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「黒猫」

前文-終わらない道に延々と毛をふりまいて逃げた。 Aは立ち止まって息づいた。白い呼気の悪臭が鼻頭に立ちこめてむせる。猫はいつの間にか消えていた。癖になる口の香りを何度も上に吐き確認していると、沿道を一周してきた黒猫が背後から迫ってくるのが小さな呼吸音でわかった。猫も荒い息を夜に漏らして、必死で走っていた。Aは、今度は、猫から逃げなければならない思いに駆られた。

    • 簡易エッセイ「やっぱり彼女は完璧だ」

      やっぱり彼女は完璧だ。  私よりも知っている。 やっぱり彼女は完璧だ。  都会のキャッチに動じない。 やっぱり彼女は完璧だ。  短いスカート姿が見たい日に、長いスカートをはいてくる。 やっぱり彼女は完璧だ。  私が誘うまで、いちごん発せず待っててくれる。 やっぱり彼女は完璧だ。  長い髪を、甘い香りで満たしておいてくれる。 やっぱり彼女は完璧だ。  高いヒールで、よろめいてくれる。 やっぱり彼女は完璧だ。  届きそうで届かぬ距離でいてくれる。 やっぱり彼女は完璧

      • 「黒猫」

        前文-これがなんともおかしい動きであった。 いずれ猫は、後ろのきちがいじみた人間におののいて駆った。Aは空中に向けられていた意識を再び地に戻し、公園の沿道をぐるぐると回りはじめた猫に連れて走りだした。Aの走力をもってしても一向に追いつけない猫の尾っぽは暗闇に魅惑としてAを牽引し続けたものの、息が切れる寸前にさしかかったAを置いて、終わらない道に延々と毛をふりまいて逃げた。

        • 「黒猫」

          前文-まだ距離を保って尾っぽに付きしたがう 石がしきつめられた道のでこぼこを肉球が拾い集めて歩くのを見ていると、頭の中に霧散した言の葉たちをAも自身の肉厚な手のひらで掴み歩かなければならない気がした。夜十一時のがらんどうな公園で一人、Aは滑稽に踊るようにして他人には見えるはずのない葉っぱを両手たくさんに捕まえてポケットにつめる動作をする。これがなんともおかしい動きであった。

        「黒猫」

          なりゆき五行連載小説「黒猫」

          前文-Aはこれは好奇だと、尻尾を追いかける。 追っかける対象を見つけた脳は、数秒前まで考えを占めていた新しい小説の書き出しを忘れ、ひたすらに暗い毛並みを闇にぼやかしながら四足歩行する猫を捕らえることだけに向けられている。この不吉なようでいて幸運な黒猫さえつかまえられれば、言葉の本質まで同時につかめそうだと直感したのであるからAは、より慎重に、まだ距離を保って尾っぽに付きしたがう。

          なりゆき五行連載小説「黒猫」

          なりゆき五行連載小説「黒猫」

          歩く描写から始まる物語にうんざりしている私は、今まさに歩いている…。夏の夜長を散歩に出掛けたAは小説の書き出しを頭で反芻した。陳腐な言葉とは袂を分かったはずのAは未だに素直な表現ができないでいる。すると、公園の草むらから黒猫がやってきて、Aの五メートル前をのろい足取りで先導しだした。Aはこれは好奇だと、猫嫌いを忘れて尻尾を追いかける。

          なりゆき五行連載小説「黒猫」

          蛇「きまちしお」

          きょうおつがいたいひをえらばんとし またのなをぬしといふ ちをすくうものはひとのあらわれたよなり しばにぬれるいみのはらばい おぬしはへびか

          蛇「きまちしお」

          超短歌「最澄」

          明くる日は、朝。夜中の月はまだこうこうと。 うずたかい鉄塔の紅白が、港の始まりをはたとさとす。 遠くの空などないはずなのに、奥にそびえる暁のほのか。 静かにひらけるは、ある日の明澄。

          超短歌「最澄」

          四月八日(金)上方青空、下方一円積乱雲。ひもねす和順な天候。仕事終わり、リビングでの母の話を抜粋。占いについて物申す様子。「未来がわかってしまうのは嫌だ。だって頑張らなくなってしまうから」私の記憶によると、パンドラの箱の最後に秘められた危険な魅惑は、未来を完全に知る能力であった…

          四月八日(金)上方青空、下方一円積乱雲。ひもねす和順な天候。仕事終わり、リビングでの母の話を抜粋。占いについて物申す様子。「未来がわかってしまうのは嫌だ。だって頑張らなくなってしまうから」私の記憶によると、パンドラの箱の最後に秘められた危険な魅惑は、未来を完全に知る能力であった…

          四月六日(水)晴れ。うららかな日。休日で、朝数行ほど執筆し、午後は昼寝。夜動画を見ていたら腑に落ちるものを発見した。新R25チャンネルの成田悠輔の回である。創作する身としては耳に痛いナイスアドバイスで、再び、他者の目を考慮しない創作姿勢に立ち返れる予感。この日記はその記念として。

          四月六日(水)晴れ。うららかな日。休日で、朝数行ほど執筆し、午後は昼寝。夜動画を見ていたら腑に落ちるものを発見した。新R25チャンネルの成田悠輔の回である。創作する身としては耳に痛いナイスアドバイスで、再び、他者の目を考慮しない創作姿勢に立ち返れる予感。この日記はその記念として。

          四月五日(火)雨のち曇り。冬を抜けきりたい風が必死に喘いでいた。完全なる春はまだ来ない。朝、仕事に行って、帰って、寝る。この繰り返しが生きがいになると正月のみくじの裏には書いてあった。確かにそうかもしれない。しかし、私は何がしたいのか。一文字も進まない小説はぽつんと待ちぼうけ。

          四月五日(火)雨のち曇り。冬を抜けきりたい風が必死に喘いでいた。完全なる春はまだ来ない。朝、仕事に行って、帰って、寝る。この繰り返しが生きがいになると正月のみくじの裏には書いてあった。確かにそうかもしれない。しかし、私は何がしたいのか。一文字も進まない小説はぽつんと待ちぼうけ。

          三月二十三日(水)朝から晴れ時々曇りで、暮れ頃に浄化雨。雨の粒が細かく気持ちよい。我が肉体を散歩をさせながら音楽を静聴し身体を整調。先日卒論が届いたので、随時抜粋して章ごとにノートに掲載する予定。論文とは名ばかりの、ただの個人的感想に終始した独りよがりの語り草。どうぞご堪能あれ。

          三月二十三日(水)朝から晴れ時々曇りで、暮れ頃に浄化雨。雨の粒が細かく気持ちよい。我が肉体を散歩をさせながら音楽を静聴し身体を整調。先日卒論が届いたので、随時抜粋して章ごとにノートに掲載する予定。論文とは名ばかりの、ただの個人的感想に終始した独りよがりの語り草。どうぞご堪能あれ。

          三月二〇日(日)晴のち曇り。桜はまだ芽吹いていない、彼岸の季節である。人々はささいな郷愁的余暇を楽しんで、故人をおもう。同時に、「私」を告げる。エゴとアイの両が満たせる最高の機会こそ墓参りであるまいか。私は愉快であった、彼らが心の内で生活の雑事や思い出を墓碑に語りやまない後ろ姿が

          三月二〇日(日)晴のち曇り。桜はまだ芽吹いていない、彼岸の季節である。人々はささいな郷愁的余暇を楽しんで、故人をおもう。同時に、「私」を告げる。エゴとアイの両が満たせる最高の機会こそ墓参りであるまいか。私は愉快であった、彼らが心の内で生活の雑事や思い出を墓碑に語りやまない後ろ姿が

          ふと思った事の呟き。本を誰かに紹介する主眼で読んでいると、どうも素直に本当の意味で本を読んでいる気がしない。いちいちそれらしい言葉に引っかかって、メモをして、を繰り返していると、すんなり読書ができない。やはり私は何も考えずに一冊を一気に読み進めるのが好きだ。そして紹介は嫌いである

          ふと思った事の呟き。本を誰かに紹介する主眼で読んでいると、どうも素直に本当の意味で本を読んでいる気がしない。いちいちそれらしい言葉に引っかかって、メモをして、を繰り返していると、すんなり読書ができない。やはり私は何も考えずに一冊を一気に読み進めるのが好きだ。そして紹介は嫌いである

          三月十九日(土)雨模様だが、雨は降らず、薄寒い。この四日ほどたいした用もないので日記にはしなかった。家で本を読んだり、長編の執筆をしたりしている。今ヒトラー関係の本を読みあさっている。マキャベリも。そういうわけで本日マキャベリの本を探しに行ったはずが、目に付いたこの二冊を購入。

          三月十九日(土)雨模様だが、雨は降らず、薄寒い。この四日ほどたいした用もないので日記にはしなかった。家で本を読んだり、長編の執筆をしたりしている。今ヒトラー関係の本を読みあさっている。マキャベリも。そういうわけで本日マキャベリの本を探しに行ったはずが、目に付いたこの二冊を購入。

          三月十五日。晴れ。あたたかい。正午に起きて、午後は妹の初運転の付き添い。出先で写真立を二つ買う。所在の難しかった二枚の絵の居場所を無事に確保できた。嬉しいので珍しく、写真を載せておくことにする。帰宅して先日紙に執筆した短編小説をパソコンに写して投稿。ちなみに私、執筆は鉛筆かペン。

          三月十五日。晴れ。あたたかい。正午に起きて、午後は妹の初運転の付き添い。出先で写真立を二つ買う。所在の難しかった二枚の絵の居場所を無事に確保できた。嬉しいので珍しく、写真を載せておくことにする。帰宅して先日紙に執筆した短編小説をパソコンに写して投稿。ちなみに私、執筆は鉛筆かペン。