱりどうしても「君の名は」の練られた脚本に較べて、天気を変えられる少女一本で引っ張るには作劇的に感動に導くのは難しいのではなかろうか。ポイントポイント、1シーン1シーンでの絵的魅力と音楽の力で心は持っていかれるが、なんというか、ブツ切れ感や唐突感があり、「君の名は」の時にあった後半巻き込まれていくグルーブ感を感じるとことまでは至らなかった。

あの大ヒットの後だからこその方程式をなぞらえ過ぎて、作為が作為として見え過ぎている点も、RADWIMPSとのコラボも含め、「狙い」を私たち観客は知ってしまっている厳しさはあるかもしれない。

そうは言ってもやはり新海監督の映像、特に雨一粒一粒に至るまでの繊細な表現とビルに反射し、射し込む太陽光の美しさ、2020直前の東京の活写、そこに疾走する全力少年少女2人のエネルギッシュな「生きる力」「活きる力」。たとえ、世界を敵に回しても、自身の求めに殉ずるという、こんな世の中だから自分の好きに生きようという振り切り方、いや、嫌いじゃない。

というか、もう未来に、世の中に、社会に、連鎖する悲劇的な事件に、、希望を夢を持とうったって見えづらい今、自分の愛する、愛おしい、大好きなものに振り切って生きていくしかないじゃないか!だって、世の中に忖度したって、こんなに当てにできないこと無いんだから!と開き直った新海監督の暴走に私はどこか共感してしまうのだ。本作のテーマでもあろう自己中心性の純粋さを愚かと突き放すことができない。

まさか、4日前に日本最大IMAXで観ようと満席間近のチケットを予約した時には、鑑賞前日にこんなことが起こるとは考えもしなかった。あまりに哀しくも許されざる事件(京都アニメーション放火事件)に深く哀悼の意を捧げながらも、こんなにもアニメーションの力を、クリエイターの想いを、それを受け取る観客の想いを、様々な感情の混濁の中、受け止める映画鑑賞も無かったことと思う。

以前、私は新海監督の事務所兼スタジオにお邪魔したことがあるのだけど、営業担当の方と話しながら、奥のデスクで黙々と机で作業しているアニメーター達の声もかけられないような没頭ぶりに、一枚の画を仕上げるまでにどれだけの労力を費やすのだろうかと思いを馳せた記憶がある。

今はとにかく祈るしかないのだけど、今、アニメファンやクリエイターのみならず、一人一人の潜在意識を越え、深い悲しみの底で共通意識で繋がっている。微かな光を見出したいという切なる願いを抱いて。

賛否どちらに転がろうとも、この作品を観て、何かを心の奥に感じることはあろうと思う。余韻に満ちた音楽に乗って、エンドクレジットに並ぶ無数のクリエイター達の名前を観ながら、そう思った。

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