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人麻呂が見た「炎」の真実②

東野炎立所見而反見為者月西渡
柿本人麻呂

 前回に続き、人麻呂の有名な短歌の真実に迫ってみます。

この短歌は、阿騎野の冬猟歌の1つです。この冬猟歌は、1つの長歌と4つの短歌がセットになっています。

軽皇子の安騎の野に宿りましし時に柿本朝臣人麻呂の作れる歌

やすみしし わご大君 高照らす 日の皇子 神ながら 神さびせすと 太敷かす 京を置きて 隠口の 泊瀬の山は 真木立つ 荒山道を 石根 禁樹おしなべ 坂鳥の 朝越えまして 玉かぎる 夕さりくれば み雪降る 安騎の大野に 旗すすき 小竹をおしなべ 草枕 旅宿りせす 古念ひて

安騎の野に宿る旅人うち靡き眠も寝らめやも古念ふに
ま草刈る荒野にはあれど黄葉の過ぎにし君が形見ぞと来し
東の野に炎の立つ見えてかへり見すれば月かたぶきぬ
日並皇子の命の馬並めて御猟立たしし時は来向かふ

阿騎野冬猟歌

持統天皇の願い

 軽皇子とは、持統天皇の孫です。持統天皇には草壁皇子という息子がいて、天皇にしたいと強く願っていました。しかし、若くして病死してしまいます。そこで、持統天皇は草壁皇子の息子であり、自分の孫にあたる軽皇子を、なんとしても天皇にしたいと考え、彼女の悲願となりました。
 そこで、柿本人麻呂の力を利用しようと考えました。人麻呂は宮廷歌人です。宮廷歌人の役割は、意思を言葉にして表現することで、言霊の霊力を発動し、意思を現実化することです。持統天皇は、人麻呂を使って自分の悲願を言葉にし、言霊の霊力で願いを叶えようとしたのです。

冬猟歌の意味

 長歌の前半は、若き皇子である軽皇子を讃える言葉が並びます。その皇子が険しい山道を越えて阿騎野の地にやってきた。その地で今は亡き草壁皇子を思い浮かべ、旅人として宿りする。これが長歌の凡その意味です。
短歌の一つ目は、草壁皇子を思うと様々な思いが浮かんできて眠れないという意味です。
 二つ目は、冬枯れた阿騎野を前にすると、かつてこの地で猟をした草壁皇子の姿が浮かんでくるという意味です。
 四つ目の短歌の日並皇子とは軽皇子のことです。朝になり、いよいよ馬を並べて冬猟に向かう時が来たという意味でしょう。

 そこで問題になるのは三つ目の短歌の意味です。この短歌にこそ、宮廷歌人としての人麻呂の策略が表現されています。それは次回にお話しします。お楽しみに。

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