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【超絶傑作】Netflixで『三度目の殺人』観ましたー。(ネタバレあり)


はじめに&あらすじ(ネタバレあり)

 Netflixで福山雅治さん主演、是枝裕和監督の『三度目の殺人』鑑賞完了しましたー。他にも役所広司さん吉田鋼太郎さん、広瀬すずさん、斉藤由貴さんなど豪華俳優陣出演の本作。
 ずっと前から気になっていたのですが、観た人々の評価があまり良くなかったので、優先順位を下げて積み映画しておりました。

 実際、家族と視聴してみたところ、どうやら役所広司さんが一度殺人を犯した人物で、出所後真面目に工場で働いていたけれど、勤務先の工場長を撲殺する形で再度殺人を犯し、その弁護を福山雅治さんが担当するお話のようでした。
 福山さんは死刑回避のため最善最良を尽くして弁護しますが、公判の途中で役所さんが「私は人殺しなどしていない!」と、それまでの弁論を覆す主張を展開し、強盗の故意と量刑を争点にしていたはずが犯人性を問題にし始めます

 そのせいで、裁判官の心証は地に落ち、役所さんは死刑判決を下されます。不合理的な変節は、苦し紛れの嘘と反省なき責任逃れとみなされたゆえの極刑判決でした。
 役所さんが一転して翻意したのは、役所さんが殺害した被害者にその娘である広瀬すずさんが強姦されていた証言をさせてつらい思いをさせないためだ、と福山さんは予想し、その旨を面会に行って役所さんに尋ねますが、どうやら違うようなことを仄めされて、映画は終わります。

 この作品は何が言いたかったのでしょうか。そもそも、誰が犯人で、その動機はなんだったのか、など曖昧なまま暈して終わってしまった感じがしたので、「この映画って結局何が言いたかったんだろう。単純に、日本の刑事司法は調書主義で一度認めた自白は覆せないし、裁判官は事件の真実などに興味はなく、自分が出世するために多く事件を裁くという訴訟経済しか頭にないってことかな?」と、感想を述べたところ、一緒に鑑賞していた母親に30分に渡る解説をされて衝撃を受けましたので、その記録を綴りたいと思ってしまいました。

個人的な評価

ストーリー  A+
脚本     A
構成・演出  A
俳優     S
思想     S
音楽     A
バランス   A
総合     S

S→人生に深く刻まれる満足
A→大変に感動した
B→よかった
C→個人的にイマイチ

解説を聞いて抱いた感想

 結論から言うと、私の母曰く、この映画は『物理現実に生きる普通の自我をもつ人と、脳のフィルターが壊れ他人事を自分事と同じかそれ以上に捉えてしまう人、つまりは精神世界に生きてる人との間の埋まらない溝』を描いた物語であると解釈し説明してくれました。

 表面上の出来事だけを見ていくと、役所広司には殺人の前科があり、勤めていた工場の工場長を何らかの方法で河川敷に呼び出して背後から殴り殺して死体を燃やしました。
 そして、公判にあたっては当初は動機を怨恨としていたものを金銭目的に変えたり、被害者の妻に依頼されたことにしたり、最後は殺人そのものを否定したり、非常に場当たり的で、日によって言うことが変わるいい加減な男としか評価できません。

 しかし、精神的な見方をすると、役所広司は病的に共感力が高い人物で、他人が受けた傷を自分に起きたことのように感じ取れる性質を備えていると見ることができます。目の前にいる人が何を思い、何を考え、何をしてほしいのかが手に取るように分かってしまう人なのです。

 そのため、被害者である父親に強姦される日々を送っていた広瀬すずに強く感情移入し、殺害に至ったと思われます。
 論理的に辻褄が合わなくなるのは、その都度、そのとき近くにいる人の思念や感情に振り回されているからで、自分の意思で物事を決定することができないものと考えられます。

 このように考えると一連の出来事にすべて整合が取れ、役所広司の「私は人殺しなどしていない!」というのは、広瀬すずの父親に対する憎悪の思念が自分を無意識に動かしただけである、という趣旨の発言に受け取れます。
 この精神構造を看破した福山雅治は、最後の面会で役所広司に「あなたは器…?」(自分以外の誰かの意思の入れ物)と問いかけますが、役所広司は惚けて答えませんでしたが、否定もしませんでした

 この映画のタイトル『三度目の殺人』というのは、おそらく役所広司が犯した二件の殺人のほかに、役所広司自身の死刑を殺人と捉えているものと思われます。
 作中で命の理不尽な選別について語られる描写がありますが、きっと是枝監督はその人のことをよく分かってないのに、表面上の出来事とその結果だけ見て理解したつもりになり、他人を裁いている人々に疑問を抱かれているのでしょう。

 とてつもなく深い作品でした。私も母親の解説がなければ、何が言いたいのかよく分からない凡作としてスルーしてしまっていたと思います。
 是枝監督は、普通の人なら気づかず見逃してしまう影に光を当てる名監督としてその名が広く知れ渡っていますが、本作のおかげで最高に好きになりました。次回作が大変に楽しみです。ここまでお読みいただきありがとうございました。


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