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【シリーズ第62回:36歳でアメリカへ移住した女の話】

 このストーリーは、
 「音楽が暮らしに溶け込んだ町で暮らした~い!!」  
 と言って、36歳でシカゴへ移り住んだ女の話だ。
 前回の話はこちら↓

 「ジョアンナの仕事、引き受けてん。ジミーのバンドは辞めたくないけど、生活せなあかんし」 
 
 ジョアンナ・コナーは、白人の女性ギターリストだ。
 ボニー・レイットが好きなんだろうなぁ・・・というサウンドで、スライドを使ってガンガン弾きまくる。

ジョアンナと言われてもわかるかどうか・・・微妙な似顔絵

 キングストン・マインズや、ハウス・オヴ・ブルースでレギュラーを持つ売れっ子だ。

 ジョアンナからバンドに誘われたのは、レギュラーの仕事が1本になって、1か月が過ぎた頃だった。

 レギュラーメンバーになれば、ジョアンナをメインにギグを受けるので、ジミーのレギュラーをあきらめるしかない。
 ジミー・ジョンソンのバンドは、私のお気に入りなので、ちょっと悲しい・・・とはいえ、私がとやかく言うことではない。
 彼も生きていかねばならぬ。

 ジミーは、75歳でお元気だけど、ツアーの本数は減っている。
 クラブで演奏するのは月に一度だ。
 年越しライヴや、ヨーロッパツアーなど、ビッグペイのイベントはあっても、年に一度だけ。
 これだけでメンバーを拘束することはできない。 

 「ジミーは、”なんでやーっ!”言うてたけど、月に1本で生活できないことは、彼もわかってるから」

 「バディ・ガイのメンバーはレギュラーでしょ?」

 「バディのバンドは月給制やで」

 なるほどー。
 ミュージシャンにも月給制があるとは思わなかった。
 バディ・ガイは、コンサートや、フェスティヴァルがメインだし、ネイムヴァリューもあるので、1本の金額も違うはず。
 バディ・ガイ・レジェンドというブルース・クラブも経営してるので、月給を渡して、ミュージシャンをキープできるのだろう。
 
 さて、ジョアンナのバンドに入ると、もれなく彼も忙しくなった。
 レギュラーのギグに加えて、ツアーも多い。
 多くのツアーは、ジョアンナの車で移動する。
 彼女の車に機材や楽器を積み、大きな男たちと、大きなジョアンナが乗りこむ。 
 ローカルの黒人ミュージシャンにとっては、普通のことなのだろう。 

 忙しくなれば、もちろん稼ぎも増える。
 いつの間にか車も買い替えていた。

 「俺のお金、ここに入れるからな」

 ある日、ソファの下に、お金を隠すことを私に告げた。

 「オッケー」

 「ここが一番安全やと思うねん」

 「冷凍庫に隠す人もいるよねー」

 「それも考えたけど、冷凍庫の方が見つかりやすいで」

 「そうなんやー」

 試されてる??

 私が泥棒になることを考え、全財産を持ち歩いていた男が、私に財産の場所を教える? 
 以前、7百ドルを盗まれた経験から、家の方が安全だと判断したのかもしれない。
 家でお金がなくなれば、犯人は私しかいない。
 隠し場所を教えるか、教えまいか・・・覚悟がいったに違いない。

 7百ドル紛失事件⇩ 

 「(信用するで・・・)」

 他人を信用しない彼から与えられるプレッシャーは、並大抵なものではない。
 ソファをめくっただけでも、バレそう・・・。
 怖いので近付かないことにした。

 これまでとは違う行動はまだまだ続く。

 ある日、彼がジョアンナのバンドで、フロリダへ行った。
 5週間のヨーロッパツアーへ行っても電話をかけてこなかった彼から、電話がかかってきた!

 「インターネットで、俺らのライヴが見れるで!
 キー・ウェストの”グリーン・ペアレット(だったと思う)”ていうクラブで探してみて!」

 「オッケー」

 彼の変化にとまどうが、明るい声を聞くのは嬉しい。
 フロリダのライヴを鑑賞し、私もご機嫌だ。

 数日後、ツアーから戻って来て、私の顔を見た彼が言った。

 「お前、ピアスしてないんや」

 お土産にピアスを買ってきてくれたらしい。

 初プレゼントだ!

 「穴、空ける!」

 「空けんでええやん」

 今さら空けたいわけではないので、素直に同意する。
 
 「これは、日本の絵やと思うねん」

 他にもお土産があった!
 
 B5サイズくらいのアートパネルだ。
 富士山っぽい山が描かれていて、見る角度によって絵柄が変わる。
 レンチキュラーというらしい。
 それが欲しかった物かどうかではなく、”日本=ゆみこ”と思って、買ってきてくれたことが嬉しいではないか!!

 「ありがとー!」

お土産くれたー💛

 ちらりと私の顔を見た彼は、元の不愛想な同居人に戻っていた。

 でも、嬉しいぞ😊
 

最後まで読んでくださってありがとうございます!頂いたサポートは、社会に還元する形で使わせていただきたいと思いまーす!